錯誤・遺漏さくごいろう
登記をした時点から登記の内容が実体と食い違っていること(錯誤)と、登記すべき事項が抜け落ちていること(遺漏)です。更正か抹消かの選択と、登記原因として錯誤を書く場面、書かない場面が肢で突かれます。
錯誤・遺漏は、不動産登記法67条が登記官の通知や職権更正の場面で使う言葉で、更正登記が直す誤りの中身です(66条は変更・更正を付記登記でする承諾の要件を定め、この文言はありません)。錯誤は登記の内容が登記の当初から実体と食い違っていること、遺漏は登記すべき事項の一部が抜け落ちていることを指します。登記の後に実体が動いた場合は錯誤ではなく、内容に応じて変更や移転の登記で処理するもので、この区別が更正登記と変更登記の境目です。錯誤が登記の一部にとどまれば更正登記、全部に及んで同一性が保てないときは抹消登記で、申請で直すときの登記原因は「錯誤」です。肢では、錯誤を原因に使う場面と使わない場面、錯誤による抹消の添付情報と税が突かれます。
不動産登記法 第67条第1項登記官は、権利に関する登記に錯誤又は遺漏があることを発見したときは、遅滞なく、その旨を登記権利者及び登記義務者(登記権利者及び登記義務者がない場合にあっては、登記名義人。第三項及び第七十一条第一項において同じ。)に通知しなければならない。ただし、登記権利者、登記義務者又は登記名義人がそれぞれ二人以上あるときは、その一人に対し通知すれば足りる。

錯誤は当初からの食い違いで、後発の事情は変更です
錯誤に当たるのは、申請の時点で持分や債務者を取り違えた、住所の記載を誤ったといった、登記をした時点から存在した食い違いです。登記の後に住所を移転したのは実体の変化で変更の登記、持分を譲渡したのなら持分の移転の登記というように、後発の事情はその内容に応じた登記で処理します。債務者の表記を間違えて登記した抵当権は錯誤による更正で直せ、「錯誤を登記原因として当該抵当権の債務者をAとする抵当権の更正の登記を申請することができる」という肢は正しい肢です。氏名の錯誤と住所の変更が重なったときは一つの申請情報でまとめられ、「錯誤による氏名についての更正の登記と住所移転による住所についての変更の登記とは,一の申請情報によって申請することができる」という肢は正しい肢です。
法定相続分の登記を遺産分割で直す原因は錯誤ではありません
法定相続分で相続登記をした後に遺産分割で一人が取得した場合、令和5年3月28日民二第538号通達により更正の登記で処理できます。ただし登記原因は遺産分割の日付を付けた「遺産分割」で、錯誤ではありません。相続登記の時点では法定相続分どおりの共有が実体と一致していたので、登記の当初から誤っていたわけではないからです。「登記原因は錯誤になります」という肢は誤りです。相続放棄をしていた相続人を含めて代位で相続登記がされていた場合は、相続の開始時にさかのぼって相続人でなかったことになるので、こちらは錯誤による更正になります。
錯誤による抹消に農地法の許可は要らず、税は戻りません
売買を原因とする所有権の移転の登記を錯誤で抹消するときは、登記原因証明情報として錯誤の事情を記載した報告形式の情報を提供しますが、農地であっても農地法の許可を証する情報は要りません。抹消は権利の移転ではなく、許可を要する行為に当たらないからです。「錯誤を原因とする当該登記の抹消を申請するときは、農地法所定の許可があったことを証する情報の提供を要する」という肢は誤りです。錯誤で抹消しても、移転の登記のときに納めた登録免許税は還付されず、「当該所有権の移転の登記の際に納付した登録免許税に相当する額の還付を受けることができる」という肢は誤りです。錯誤で抹消された所有権の移転の登記は初めからなかったことになるので、抹消後に遺言者が死亡すれば、遺言と抵触していた生前処分は消え、遺贈による移転の登記を申請できます。「Cは,当該遺言書を添付情報として提供したときであっても,Bと共同して遺贈を原因とする所有権の移転の登記を申請することができない」という肢は誤りです。
錯誤による抹消の後の登記記録の扱いも問われます
敷地権付き区分建物で、表題部所有者から所有権を取得した人の名義でされた所有権の保存の登記を錯誤で抹消したときは、登記記録を閉鎖せず、登記官が職権で表題部所有者の表示を回復します。「敷地権付き区分建物について、表題部所有者から所有権を取得した者を所有者とする所有権の保存の登記がされた後に、錯誤を原因として当該所有権の保存の登記の抹消がされた場合には、登記官は、その登記記録を閉鎖する」という肢は誤りです。相続人の名義でされた保存の登記を錯誤で抹消したときも同じで、「登記官は,当該建物の登記記録を閉鎖しなければならない」という肢は誤りです。処分の制限の登記の嘱託に伴って登記官が職権でした所有権の保存の登記は、後にその処分の制限の登記が錯誤で抹消されても職権では抹消されず、「登記官は職権で当該所有権の保存の登記を抹消することはできない」という肢は正しい肢です。
登記官の過誤による錯誤だけが職権更正の対象です
登記官が権利に関する登記に錯誤や遺漏を発見したときは、不動産登記法67条1項により登記権利者と登記義務者に通知しなければなりません。通知を受けた当事者が申請で直すのが原則で、登記官が職権で更正するのは錯誤や遺漏が登記官の過誤によるものである場合に限られ、監督する法務局または地方法務局の長の許可が要ります。「職権による登記の更正については,その登記官を監督する法務局又は地方法務局の長の許可を得なければなりません」という肢は正しい肢です。申請人の側の誤りによる錯誤は、当事者が更正や抹消を申請しなければ直りません。
不動産登記法 第66条(権利の変更の登記又は更正の登記)
権利の変更の登記又は更正の登記は、登記上の利害関係を有する第三者(権利の変更の登記又は更正の登記につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)の承諾がある場合及び当該第三者がない場合に限り、付記登記によってすることができる。
試験ではこう問われる
- 錯誤と変更の区別(当初からの食い違いか、後発の事情か)
- 錯誤を登記原因に使わない場面(法定相続分の登記を遺産分割で直すときは遺産分割)
- 錯誤による抹消の添付情報と税(農地法の許可は不要。登録免許税は還付されない)
- 錯誤で保存登記を抹消したときの登記記録(閉鎖せず表題部所有者を回復)
- 職権更正の範囲(登記官の過誤に限る。法務局長の許可)
この用語が問われた肢
Aを債務者と表記すべきところ,誤ってBを債務者と表記した抵当権設定契約書に基づき,Bを債務者とする抵当権の設定の登記がされた場合は,錯誤を登記原因として当該抵当権の債務者をAとする抵当権の更正の登記を申請することができる。
【問】それでは、当該事例において、甲土地をBの単独所有とする所有権の更正の登記を申請する場合について考えていきましょう。当該所有権の更正の登記の登記原因は何になりますか。 登記原因は錯誤になります。
甲土地について、AからBへの売買を原因とする所有権の移転の登記がされた場合において、錯誤を原因とする当該登記の抹消を申請するときは、農地法所定の許可があったことを証する情報の提供を要する。
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