司法書士試験AIブートラボ 司法書士試験AIブートラボ

相殺の要件と方法(505条・506条・508条)そうさいのようけんとほうほう

民法 第11章 債権の消滅 過去問で27肢

相殺とは、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担し、双方の債務が弁済期にあるときに、一方の意思表示によって対当額で双方の債務を消滅させることで、その効力は相殺に適するようになった時にさかのぼります(505条・506条)。

AがBに100万円を貸していて、BもAに60万円の売掛金を持っているとします。お互いにお金を払い合うのは手間なので、どちらかが「差し引きにします」と言えば、60万円分はまとめて消え、AのBに対する40万円だけが残ります。これが相殺です。相手が払わないときでも自分の債務と引き換えに回収できるので、担保のような働きもします。ただし、相手の期限の利益や抗弁権を一方的に奪うことはできないので、いつ、どの債権でできるかに条件があります。

商店街の取引先の事務所の場面。机をはさんで先生が債権者役(札「A 貸金100万円」)、向かいに男性(札「B 売掛金60万円」)が座っている。机の上に二枚の請求書があり、先生が二枚を重ねて「60万円」の部分に線を引いている。先生の吹き出し「お

相殺は互いに同種の目的の債務を負担し、双方の債務が弁済期にあればできますが、自働債権は現実に弁済期が来ていなければなりません

505条1項は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は対当額について相殺によってその債務を免れることができ、債務の性質がこれを許さないときはこの限りでないと定めています。相殺する側の債権を自働債権、相殺される側の債権を受働債権といいます。受働債権の期限の利益は相殺する者自身のためにあるので、期限の利益を放棄すれば(136条2項)弁済期前でも相殺できます(大判昭和8年5月30日)。受働債権に確定期限があっても、その到来を待つ必要はありません。これに対し、自働債権の弁済期前に相殺を認めると相手方の期限の利益を奪うので、自働債権は弁済期が到来していなければなりません。返還時期の定めのない貸金債権は成立と同時に弁済期にあるので、催告なしに直ちに自働債権にできます(大判昭和17年11月19日)。抵当不動産の第三取得者は被担保債務の債務者ではなく、債権が対立していないので、抵当権者に対する自分の債権と被担保債務を相殺できず(大判昭和8年12月5日)。有価証券に表章された金銭債権を受働債権とする場合、証券の呈示は債務者を二重払いから守るためのものなので、債務者がその危険を引き受けて相殺するのに証券の占有は要らず(最判平成13年12月18日)。双方の債務の履行地が異なっていても相殺はでき、相殺した者は相手方の損害を賠償します(507条)。「相殺は,双方の債務の履行地が異なるときであっても,することができる」という肢(R3 問17 エ)は正しく、「双方の債務の履行地が異なる場合には、相殺をすることができない」という肢(R8 問16 エ)は誤りです。

相手方が抗弁権を持つ債権は自働債権にできませんが、請負の報酬債権と修補に代わる損害賠償債権は対当額で相殺できます

自働債権に相手方の同時履行の抗弁権が付いているのに相殺を認めると、相手方は一方的に抗弁権を失うので、相殺はできません(大判昭和13年3月1日)。動産の売主が引渡しを提供しないまま代金債権で相殺することは許されません。「債権につき,弁済期が到来していれば,その債権の債務者が同時履行の抗弁権を有していても,その債権の債権者は,その債権を自働債権として,相殺をすることができる」という肢(R3 問17 オ)は誤りです。保証人が催告・検索の抗弁権を持つ場合も、保証債権を自働債権として相殺できず(最判昭和32年2月22日)。ただし、請負の報酬債権と目的物の修補に代わる損害賠償債権は同時履行の関係にあっても(533条括弧書)、実質的には報酬を減額して対価の均衡を図るものなので、互いに現実の履行をさせる特別の利益はなく、対当額で相殺できます(最判昭和53年9月21日)。債権額が等しいときに限らず、注文者からも請負人からも相殺できます。改正前は瑕疵修補に代わる損害賠償の問題でしたが、現在は契約不適合の場合の修補に代わる損害賠償として同じ結論になります。

板書の図解。黒板に左から右への時間の矢印があり、「相殺適状」「自働債権の消滅時効完成」「時効の援用」「相殺の意思表示」の順に点が打たれている。「相殺適状」が時効完成より前にあることを深紅の丸で囲み、下に「508条:消滅前に相殺適状→援用後で

相殺の意思表示には条件も期限も付けられませんが、当事者の合意による相殺契約は自由にできます

506条1項は、相殺は当事者の一方から相手方に対する意思表示によってし、その意思表示には条件又は期限を付することができないと定めています。一方的な意思表示に条件を付けると相手方の地位が不安定になり、相殺には遡及効があるので期限を付ける意味もないからです。「相殺の意思表示には、期限を付することができる」という肢(R8 問16 ア)は誤りで、「訴訟外でする相殺の意思表示には,条件も期限も付することができません」という肢(R2 問6 エ)は正しいです。これに対し、当事者が合意でする相殺契約は契約自由の原則によるので、同種の目的であることも要らず(大判昭和17年2月18日)。継続的契約の終了時に残った債権債務を相殺するとあらかじめ合意する停止条件付相殺契約も有効です。

相殺の効力は相殺に適するようになった時にさかのぼりますが、それより前に適法にされた解除は覆りません

506条2項は、相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼって効力を生ずると定めています。相殺適状の後の利息や遅延損害金は生じなかったことになるので、相殺の抗弁は元本だけでなく相殺適状後の利息・遅延損害金に対する抗弁にもなります。ただし判例は、この遡及効は相殺される債権債務そのものについてのもので、相殺の意思表示より前に賃料不払を理由に適法にされた解除の効力には影響しないとしています(最判昭和32年3月8日)。数個の債権債務がある場合の相殺の順序は、合意がなければ相殺に適するようになった時期の順序によります(512条)。

時効で消えた債権も、消える前に相殺に適するようになっていれば自働債権にできますが、時効にかかった他人の債権を譲り受けて相殺することはできません

508条は、時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は相殺をすることができると定めています。相殺適状になれば当事者は決済が済んだと考えるのが通常なので、その期待を守る趣旨です。債務者による時効の援用の前後を問わず相殺できます。「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる」という肢(R8 問16 イ)は正しいです。判例は、508条が適用されるためには、自働債権が消滅時効期間の経過前に受働債権と相殺適状にあったことが必要で、受働債権に期限があるときは期限の利益を放棄できるというだけでは足りず、放棄や喪失で弁済期が現実に到来していなければならないとしています(最判平成25年2月28日)。「その消滅時効期間が経過する以前に反対債権の弁済期が現実に到来していたかどうかにかかわらず,時効によって消滅した債権の債権者は,その債権を自働債権とし,その反対債権を受働債権として,相殺をすることができる」という肢(R3 問17 ア)は誤りです。既に時効にかかった他人の債権を譲り受けても、譲受人と相手方の間で相殺適状が生じたことはないので、それを自働債権として相殺することは許されず(最判昭和36年4月14日)。

訴訟で相殺の抗弁を出すときは自働債権の発生原因と相殺の意思表示を主張立証し、意思表示に条件を付けたことは相手方の再抗弁になります

相殺の抗弁を主張する者は、自働債権の発生原因事実と相殺の意思表示をしたことを主張立証します。口頭弁論期日で相殺の意思表示をしたことは裁判所に顕著な事実なので、立証は要りません(民事訴訟法179条)。相殺の意思表示に条件を付けたことは506条1項後段により相殺の効果を妨げる事実なので、相手方が再抗弁として主張できます。

民法 第505条

(相殺の要件等)
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。

民法 第506条

(相殺の方法及び効力)
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法 第508条

(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

試験ではこう問われる

  1. 相殺の意思表示には条件も期限も付けられない(506条1項。R8 問16 ア ×、R2 問6 エ ○)
  2. 双方の債務の履行地が異なっても相殺できる(507条。R3 問17 エ ○、R8 問16 エ ×)
  3. 相手方が同時履行の抗弁権を持つ債権は、弁済期が到来していても自働債権にできない(R3 問17 オ ×)
  4. 時効で消滅した債権も、消滅以前に相殺に適するようになっていれば自働債権にできる(508条。R8 問16 イ ○)
  5. 508条の適用には、時効期間の経過前に受働債権の弁済期が現実に到来していたことが要る(最判平成25年2月28日。R3 問17 ア ×)
  6. 受働債権は期限の利益を放棄すれば弁済期前でも相殺できるが、自働債権は弁済期が到来していなければならない(505条1項)
  7. 相殺の効力は相殺適状時にさかのぼるが、それより前の適法な解除は覆らない(506条2項・最判昭和32年3月8日)

司法書士試験AIブートラボ

司法書士試験の対策を、
スマホひとつで。

過去問の肢別演習、記述式と雛形ドリル、先例と条文、用語集。司法書士試験の勉強に使う教材をひとつのアプリにまとめました。

関連する用語

契約総論

同時履行の抗弁権の成否(533条・肯定例と否定例の一覧)

同時履行の抗弁権とは、双務契約の当事者の一方が、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含...
多数当事者の債権債務・保証・債権譲渡・債務引受

保証人の抗弁と主債務者との影響関係(452条・453条・457条・458条)

保証人の抗弁とは、債権者から履行を請求された保証人が主張できる防御で、催告の抗弁・検索の抗弁(452条・453条)...
債権の消滅

相殺の禁止(509条〜510条・505条2項)

相殺の禁止とは、相殺適状にあっても相殺が許されない場合のことで、悪意による不法行為や人の生命・身体の侵害による損害...
債権の消滅

差押えと相殺(511条)

差押えと相殺とは、差し押さえられた債権の第三債務者が、差押債務者に対する自分の債権で相殺して差押債権者に対抗できる...
債権の消滅

債権譲渡と相殺(469条)

債権譲渡と相殺とは、譲渡された債権の債務者が譲渡人に対する債権で相殺して譲受人に対抗できるかの問題で、対抗要件具備...
無効・取消し、条件・期限・期間、時効

消滅時効の期間(166条〜169条)

消滅時効の期間とは、権利を行使しない状態が続いたときに権利が時効で消滅するまでの期間のことで、債権は権利を行使でき...