管轄の種類と基準時(職分管轄・事物管轄・土地管轄、専属管轄と任意管轄、15条)かんかつのしゅるいときじゅんじ
管轄とは、ある事件の裁判権を、どの裁判所が行使するかの分担の定めです。職分管轄(裁判所の職務の種類による分担)、事物管轄(第一審を簡易裁判所と地方裁判所のどちらが担当するか)、土地管轄(同じ種類の裁判所のどこが担当するか)に分かれ、法律が公益から一つの裁判所に限ったものを専属管轄、合意や応訴で変えられるものを任意管轄といいます。
100万円を貸した人が裁判を起こすとき、東京の簡易裁判所に行くのか大阪の地方裁判所に行くのかは、勝手に選べるわけではありません。どの種類の裁判所が、どの土地の裁判所が担当するかが法律で決まっていて、これを管轄といいます。管轄は訴えを起こした時点で決まり、その後の事情で失われないので、審理の途中で裁判所が変わって手続が無駄になることを防いでいます。

管轄は職分管轄・事物管轄・土地管轄に分かれ、職分管轄や法定の専属管轄は当事者の合意で変えられません
職分管轄とは、裁判所の職務の種類に着目した分担で、人事訴訟の第一審を家庭裁判所が、少額訴訟を簡易裁判所が担当し、地方裁判所の判決への控訴を高等裁判所が担当するといった定めです。どの審級をどの裁判所が担当するかという審級管轄も職分管轄の一種です。職分管轄は司法制度の骨組みそのものなので公益性が強く、専属管轄とされ、当事者の合意で変えることはできません(13条1項)。合意管轄は「第一審に限り」認められる(11条1項)ので、控訴審の管轄裁判所を合意で定めることもできません。事物管轄と土地管轄は原則として任意管轄で、合意(11条)や応訴(12条)で変えられますが、法令が専属管轄と定めたものは変えられません(13条1項)。離婚の訴えのような人事訴訟は家庭裁判所の職分管轄に属するので(裁判所法31条の3第1項2号)、地方裁判所に起こされたときは管轄違いとして家庭裁判所に移送します(16条1項)。
- 職分管轄裁判所の職務の種類による分担です。審級管轄を含み、専属管轄なので合意・応訴で変えられません
- 事物管轄第一審を簡易裁判所と地方裁判所のどちらが担当するかの分担です。訴額140万円が境目で、任意管轄です
- 土地管轄所在地の違う同じ種類の裁判所のどこが担当するかの分担で、裁判籍で決まります。原則として任意管轄です
- 専属管轄法律が公益から特定の裁判所だけに認めた管轄です。合意管轄・応訴管轄・併合請求の裁判籍の規定が適用されず(13条1項)、違反は控訴審でも主張でき(299条1項ただし書)、上告理由になります(312条2項3号)
- 任意管轄当事者の合意や被告の応訴で変えられる管轄です。違反は控訴審では主張できません(299条1項本文)
事物管轄は訴額140万円以下が簡易裁判所で、不動産に関する訴訟は地方裁判所と競合し、併合した請求の訴額は利益が共通でなければ合算します
簡易裁判所は訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求について第一審の裁判権をもち(裁判所法33条1項1号)、地方裁判所はそれ以外の請求と、140万円以下でも不動産に関する訴訟の第一審を扱います(同法24条1号)。140万円ちょうどは簡易裁判所で、140万円以下の不動産に関する訴訟は簡易裁判所と地方裁判所のどちらにも管轄があります。訴額は訴えで主張する利益によって算定し、算定できないか極めて困難なときは140万円を超えるものとみなします(8条)。一の訴えで数個の請求をするときは価額を合算しますが、主張する利益が各請求で共通する場合は合算しません(9条1項)。100万円の請負代金請求と40万円の売買代金請求は利益が別なので合算して140万円となり、簡易裁判所に事物管轄があります。物の引渡請求とその執行不能に備えた代償請求は、どちらも同じ物の価値を求めるもので利益が共通なので合算しません。「一の訴えで一人に対して数個の請求をする場合において、その訴えで主張する利益が各請求について共通であるときは、各請求の価額を合算せずに、訴訟の目的の価額を算定する」という肢(R6 午後 問2 ア)は正しいです。

管轄は訴え提起の時を標準に定まるので後の減縮では失われませんが、請求を拡張して地裁の事物管轄になれば簡裁は移送します
裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定めます(15条)。訴訟要件は一般に口頭弁論終結時を基準にしますが、管轄についてまでそうすると、被告の転居や請求の変動で途中で管轄がなくなり、それまでの審理が無駄になるからです。「裁判所の管轄は、口頭弁論終結の時を標準として定める」という肢(R5 午後 問1 イ)は誤りです。地方裁判所に適法に起こした訴えの請求を減縮して訴額が140万円以下になっても、地方裁判所の管轄は失われず、簡易裁判所に移送する義務もありません。逆に、提起の時に管轄がなくても、その後に被告が管轄区域内に住所を移すなどして管轄が生じれば、管轄違いの瑕疵は治癒され、その裁判所で審理できます。15条は管轄が後で失われないことを定めたもので、後から生じた管轄を否定する趣旨ではないからです。簡易裁判所で請求を拡張して訴額が140万円を超えた場合は、拡張した部分について新たに訴えを起こしたのと同じなので、その時点で簡易裁判所の事物管轄を外れ、地方裁判所に移送しなければなりません(16条1項)。簡易裁判所の本訴に対して、被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をしたときも、相手方の申立てがあれば、簡易裁判所は本訴と反訴を地方裁判所に移送しなければなりません(274条1項)。「簡易裁判所に提起された貸金 100 万円の返還を求める本訴に対し、被告が適法な反訴により地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において、本訴原告(反訴被告)の申立てがあるときは、簡易裁判所は、決定で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない」という肢(R5 午後 問1 オ)は正しいです。
管轄に関する事項は職権で証拠調べができ、専属管轄の違反は控訴審でも主張でき上告理由にもなります
管轄は訴訟要件の一つで、裁判所が職権で調査し、管轄に関する事項については職権で証拠調べをすることができます(14条)。判断の資料を当事者の提出したものに限らないという意味です。「裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる」という肢(R5 午後 問1 ウ)は正しく、専属管轄に関する事項も同じです。もっとも、任意管轄の違反は控訴審で主張することができず(299条1項本文)、第一審の判決が出た後に管轄の争いを蒸し返させないことになっています。これに対し法定の専属管轄の違反は、控訴審でも主張でき(同項ただし書)、上告理由にもなります(312条2項3号)。合意で定めた専属管轄は、ここでいう専属管轄に含まれません。
民事訴訟法 第15条(管轄の標準時)
裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。
民事訴訟法 第14条(職権証拠調べ)
裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。
民事訴訟法 第9条第1項一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。
裁判所法33条1項1号簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。一 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
試験ではこう問われる
- 管轄は訴えの提起の時を標準として定める(15条)。口頭弁論終結の時ではない(R5 午後 問1 イ ×)。地裁に起こした後の減縮で訴額が140万円以下になっても管轄は失われない
- 簡裁で請求を拡張して訴額が140万円を超えれば、簡裁は地裁に移送する(16条1項)
- 簡裁の本訴に対し被告が地裁の管轄に属する請求の反訴をしたときは、相手方の申立てがあれば簡裁は本訴と反訴を地裁に移送しなければならない(274条1項、R5 午後 問1 オ ○)
- 事物管轄は訴額140万円以下が簡裁である。140万円以下の不動産に関する訴訟は簡裁と地裁が競合する(裁判所法33条1項1号・24条1号)
- 一の訴えで数個の請求をするときは価額を合算するが、主張する利益が共通なら合算しない(9条1項、R6 午後 問2 ア ○)
- 管轄に関する事項は職権で証拠調べができる(14条、R5 午後 問1 ウ ○)。職分管轄は合意で変えられず、控訴審の管轄を合意で定めることもできない
- 任意管轄の違反は控訴審で主張できないが、法定の専属管轄の違反は主張でき上告理由になる(299条1項・312条2項3号)

