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意思能力と意思無能力の効果(3条の2)いしのうりょくといしむのうりょくのこうか

民法 第1章 民法の基礎と権利の主体 過去問で26肢

意思能力とは、自分の行為の法的な意味や結果を判断することができる精神的な能力のことで、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効となります(3条の2)。

重い認知症のお年寄りが、訪問販売員に言われるまま高額な契約書に署名したとします。本人は契約の意味も結果もわかっていないので、その契約に縛られるのは不当です。民法は、自分の行為の法的な意味や結果を判断できる精神的な能力を意思能力と呼び、意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効としています(3条の2)。自分の意思で決めたからこそ契約に拘束されるという私的自治の前提を、条文で確かめたものです。

自宅の居間の場面。ぼんやりした表情の高齢の男性(札「意思能力のない本人」)が、スーツの男性(札「販売業者」)に促されて契約書に署名している。契約書の見出しは「売買契約書」。部屋の入口から先生が弁護士役(札「先生」)で入ってきて、吹き出し「契

意思能力は行為の法的な意味や結果を判断する能力で、不法行為で問題になる責任能力とは別の物差しです

意思能力は、法律行為の結果を判断するに足りるだけの精神的な能力をいい、7条以下の「事理を弁識する能力」とほぼ同じ意味で使われます。おおむね7歳から10歳程度の判断能力が目安とされますが、行為の内容が複雑かどうかによっても変わります。これに対し、713条の「自己の行為の責任を弁識する能力」は責任能力と呼ばれ、不法行為の賠償責任を負う前提となる能力です。意思能力を自己の行為の責任を弁識する能力と定義するのは、責任能力の定義を当てはめた誤りです。

意思無能力による無効は、後見開始の審判がなくても主張でき、善意無過失の第三者にも対抗することができます

3条の2の無効は、意思表示をした時に意思能力がなかったという事実から生じるので、家庭裁判所の審判は要りません。意思能力が欠けた状態で契約を締結した者は、後見開始の審判を受けていなくても、その契約の無効を主張することができます。後見開始の審判は、その後の行為を一律に取り消せるようにして、行為の時の意思能力の証明の負担を除く制度で、意思能力の規定とは役割が違います。成年被後見人が意思能力のない状態で契約したときは、行為能力の制限による取消しと意思無能力による無効のどちらを主張してもよいとされています(二重効)。また、93条2項・94条2項・96条3項のような第三者を保護する規定がないので、意思無能力による無効は善意無過失の第三者にも対抗することができます。意思無能力者を保護するための無効なので、無効を主張できるのは意思無能力者の側だけで、相手方からは主張できないとする見解が有力です。

給付を受けた意思無能力者は、現に利益を受けている限度で返還すれば足ります

無効な行為に基づいて給付を受けた者は、原則として相手方を原状に復させる義務を負います(121条の2第1項)。しかし、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負うにとどまります(同条3項)。制限行為能力者と同じ扱いで、判断能力のない者が受け取った金を浪費してしまったときに全額の返還を求めるのは酷だからです。

意思無能力者から直接譲り受けた者は即時取得できませんが、その者からさらに譲り受けた者は即時取得できます

即時取得(192条)は、無権利者から取引行為によって動産を取得した者を守る制度で、取引行為そのものは有効でなければなりません。意思無能力者との取引は無効なので、相手方が意思無能力者であることについて善意無過失でも、直接の譲受人は即時取得できません。他方で、意思無能力者Aから買ったBは無権利者なので、Bからさらに善意無過失で買って現実の引渡しを受けたCは、無権利者からの有効な取引として即時取得でき、Aの側はCに返還を求めることができません。制限行為能力による取消しでも構造は同じで、「未成年者Aがその所有する甲動産をBに売却して現実の引渡しをした後、AB間の売買契約が未成年であることを理由に取り消されたが、その後、Bが、取消しにつき善意無過失のCに甲動産を売却して現実の引渡しをした場合には、Cは、甲動産を即時取得する」という肢(R4 問8 イ)は正しいです。

教室の黒板の前。先生が教師役(札「先生」)で立ち、黒板に横一列の図を描いている。左から「A(意思無能力)」→矢印「売買(無効)」→「B(無権利者)」→矢印「売買・現実の引渡し」→「C(善意無過失)」。Bの下に「即時取得できない」、Cの下に「

婚姻の意思能力の欠如は無効原因となり、連帯債務者の一人が意思無能力でも他の連帯債務者の債務は影響を受けません

婚姻は、人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないときは無効です(742条1号)。婚姻届を作成した時に意思能力がなければ婚姻をする意思もないので無効原因となり、取消原因(744条〜747条)には当たりません。連帯債務者の一人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられません(437条)。契約の時に連帯債務者の一人が意思無能力でも、他の連帯債務者はその者の負担部分について債務を免れません。意思表示は、表意者が通知を発した後に意思能力を喪失しても、そのためにその効力を妨げられません(97条3項)。「契約を解除する旨の意思表示は、その通知の発信から相手方への到達までの間に表意者が意思能力を喪失したときは、その効力を生じない」という肢(R7 問5 イ)は誤りです。これに対し、申込者が申込みの通知を発した後に意思能力を有しない常況にある者となり、相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知ったときは、その申込みは効力を有しません(526条)。意思表示を受けた時に意思能力がなかった相手方に対しては、その意思表示を対抗できない(98条の2)という受領能力の規定もあり、意思表示の到達の語で扱います。

  • 無効の主張後見開始の審判は不要。善意無過失の第三者にも対抗できます(3条の2)
  • 返還の範囲現に利益を受けている限度(121条の2第3項)
  • 即時取得直接の譲受人は不可。その転得者は可(192条)
  • 婚姻無効原因(742条1号)。取消原因ではありません
  • 連帯債務他の連帯債務者の債務は妨げられません(437条)
  • 申込み発信後に意思能力を有しない常況となり相手方が承諾の発信前に知れば効力を有しません(526条)
民法 第3条の2

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

民法 第121条の2第3項

第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

試験ではこう問われる

  1. 意思能力は行為の結果を判断する能力で、自己の行為の責任を弁識する能力(責任能力)とは異なる
  2. 意思能力がない状態でした契約は、後見開始の審判を受けていなくても無効を主張でき、善意無過失の第三者にも対抗できる(3条の2)
  3. 意思無能力者が給付を受けたときは、現に利益を受けている限度で返還すれば足りる(121条の2第3項)
  4. 意思表示の通知を発した後に表意者が意思能力を喪失しても、意思表示は効力を妨げられない(97条3項。R7 問5 イ ×)
  5. 申込みの発信後に申込者が意思能力を有しない常況となり、相手方が承諾の発信前にそれを知ったときは、申込みは効力を有しない(526条)
  6. 直接の譲受人は即時取得できないが、その者から善意無過失で譲り受けた転得者は即時取得できる。未成年を理由とする取消し後の転得者も同じ(192条。R4 問8 イ ○)
  7. 婚姻届作成時の意思無能力は婚姻の無効原因であり、取消原因ではない(742条1号)
  8. 連帯債務者の一人が契約時に意思無能力でも、他の連帯債務者は債務を免れない(437条)

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