訴訟代理人の資格と権限(54条〜58条:弁護士代理の原則・特別委任事項・個別代理・更正権・代理権の不消滅)そしょうだいりにんのしかくとけんげん
訴訟代理人とは、当事者の委任や法令に基づいて、当事者の名で当事者のために訴訟行為をする代理人のことです。訴訟委任による訴訟代理人は原則として弁護士でなければならず(54条1項)、その権限の範囲・特別委任事項・個別代理・当事者による更正・代理権の不消滅は55条から58条が定めています。
訴訟を人に頼むなら誰でもよいというわけではありません。法律に詳しくない人が報酬目当てに訴訟を引き受けると、依頼した本人が食い物にされたり、手続が混乱したりするからです。そこで民事訴訟法は、訴訟代理人は原則として弁護士に限り、そのかわり弁護士に頼めば、委任された事件については反訴への応訴や強制執行まで一通りのことができるようにしました。和解や取下げのように訴訟の結末を決める行為だけは、本人の意思をあらためて確かめるため特別の委任を求めます。

訴訟代理人は原則として弁護士でなければならず、例外は支配人などの法令上の訴訟代理人と、簡易裁判所の許可を得た者です
54条1項本文は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができないと定めています。これを弁護士代理の原則といいます。本人が自分で訴訟をすることは禁じられていないので、他人に頼むなら弁護士に頼まなければならないという意味です。例外の一つは法令上の訴訟代理人で、事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持つ支配人(会社法11条1項)が代表例です。このほか、法務大臣の認定を受けた司法書士会の会員である司法書士は、簡易裁判所における訴訟の目的の価額が140万円(裁判所法33条1項1号)を超えない民事訴訟の手続について、依頼を受けて代理することができます(司法書士法3条1項6号イ・2項)。もう一つは簡易裁判所で、その許可を得れば弁護士でない者を訴訟代理人にでき(54条1項ただし書)、許可はいつでも取り消せます(54条2項)。「簡易裁判所においては、その許可を得て、当事者の親族を訴訟代理人とすることができる」という肢(R6 午後 問1 ア)は正しいです。地方裁判所の事件では許可による代理の制度がないので、裁判所の許可を得て当事者の子などを訴訟代理人にすることはできません。なお、弁護士でない者がした訴訟行為の効力について、判例は、弁護士登録を取り消された者の訴訟行為は本人又は権限のある者が追認しない限り本人に効力を生じないとしています(最判昭和43年6月21日)。
訴訟代理人の権限は書面又は電磁的記録で証明しなければならず、代理権の存否に疑いがあれば裁判所が職権で調べます
訴訟代理人の権限は、書面又は電磁的記録で証明しなければなりません(民事訴訟規則23条1項)。後で代理権の有無が争われるのを防ぐためです。代理権のない者の訴訟行為は無効なので、代理権の存在は訴訟行為の有効要件であり、訴えの提起や訴状の送達については訴訟要件にもなります。そのため裁判所は、代理権の存否に疑いがあれば当事者の申立てを待たずに職権で調査し、欠けていれば期間を定めて補正を命じます(59条・34条1項)。代理権のない者の訴訟行為も、本人の追認で行為の時にさかのぼって有効になります(59条・34条2項)。
訴訟代理人は委任された事件の反訴への応訴や強制執行まで当然にできますが、反訴の提起・取下げ・和解・放棄認諾・上訴・復代理人の選任には特別の委任が要ります
55条1項は、訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができると定めています。相手方が提起した反訴に応訴することは、委任された事件の範囲に含まれます。これに対し、55条2項は、反訴の提起、訴えの取下げ、和解、請求の放棄・認諾、訴訟脱退、控訴・上告・上告受理の申立てとその取下げ、異議の取下げ、代理人の選任について特別の委任を要求しています。訴訟の重大な節目となる行為や、訴訟の終了に直結する行為だからです。「訴訟代理人が委任を受けた事件について控訴をするには、特別の委任を要しない」という肢(R6 午後 問1 オ)は誤りです。移送の申立ては55条2項に挙げられていないので、特別の委任は要りません。弁護士である訴訟代理人の代理権は、これ以外の点で制限することができません(55条3項)。和解権限がどこまで及ぶかは、訴訟代理権の範囲の語で扱います。
- 特別の委任なしにできること(55条1項)反訴・参加・強制執行・仮差押え・仮処分に関する訴訟行為、弁済の受領、移送の申立て
- 特別の委任が要ること(55条2項)反訴の提起、訴えの取下げ、和解、請求の放棄・認諾、訴訟脱退、控訴・上告・上告受理の申立てとその取下げ、異議の取下げとその同意、代理人(復代理人)の選任
- 制限の可否(55条3項)弁護士である訴訟代理人の代理権は制限できません。弁護士でない訴訟代理人は制限できます

訴訟代理人が数人いれば各自が当事者を代理し、これと異なる定めは効力を生じず、送達もその一人にすれば足ります
56条1項は、訴訟代理人が数人あるときは各自当事者を代理すると定め、2項は、当事者がこれと異なる定めをしても効力を生じないとしています。訴訟を迅速・円滑に進めるための個別代理の原則です。各自が代理するので、送達もそのうちの一人にすれば足ります。また、訴訟代理人の事実に関する陳述は、当事者が直ちに取り消し又は更正したときは効力を生じません(57条)。事実関係は本人の方がよく知っているからで、法律に関する陳述には及びません。「相手方の具体的な事実の主張について訴訟代理人がした認否は、当事者が直ちにこれを取り消したときは、その効力を生じない」という肢(R6 午後 問1 イ)は正しいです。訴訟代理人も当事者ではないので、証人として尋問することができます。さらに、当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、裁判所は決定で10万円以下の過料に処します(230条1項)。
訴訟代理権は当事者の死亡や法人の合併では消滅せず訴訟手続も中断しませんが、解任による消滅は相手方に通知しなければ効力を生じません
民法の委任は本人の死亡で終わりますが、58条1項は、当事者の死亡又は訴訟能力の喪失、当事者である法人の合併による消滅、法定代理人の死亡や代理権の消滅などによっては訴訟代理権は消滅しないと定めています。委任の範囲がはっきりしていて受任者も通常は弁護士なので、承継人の信頼を裏切るおそれが小さく、手続を止めない方が合理的だからです。「訴訟代理権は、委任をした当事者が死亡した場合には、消滅する」という肢(R6 午後 問1 ウ)は誤りです。訴訟代理人がいる間は中断の規定が適用されないので(124条2項)、当事者が死亡しても訴訟手続は中断しません。当事者が訴訟能力を失った場合も同じで、「被告が訴訟係属中に成年被後見人になった場合には、その被告について訴訟代理人があるときを除き、訴訟手続は、中断する」という肢(R7 午後 問1 ウ)は正しいです。訴訟代理人が死亡しても、本人が自ら訴訟を続けられるので中断事由にはなりません。支配人が辞任した場合も、法令上の訴訟代理人の代理権が消滅するだけなので中断しません。訴訟代理人が適法に選任した復代理人は、独立して本人の訴訟代理人になるので、訴訟代理人が死亡しても代理権を失いません(最判昭和36年11月9日)。他方、解任などで訴訟代理権が消滅しても、本人又は代理人から相手方に通知しなければその効力を生じません(59条・36条1項)。「当事者が訴訟代理人を解任したときであっても、訴訟代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知をしなければ、その効力を生じない」という肢(R6 午後 問1 エ)は正しいです。
民事訴訟法 第54条第1項法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
民事訴訟法 第55条第1項訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる。
民事訴訟法 第56条第1項訴訟代理人が数人あるときは、各自当事者を代理する。
民事訴訟法 第58条第1項訴訟代理権は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一 当事者の死亡又は訴訟能力の喪失
二 当事者である法人の合併による消滅
三 当事者である受託者の信託に関する任務の終了
四 法定代理人の死亡、訴訟能力の喪失又は代理権の消滅若しくは変更
試験ではこう問われる
- 弁護士代理の原則の例外は、支配人などの法令上の訴訟代理人と、簡易裁判所の許可を得た者である。簡易裁判所では許可を得て当事者の親族を訴訟代理人にできる(54条1項ただし書、R6 午後 問1 ア ○)
- 訴訟代理権の存否に疑いがあれば裁判所は職権で調査し、欠けていれば補正を命じる。代理権のない者の訴訟行為も追認でさかのぼって有効になる(59条・34条)
- 相手方の反訴への応訴に改めての委任は要らないが(55条1項)、反訴の提起・訴えの取下げ・和解・請求の放棄認諾・控訴・復代理人の選任には特別の委任が要る(55条2項、R6 午後 問1 オ ×)。移送の申立ては特別委任事項でない
- 訴訟代理人が数人あるときは各自が代理し、異なる定めは効力を生じない(56条)
- 訴訟代理人の事実に関する陳述は、当事者が直ちに取り消し又は更正すれば効力を生じない(57条、R6 午後 問1 イ ○)
- 当事者の死亡・法人の合併では訴訟代理権は消滅せず(58条1項、R6 午後 問1 ウ ×)、訴訟代理人がいる間は訴訟手続も中断しない(124条2項、R7 午後 問1 ウ ○)。訴訟代理人の死亡は中断事由でない
- 解任による訴訟代理権の消滅は、相手方に通知しなければ効力を生じない(59条・36条1項、R6 午後 問1 エ ○)

