訴訟能力の欠缺の効果(無効・追認・補正命令・上訴)そしょうのうりょくのけんけつのこうか
訴訟能力の欠缺の効果とは、訴訟能力を欠く者の訴訟行為が取り消せる行為ではなく無効となり、能力を得た本人又は法定代理人の追認によって行為の時にさかのぼって有効になる(34条2項)という扱いのことです。裁判所は期間を定めて補正を命じ、能力の有無の判断には本人が上訴で争うことができます。
未成年者が親に黙って一人で訴えを起こし、何回か期日に出て陳述したとします。民法の契約なら後から取り消すかどうかを選べますが、訴訟で同じことを認めると、積み上げた手続がいつ崩れるか分からなくなります。そこで訴訟能力を欠く者の訴訟行為は初めから無効とし、そのかわり法定代理人などが追認すれば行為の時にさかのぼって有効にできるようにしました。裁判所は気づいたら補正を命じ、能力の有無を本人が争う道も上訴で残しています。

訴訟能力を欠く者の訴訟行為は取り消せるのではなく無効であり、能力を得た本人か法定代理人が追認すれば行為の時にさかのぼって有効になります
訴訟行為は互いに積み重なって手続を作るので、民法のように取り消すかどうかを当事者に任せると手続が不安定になります。そのため、訴訟能力を欠く者の訴訟行為は当然に無効と解されています。「訴訟能力を欠く当事者がした訴訟行為は、取り消すことができる」という肢(R7 午後 問1 ア)は誤りです。無効ではあっても行為の外形は残っているので、34条2項は、訴訟能力を欠く者がした訴訟行為は、これを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずると定めています。「訴訟能力を欠く当事者がした訴訟行為は,これを有するに至った当該当事者の追認により,行為の時に遡ってその効力を生ずる」という肢(R3 午後 問1 エ)は正しいです。追認がなければ有効にはならないので、未成年者が訴訟係属中に成年に達しただけでは、それまでの訴訟行為は有効になりません。弁護士への訴訟委任も手続全体に影響する訴訟行為なので、訴訟能力を欠く者が自らすることはできません。訴訟無能力者に対する送達はその法定代理人にします(99条1項)が、未成年者本人に送達して本人が受け取った場合でも、法定代理人が追認すれば送達の瑕疵は治るので、法定代理人に送達し直す必要はありません。
追認は、ある審級の訴訟行為全体についてしなければならず、都合のよい行為だけを選んで追認することはできません
判例は、無権代理人がした訴訟行為を追認する場合について、訴訟行為は相互に関連をもちながら手続を形成し、審級ごとに終局的判断を経て発展するものであるから、ある審級の手続が終わった後は、その審級における訴訟行為を一体として不可分的に追認すべきであり、控訴の提起だけを選んで追認することは許されないとしました(最判昭和55年9月26日)。訴訟能力を欠く者の訴訟行為の追認も同じ考え方で扱われます。都合のよい行為だけを有効にすると、前後の訴訟行為のつながりが崩れて従前の手続を生かせないからです。
裁判所は訴訟能力の欠缺に気づいたら期間を定めて補正を命じなければならず、補正されなければ訴えを却下します
訴訟能力は訴訟要件でもあり、裁判所は職権で調べます。欠けていることが分かっても、追認で有効になる可能性があるので、直ちに訴えを却下するのではなく、34条1項前段により、期間を定めてその補正を命じなければなりません。補正とは、法定代理人が訴訟に加わってそれまでの行為を追認し、以後の訴訟行為も法定代理人がするようにすることです。「訴訟能力を欠く者による訴えの提起であることが判明したときは,裁判長は,その補正を命ずることなく,命令で,訴状を却下することができる」という肢(R3 午後 問1 ア)は誤りです。遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、補正の前でも一時訴訟行為をさせることができます(34条1項後段)が、後で追認が得られなければその行為は無効のままです。補正されないときは訴えを却下します。

訴訟能力がないとして訴えを却下した判決には本人が自ら上訴でき、控訴裁判所は能力なしなら控訴を棄却し、能力ありなら第一審に差し戻します
上訴も訴訟行為ですが、訴訟能力がないという判断そのものに不服がある本人には、その判断を争う機会を保障する必要があります。そのため、訴訟能力を欠くとして訴えを却下した判決に対しては、本人が自ら上訴できます。控訴裁判所も訴訟能力がないと判断したときは、第一審判決が相当なので控訴を棄却します(302条1項)。控訴を却下するのではありません。逆に訴訟能力があると判断したときは、却下判決を取り消して事件を第一審に差し戻すのが原則です(307条本文)。第一審で本案の審理を受ける機会を保障するためです。第一審が欠缺を見落として本案判決をし、控訴審で欠缺が分かった場合も、直ちに訴えを却下するのではなく、第一審判決を取り消し、第一審裁判所に補正を命じさせるため差し戻すべきだとした判例があります(最判昭和45年12月15日。会社の代表権の欠缺の事案)。未成年者が自ら起こした訴えを、未成年であることに気づかずに棄却した場合も、その未成年者は自ら控訴して原判決の取消しを求められます。他方、被告の訴訟能力の欠缺を見落として請求を棄却した場合、勝訴した被告には訴え却下を求めて控訴する利益がありません。
- 訴訟能力なしとして却下された本人が控訴し、控訴審も能力なしと判断した控訴棄却です(302条1項)
- 同じく控訴審が能力ありと判断した第一審判決を取り消し、第一審に差し戻すのが原則です(307条本文)
- 第一審が欠缺を見落として本案判決をし、控訴審で判明した直ちに却下せず、取り消して第一審に補正を命じさせるため差し戻します(最判昭和45年12月15日)
- 未成年者の訴えを見落として棄却した未成年者は自ら控訴して取消しを求められます
- 被告の欠缺を見落として請求を棄却した勝訴した被告には訴え却下を求める控訴の利益がありません
判決確定後は、代理権の欠缺を理由とする再審の訴えで取り消すことができ、その再審には期間の制限がありません
法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたことは、絶対的上告理由(312条2項4号)であり、再審事由(338条1項3号)でもあります。訴訟能力を欠く者が自ら訴訟行為をした場合も、解釈上これらに当たるとされています。ただし、追認があったときは上告理由になりません(312条2項ただし書)。再審の訴えは、原則として再審の事由を知った日から30日の不変期間内に、判決確定から5年以内に提起しなければなりません(342条1項・2項)が、代理権を欠いたことを理由とする再審にはこれらの期間が適用されません(342条3項)。手続にまったく関与する機会がなかった本人の保護を優先するからです。
民事訴訟法 第34条第1項訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
民事訴訟法 第34条第2項訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。
民事訴訟法 第342条第3項前二項の規定は、第三百三十八条第一項第三号に掲げる事由のうち代理権を欠いたこと及び同項第十号に掲げる事由を理由とする再審の訴えには、適用しない。
試験ではこう問われる
- 訴訟能力を欠く者の訴訟行為は、取り消せるのではなく無効である(R7 午後 問1 ア ×)
- 訴訟能力を有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼって効力を生じる(34条2項、R3 午後 問1 エ ○)。成年に達しただけでは有効にならない
- 追認はそれまでの訴訟行為全体についてしなければならず、一部だけの追認はできない(最判昭和55年9月26日)
- 裁判所は訴訟能力の欠缺が分かれば期間を定めて補正を命じなければならず、補正を命じずに訴状を却下することはできない(34条1項、R3 午後 問1 ア ×)
- 訴訟能力を欠く当事者も、当事者本人として尋問することができる(R7 午後 問1 エ ×)
- 訴訟能力を欠くとして訴えを却下した判決に本人は自ら上訴でき、控訴裁判所は能力なしなら控訴を棄却し、能力ありなら第一審に差し戻す
- 代理権の欠缺を理由とする再審の訴えには30日・5年の期間制限がない(342条3項)

