期限と期限の利益(135条〜137条・出世払い)きげんときげんのりえき
期限とは、法律行為の効力の発生・消滅や債務の履行を、将来到来することが確実な事実にかからせる定めのことで、時期が決まっている確定期限と決まっていない不確定期限があります。期限の利益とは期限が到来するまで当事者が受ける利益で、債務者のために定めたものと推定され、放棄できますが相手方の利益を害することはできません(136条)。
「来年の4月1日に返す」と決めてお金を借りた人は、その日までは返さなくてかまいません。このように、法律行為の効力の発生や履行を、将来必ず来る事実にかからせる定めを期限といい、期限が来るまで当事者が受ける利益を期限の利益といいます。期限の利益は手放すこともできますが、相手方も期限までの利息のような利益を持っているなら、それを奪うことはできません。また、担保を壊すなど債務者が信用を失う行動をとれば、期限の利益を主張できなくなります。

期限は将来必ず到来する事実で、到来の時期が決まっている確定期限と決まっていない不確定期限があり、出世払いの約束は不確定期限と解されています
期限とは、法律行為の効力の発生・消滅や債務の履行を、将来到来することが確実な事実にかからせる定めです。到来するかどうか分からない事実にかからせる条件とは、この点で区別されます。条件と期限を比べる対話の問で、「条件は,実現するかどうか不確実な事実にかからしめるものであり,期限は,将来必ず実現する事実にかからしめるものである点で異なります」という解答(R2 問6 ア)は正しいです。「2030年4月1日」のように時期の決まった期限を確定期限、「Aが死亡したら」のように到来は確実でも時期が分からない期限を不確定期限といいます。不確定期限のある債務の債務者は、期限の到来後に履行の請求を受けた時又は期限の到来を知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負うので(412条2項)、「Aが死亡したら履行するとの履行期を定めた債務の債務者は、Aが死亡した後に履行の請求を受けていなくとも、Aの死亡を知った時から遅滞の責任を負う」という肢(R5 問16 ア)は正しいです。法律行為に始期を付したときは、期限が到来するまで履行を請求することができず、終期を付したときは、期限が到来した時に効力が消滅します(135条)。条件と違い、「期限については,その効果を期限が到来した時以前に遡らせることはできません」という解答(R2 問6 オ)は正しいです。問題になるのが「出世したら返す」という出世払いの約束です。これを停止条件と解すると、出世しない限り返さなくてよく、実質は贈与と変わらなくなります。判例は、出世払いは、出世した時か、出世しないことが確定した時に弁済期が到来する不確定期限であるとしています(大判大正4年3月24日)。返すつもりで借りた当事者の意思は、返済を免除することではなく、支払えるようになるまで猶予することにあるからです。「出世の見込みがなくなったときには返済しなければならないということが含まれていた場合でも,条件に該当します」という解答(R2 問6 イ)は誤りです。医師になったら返すと約束した医学生が医学部を中途退学しても、借入金の返還債務を免れません。
期限は債務者の利益のために定めたものと推定されますが、定期預金のように当事者の双方が期限の利益を持つ場合もあります
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます(136条1項)。借主は期限まで返さなくてよいので、期限の利益を持つのは通常は債務者です。しかし、利息付きの消費貸借や有償の金銭消費寄託(定期預金など)では、債権者も期限までの利息を受け取れるという利益を持ちます。受寄者は期限まで預かった金銭を使え、寄託者は期限までの利息を得られるからです。判例も、定期預金の期限は当事者双方の利益のために定められたものとしています(大判昭和9年9月15日)。有償の金銭消費寄託契約では、当事者の双方が期限の利益を有します。
期限の利益は放棄できますが、相手方の利益を害することはできないので、相手方が失う利益は補わなければなりません
期限の利益は、放棄することができます。ただし、これによって相手方の利益を害することはできません(136条2項)。放棄そのものが禁じられるのではなく、放棄によって相手方が失う利益(期限までの利息など)を補う必要があるということです。判例も、定期預金の返還期が双方の利益のために定められていても、債務者は相手方の失う利益を補えば、期限の利益を放棄できるとしています(大判昭和9年9月15日)。期限の利益の放棄は相殺の場面でも使われ、自働債権の弁済期が到来していれば、受働債権の期限の利益を放棄して相殺適状を作り、対当額で相殺することができます。相殺の要件は相殺の語で扱います。

債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、担保を滅失・損傷・減少させたとき、担保を供する義務を果たさないときは、期限の利益を主張できません
次の場合には、債務者は期限の利益を主張することができません(137条)。一つは債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、二つ目は債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、三つ目は債務者が担保を供する義務を負う場合においてこれを供しないときです。期限の猶予は、債務者の信用と担保が保たれていることを前提にしているからです。担保を提供する義務を果たさない債務者も、期限の到来前に担保を滅失させた債務者も、期限の利益を主張できません。137条は債務者が期限の利益を主張できなくなるとするだけで、期限が自動的に到来するわけではないので、直ちに請求するかどうかは債権者が決めます。実務では、分割払いを怠れば当然に期限の利益を失うとする特約(期限の利益喪失約款)が多く使われ、その場合の消滅時効の起算点は消滅時効の起算点の語で扱います。
- 136条1項期限は債務者の利益のために定めたものと推定されます
- 136条2項期限の利益は放棄できますが、相手方の利益を害することはできません
- 137条1号債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
- 137条2号債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき
- 137条3号債務者が担保を供する義務を負う場合においてこれを供しないとき
民法 第136条第1項期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
民法 第136条第2項期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
民法 第137条(期限の利益の喪失)
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
試験ではこう問われる
- 条件は実現するかどうか不確実な事実に、期限は将来到来することが確実な事実にかからせる点で異なる(R2 問6 ア ○)
- 出世払いは不確定期限であり、出世の見込みがなくなれば弁済期が到来する(大判大正4年3月24日。R2 問6 イ ×)
- 条件と違い、期限の到来の効果を到来の時より前に遡らせることはできない(R2 問6 オ ○)
- 不確定期限のある債務の債務者は、履行の請求を受けていなくても、期限の到来を知った時から遅滞の責任を負う(412条2項。R5 問16 ア ○)
- 期限は債務者の利益のために定めたものと推定され、有償の金銭消費寄託では当事者の双方が期限の利益を有する(136条1項)
- 期限の利益は放棄できるが相手方の利益を害することはできず、放棄自体ができないのではない(136条2項)
- 担保を供する義務を果たさない債務者、担保を滅失させた債務者は期限の利益を主張できない(137条)

