不当利得の要件と効果(703条・704条・受益者の善意悪意・現存利益)ふとうりとくのようけんとこうか
不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼすことで、受益者は、善意ならその利益の存する限度で、悪意なら受けた利益に利息を付して返還し、なお損害があれば賠償する義務を負います(703条・704条)。
銀行が間違えて別人に預金を払い戻したり、無効な契約に基づいて代金を払ってしまったりすると、お金を受け取った人の手元には、持っている理由のない利益が残ります。民法は、法律上の原因なく他人の財産で利益を受け、そのために他人に損失を与えた人に、その利益を返させることにしました。返す範囲は、知らずに受け取った人は手元に残っている分、知っていた人は利息を付けた全部と分けて、受け取った人の事情に応じた公平を図っています。

不当利得は、受益、損失、その間の因果関係、法律上の原因がないことの4つで成立し、請求する者がこれらを主張立証します
703条は、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度においてこれを返還する義務を負うと定めています。要件は、①受益、②損失、③受益と損失の因果関係、④法律上の原因がないことです。判例は、受益者が利益を受けたことと請求者に損失が生じたことは、不当利得の返還を請求する者が主張立証しなければならないとしています(大判明治32年6月14日)。法律上の原因がないことも請求する側が主張立証します。他方、判例は、金銭の交付によって生じた不当利得の利益が存しないことは、不当利得返還請求権の消滅を主張する者が主張立証すべきだとしています(最判平成3年11月19日)。利得をした時点で返還請求権が生じ、その後の利得の消滅は請求権を消す事由だからです。
善意の受益者は現に利益が存する限度で返し、悪意の受益者は利息を付けて返し、損害は不法行為の要件を満たすときに限り賠償します
703条の「その利益の存する限度」とは、受けた利益のうち現に残っている部分(現存利益)を指し、法律上の原因がないことを知らなかった善意の受益者はその限度で返せば足ります。生活費に使った金銭のように、出費を免れた分は利益が残っていると扱われます。ただし判例は、善意の受益者が利得に法律上の原因がないことを認識した後に利益が消滅しても、返還義務の範囲は減らないとしています(最判平成3年11月19日)。この場合の受益者は、現に利益が存しないことを理由に返還を拒むことができません。704条は、悪意の受益者は受けた利益に利息を付して返還しなければならず、なお損害があるときはその賠償の責任を負うと定めています。判例は、704条後段は悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りで不法行為責任を負うことを注意的に定めたにすぎないとしています(最判平成21年11月9日)。そのため、悪意の受益者が損失者に生じた損害を賠償する義務を負うのは、不法行為の要件を満たすときに限られます。また、善意の受益者の返還債務は期限の定めのない債務なので、履行の請求を受けた時から遅滞に陥ります(412条3項)。
受益者の返還の範囲
- 善意の受益者: その利益の存する限度(現存利益。703条)。法律上の原因がないことを知った後の利益の消滅は範囲を減らさない(最判平成3年11月19日)
- 悪意の受益者: 受けた利益に利息を付して返還し、なお損害があれば賠償する(704条)。損害の賠償は不法行為の要件を満たすときに限る(最判平成21年11月9日)
- 金銭の利得が現存しないこと: 返還請求権の消滅を主張する受益者が主張立証する(最判平成3年11月19日)
- 無効な行為に基づく給付: 原状回復義務(121条の2第1項)。無償行為の善意の受領者、意思無能力者・制限行為能力者は現に利益を受けている限度(同条2項・3項)
法律上の原因があるかは、利益の移動を正当化する権利関係があるかで判断され、弁済が有効でも受領者は真の債権者に返還しなければなりません
所有者が寄託した動産を受寄者が売却し、買主が即時取得した場合、買主の所有権取得は192条という法律上の根拠に基づくので、買主は寄託者に不当利得返還義務を負いません。銀行が他人の預金を受領権限のない者に誤って払い戻した場合、その払戻しが弁済として無効なら真の預金者は預金債権を失いませんが、判例は、銀行は払戻しの時点で受領者に対する不当利得返還請求権を取得するとしています(最判平成17年7月11日)。そのため、銀行は、過失があり真の預金者にまだ払い戻していないときでも、受領者に返還を請求できます。反対に、受領権者としての外観を有する者への弁済が478条で有効になる場合は、債務者は保護されますが、債権を失った真の債権者は受領者に不当利得の返還を請求できます。判例は、受領者が自ら受領権限があるとして弁済を受けながら、真の債権者からの返還請求に対して弁済者に過失があったから弁済は無効だと主張することは、信義誠実の原則に反し許されないとしています(最判平成16年10月26日)。受領者は、弁済をした債務者に過失があったことを理由に返還を拒めません。
不存在の抵当権の実行や誤った配当で利益を受けた者は、所有者や抵当権者に返還しなければなりません
判例は、無権代理で設定されたため存在しない抵当権が実行され、所有者が不動産の所有権を失った場合、所有者は売却代金から弁済金の交付を受けた債権者に不当利得の返還を請求できるとしています(最判昭和63年7月1日)。また判例は、抵当権者は、配当期日に配当異議の申出をしなかった場合でも、債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対し、自己が配当を受けられなかった金銭相当額の返還を請求できるとしています(最判平成3年3月22日)。抵当権者には抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利があり、配当の実施は配当金の帰属を確定するものではないからです。これに対し、配当異議の申出をしなかった一般債権者は、配当を受けた他の債権者に不当利得の返還を請求できません(最判平成10年3月26日)。共有者の一人が他の共有者を排除して共有物を単独で占有している場合には、他の共有者は持分割合に応じた賃料相当額を不当利得として請求でき、現実に居住する意思がなくてもよいとされています(最判平成12年4月7日)。

不当利得は給付利得と侵害利得などに分けて考えられ、契約が無効・取り消された場合の給付の返還は原状回復の規定によります
不当利得には、無効な契約に基づいて給付したものを取り戻す給付利得と、他人の物を無断で使うなど他人の権利を侵害して利益を得た場合の侵害利得などがあり、要件や返還の範囲を類型ごとに考える見解が有力です。給付利得のうち、無効な行為や取り消された行為に基づく債務の履行として給付を受けた者の返還義務は、121条の2が定めています。同条1項は相手方を原状に復させる義務を負わせ、703条・704条の善意・悪意による区別をとらず、受け取った物の全部を返させます。ただし、無効な無償行為に基づいて善意で給付を受けた者と、行為の時に意思能力を有しなかった者・制限行為能力者は、現に利益を受けている限度で返還すれば足ります(同条2項・3項)。詳しくは取消しの効果と原状回復の語で扱います。
民法 第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
民法 第704条(悪意の受益者の返還義務等)
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
民法 第121条の2第1項無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
試験ではこう問われる
- 受益と損失は返還を請求する者が主張立証し、金銭の利得が現存しないことは返還請求権の消滅を主張する者が主張立証する(大判明治32年6月14日・最判平成3年11月19日)
- 善意の受益者は現存利益の限度で返還するが、法律上の原因がないと知った後に利益が消滅しても返還を拒めない(703条・最判平成3年11月19日)
- 悪意の受益者は利息を付して返還し、損害の賠償は不法行為の要件を満たすときに限る(704条・最判平成21年11月9日)
- 478条で弁済が有効でも、真の債権者は受領者に返還を請求でき、受領者は弁済者の過失を主張して拒めない(最判平成16年10月26日)
- 不存在の抵当権の実行で所有権を失った者は、配当を受けた債権者に返還を請求できる(最判昭和63年7月1日)
- 抵当権者は配当異議の申出をしなくても、配当を受けた一般債権者に返還を請求できるが、一般債権者はできない(最判平成3年3月22日・最判平成10年3月26日)
- 共有物を単独で占有する共有者に対し、他の共有者は持分に応じた賃料相当額を不当利得として請求できる(最判平成12年4月7日)

