即時取得の要件(取引行為・占有の取得方法・善意無過失の推定・対象外の場面)そくじしゅとくのようけん
即時取得とは、取引行為によって平穏かつ公然と動産の占有を始めた者が、前主に処分の権利がないことについて善意無過失であるときに、即時にその動産について行使する権利(所有権・質権)を取得する制度です(192条)。動産の占有を信頼して取引した者を守るためのもので、取引行為が有効であること、占有改定ではない占有の取得があることが要ります。
中古品店で時計を買ったら、実は店主が客から預かっていた物だったとします。動産は登記がないので、買主は売主が持っていることを信じて買うしかありません。持ち主の権利を貫くと、動産の取引は怖くてできなくなります。そこで民法は、取引で動産を手に入れ、売主に権利がないことを知らず知らないことに落ち度もなかった人は、その動産の権利を取得するとしました。ただし、守られるのは取引を信頼した人だけで、取引によらずに手に入れた場合や、取引そのものに問題がある場合は守られません。

即時取得は、前主が無権利者である場合に、取引行為で平穏かつ公然に動産の占有を始めた善意無過失の者を守る制度です
192条は、取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得すると定めています。善意無過失とは、取引の相手方がその動産について無権利者でないと信じ、そう信じることに過失がないことをいいます(最判昭和26年11月27日)。取得するのは所有権と質権で、法律の規定で生じる留置権や先取特権は原則として対象になりません。ただし、不動産賃貸・旅館宿泊・旅客運送の先取特権には192条から195条までが準用される(319条)ので、「不動産の賃貸の先取特権について、即時取得の規定は準用されない」という肢(R7 問12 ウ)は誤りです。即時取得が補うのは前主に処分の権利がないことだけなので、代理人と称する者に代理権がなかった場合は表見代理の問題になり、相手方が代理権を過失なく信じても即時取得は成立しません。
取引行為による占有の取得が要り、相続・遺失物の持ち帰り・立木の伐採は対象外ですが、贈与・消費貸借・強制競売・質権設定は取引行為に当たります
即時取得は取引の安全を守る制度なので、取引行為によって占有を取得した場合に限られます。相続は包括承継で取引行為ではないので、被相続人が預かっていた動産を相続財産と過失なく信じて占有した相続人は即時取得しません。「A所有の甲動産をAから預かっていたBが死亡し、甲動産がBの所有であると過失なく信じているCが、Bを相続し、甲動産の占有を承継した場合には、Cは、甲動産を即時取得する」という肢(R7 問9 イ)は誤りです。他人が置き忘れた物を自分の物と信じて持ち帰ることや、他人の土地の立木を自分の物と信じて伐採することも取引行為ではなく(大判昭和7年5月18日)、持ち帰った者や伐採した者は即時取得しません。一方、贈与・消費貸借(大判昭和9年4月6日)・質権設定は取引行為に当たり、執行債務者の物でない動産が強制競売に付された場合の競落人も即時取得できます(最判昭和42年5月30日)。「A所有の甲動産をBが占有している場合において、Bの債権者Cが甲動産を差し押さえ、競売手続により、甲動産をAが所有していることにつき善意無過失のDが甲動産を買い受けたときは、Dは、甲動産を即時取得することができない」という肢(R4 問8 オ)は誤りです。代物弁済も取引行為に当たり、「A所有の甲動産につき無権利のBが、Cとの間で、Cに対する金銭債務の履行に代えて甲動産の給付をする旨の代物弁済契約をしてCに現実の引渡しをした場合において、CがBの無権利につき善意無過失であるときは、Cは、甲動産を即時取得する」という肢(R4 問8 ア)は正しいです。

取引行為そのものが有効であることが要り、制限行為能力・意思無能力・錯誤などで無効や取消しになった取引の直接の相手方は即時取得しません
即時取得が治すのは前主の無権利だけで、取引行為自体の無効や取消しの原因は治しません。これを認めると制限行為能力者や意思無能力者を保護する規定の意味がなくなるからです。未成年者から買った者は、売買が取り消されれば、未成年であることを善意無過失で知らなくても即時取得を主張できません。意思無能力者から譲り受けた者も即時取得しません。錯誤を理由に取り消された売買の買主も、錯誤がないと過失なく信じていても即時取得しません。盗んだ未成年者からの買主も、親権者が売買を取り消せば、買ってから2年が過ぎていても即時取得できません。無効や取消しになった取引の買主からさらに買った転得者は、前主が無権利者になるので即時取得しえます。「未成年者Aがその所有する甲動産をBに売却して現実の引渡しをした後、AB間の売買契約が未成年であることを理由に取り消されたが、その後、Bが、取消しにつき善意無過失のCに甲動産を売却して現実の引渡しをした場合には、Cは、甲動産を即時取得する」という肢(R4 問8 イ)は正しいです。
占有改定による占有の取得では即時取得は成立しませんが、指図による占有移転では成立します
判例は、無権利者から動産の譲渡を受けた者が192条で所有権を取得するには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるような占有を取得することが必要で、占有状態に外観上の変更がない占有改定による取得では足りないとしています(最判昭和35年2月11日)。占有改定で即時取得を認めると、真の権利者が知らないうちに権利を失ってしまうからです。「A所有の甲動産をAから預かっていたBが、甲動産がBの所有であると過失なく信じているCに対して甲動産を売却し、以後BがCのために引き続き甲動産を保管する意思を表示した場合には、Cは、甲動産を即時取得する」という肢(R7 問9 ア)は誤りです。他方、指図による占有移転は預かっている第三者が関与し占有状態に変化が生じるので、即時取得が成立します(最判昭和57年9月7日)。「A所有の甲動産につき無権利のBがCに甲動産を寄託している場合において、Bが、Bの無権利につき善意無過失のDに甲動産を売却し、Cに対して以後Dのためにこれを占有することを命じ、Cがこれを承諾したときは、Dは、甲動産を即時取得することができない」という肢(R4 問8 ウ)は誤りです。占有改定で取得した者も、後に現実の引渡しを受ければ、その時点の善意無過失で判断されます。
善意無過失は推定されるので即時取得を主張する者は無過失を立証する必要がなく、登録を受けた自動車は対象外です
占有者は善意・平穏・公然の占有が推定され(186条1項)、占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定される(188条)ので、判例は、譲受人が前主を権利者と信じたことについて過失がないことも推定され、譲受人が無過失を立証する必要はないとしています(最判昭和41年6月9日)。ただし、前主が所有者であることに疑いを持っていれば善意とはいえません。善意無過失は占有を始めた時に要るので、契約の時は過失なく信じていても、現実の引渡しを受ける前に前主の無権利を知った買主は即時取得できず、「A所有の甲動産をAから預かっていたBが、甲動産がBの所有であると過失なく信じていたCとの間で甲動産の売買契約を締結した後、Cが、甲動産についてBが無権利であることを知り、甲動産の現実の引渡しを受けた場合には、Cは、甲動産を即時取得することができない」という肢(R7 問9 ウ)は正しいです。訴訟では、即時取得を主張する者は前主との取引行為とそれに基づく引渡しを主張立証し、質権の即時取得なら質権設定の合意と引渡しに加えて被担保債権の発生原因も主張立証します。善意も無過失も主張立証する必要はなく、占有者の権利の推定だけで即時取得を基礎づける事実の主張を省くこともできません。道路運送車両法による登録を受けた自動車は、登録が公示方法なので、登録が抹消されない限り即時取得は適用されません(最判昭和62年4月24日)。登録を抹消された自動車は一般の動産として即時取得の対象になり(最判昭和45年12月4日)、未登録の自動車も同じです。「A所有の未登録の甲自動車につき無権利のBが、Bの無権利につき善意無過失のCに甲自動車を売却して現実の引渡しをした場合には、Cは、甲自動車を即時取得することができない」という肢(R4 問8 エ)は誤りです。
民法 第192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
最判昭和35年2月11日無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らない
試験ではこう問われる
- 相続による占有の承継は取引行為ではなく即時取得しないが、代物弁済・強制競売での買受けは取引行為に当たる(R7 問9 イ ×、R4 問8 ア ○、R4 問8 オ ×)
- 占有改定では即時取得しない(最判昭和35年2月11日。R7 問9 ア ×)が、指図による占有移転ではする(最判昭和57年9月7日は、荷渡指図書に基づく寄託者台帳上の名義変更の事案で即時取得を認めた。R4 問8 ウ ×)
- 取消しになった取引の直接の相手方は即時取得しないが、その者からの善意無過失の転得者は即時取得する(R4 問8 イ ○)
- 善意無過失は占有を始めた時に要り、契約後で引渡し前に悪意になった買主は即時取得しない(R7 問9 ウ ○)。無過失は推定される(最判昭和41年6月9日)
- 法人が代理人によって買った場合の善意無過失は代理人について決まり、代表者が善意無過失でも代理人が悪意なら即時取得しない(101条1項。R4 問5 オ ○)
- 質権も即時取得でき、不動産賃貸の先取特権には即時取得の規定が準用される(319条。R7 問9 エ ○、R7 問12 ウ ×)
- 登録を受けた自動車は対象外だが、未登録・登録抹消の自動車は即時取得の対象になる(最判昭和45年12月4日。R4 問8 エ ×)

