預金・預貯金債権をめぐる判例の横断(誤振込み・払戻し・取引経過の開示・遺産分割)よきんよちょきんさいけんをめぐるはんれいのおうだん
預貯金債権とは、預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権のことで(466条の5第1項)、預金契約は消費寄託の性質を持ちますが、誤振込み・口座への払込みによる弁済・譲渡制限・相続について預金に特有の規律と判例があります。
銀行の預金は、毎日の振込みや引き落とし、相続のときの払戻しなど、民法のいろいろな場面に顔を出します。預金は、銀行がお金を預かって自由に使い、同じ額を返す約束で、法律上は消費寄託という契約です。ただ、口座に記帳された残高が一つの債権として動き続ける、間違って振り込まれても銀行は中身を確かめられないといった性質があるので、判例や改正法が預金に特有のルールを作ってきました。ここでは、章をまたいで出る預金のルールを一か所に集めます。

誤って振り込んでも受取人と銀行の間に預金債権が成立し、振込依頼人は受取人に不当利得の返還を求めるにとどまります
判例は、振込依頼人から受取人の普通預金口座に振込みがあったときは、両者の間に振込みの原因となる法律関係があるかどうかにかかわらず、受取人と銀行の間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が預金債権を取得するとしています(最判平成8年4月26日)。振込依頼人は、受取人に対して同額の不当利得返還請求権を持つことがあるにとどまり、銀行に支払を求めることはできません。銀行は大量の振込みを機械的に処理するので、原因関係の有無で預金の成否が変わるとすると、振込みの仕組みが成り立たないからです。
口座への払込みによる弁済は、債権者が払戻しを請求する権利を取得した時に効力を生じます
477条は、債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずると定めています。口座に入金記帳されて引き出せるようになった時であって、実際に引き出した時ではありません。払込みによる弁済の効力が生ずる時点を問う問で、「債権者が払込みがあった口座から金銭の払戻しを現実に受けた時点です」とする肢(R3 問16 イ)は誤りです。弁済の一般的なルールは弁済の提供の語で扱います。
預金は消費寄託なので、金融機関は満期前でもいつでも返還でき、利息は特約があるときにだけ生じます
寄託では、返還の時期の定めがあるときは、受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返還できません(663条2項)。しかし、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合には591条2項・3項が準用され(666条3項)、受寄者である金融機関は返還の時期の定めの有無にかかわらずいつでも返還でき、期限前の返還で預金者に損害が生じればその賠償をすることになります。利息は特約か法律の規定があるときにだけ生じ、預金契約に利息を生じさせる規定はないので、利息の特約がなければ金融機関は利息の支払義務を負いません。

預貯金債権の譲渡制限の意思表示は、悪意又は重大な過失のある譲受人には対抗できますが、差押債権者には対抗できません
一般の債権では、譲渡制限の意思表示があっても譲渡は有効です(466条2項)。これに対し466条の5第1項は、預貯金債権について当事者がした譲渡制限の意思表示は、466条2項の規定にかかわらず、その意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができると定めています。悪意又は重大な過失のある譲受人への譲渡は効力を生じないと解されています。2項は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者には1項を適用しないとしているので、差押債権者が特約を知っていても対抗できません。譲渡制限の意思表示の一般論は債権譲渡の語で扱います。
無権限者への払戻しは478条で有効になることがあり、誤って払い戻した銀行は過失があっても受領者に不当利得の返還を求められます
通帳・印鑑やキャッシュカードを持った無権限者への払戻し、預金を担保にした貸付けと相殺は、受領権者としての外観を有する者に対する弁済(478条)の語で扱います。銀行が478条で保護されない場合でも、無効な払戻しを受けた者は法律上の原因なく利得しているので、銀行は真の預金者にまだ払い戻していなくても損失があるとして、受領者に返還を請求できます(最判平成17年7月11日)。銀行に払戻しについて過失があった場合も同じです。
共同相続された預貯金債権は当然には分割されずに遺産分割の対象になり、相続人の一人は単独で取引経過の開示を求めることができます
金銭債権のような可分債権は相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割されるのが原則ですが、判例は、共同相続された普通預金債権・通常貯金債権・定期貯金債権は当然には分割されず、遺産分割の対象になると判例を変更しました(最大決平成28年12月19日)。定期預金債権についても同じです(最判平成29年4月6日)。「Aを債権者とする普通預金債権について,B及びCは,Aの相続開始により,各相続分に応じて分割された同債権をそれぞれ取得することはなく,同債権は,遺産分割の対象となる」という肢(R3 問22 ウ)は正しいです。遺産分割の前でも、各共同相続人は、相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額(法務省令で定める額が限度)について単独で権利を行使できます(909条の2)。共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の口座の取引経過の開示を単独で求めることができ(最判平成21年1月22日)。預貯金債権を相続人の一人に承継させる特定財産承継遺言があれば、遺言執行者は払戻しを請求できます(1014条3項。遺言で別段の意思を表示したときはそれに従います)。
民法 第477条(預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済)
債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。
民法 第466条の5(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)
預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第四百六十六条第二項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
民法 第666条(消費寄託)
受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
第五百九十条及び第五百九十二条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
第五百九十一条第二項及び第三項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。
試験ではこう問われる
- 口座への払込みによる弁済は、債権者が払戻しを請求する権利を取得した時に効力を生じ、払戻しを現実に受けた時ではない(477条。R3 問16 イ ×)
- 共同相続された普通預金債権は相続分に応じて分割されず、遺産分割の対象になる(最大決平成28年12月19日。R3 問22 ウ ○)
- 誤振込みでも受取人の預金債権は成立し、振込依頼人は銀行に支払を求められない(最判平成8年4月26日)
- 金融機関は満期前でもいつでも返還でき、利息は特約がなければ生じない(666条3項・591条2項)
- 預貯金債権の譲渡制限は悪意・重過失の譲受人に対抗できるが、差押債権者には対抗できない(466条の5)
- 共同相続人の一人は単独で取引経過の開示を求められ、909条の2の範囲で単独で払戻しを受けられる(最判平成21年1月22日)

