相続財産の範囲と共同相続財産の帰属(896条〜899条・可分債権・預貯金・賃料・祭祀財産)そうぞくざいさんのはんいときょうどうそうぞくざいさんのきぞく
相続財産とは、相続人が相続開始の時から承継する被相続人の財産に属した一切の権利義務のことで、被相続人の一身に専属したものと祭祀財産は除かれ、相続人が数人あるときは共有に属し、可分の金銭債権・債務は相続分に応じて当然に分割されますが、預貯金債権と相続開始時の金銭は遺産分割の対象になります(896条〜899条)。
亡くなった人の財産は、土地や預金だけでなく借金も含めて、まとめて相続人に引き継がれます。ただし、その人だからこそ認められていた権利(ただで借りていた家に住む権利、代理人としての地位など)は本人の死亡で消えます。お墓や仏壇も遺産とは別のルールで、祭祀を受け継ぐ人が承継します。相続人が何人もいるときは、遺産はひとまずみんなの共有になり、お金の貸し借りのように分けられるものは最初から割合で分かれると考えられています。

相続人は被相続人の一切の権利義務を承継しますが、一身に専属する権利は相続されません
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますが、被相続人の一身に専属したものは承継しません(896条)。使用貸借は借主の死亡によって終了するので(597条3項)、借主の相続人は使用借権を相続しません。「借主が死亡したときは、使用貸借は終了する。」という肢(R4 問18 エ)は正しいです。代理権は代理人の死亡で消滅するので(111条1項2号)、被相続人が第三者から与えられていた代理権は相続人に承継されません。定期の給付を目的とする贈与は、書面によるかどうかを問わず、贈与者又は受贈者の死亡によって効力を失います(552条)。これに対し、詐欺による取消権は承継人も行使できるので(120条2項)、相続人も取り消すことができます。判例は、生命侵害の慰謝料請求権は被害者が請求の意思を表明しなくても当然に相続されるとしており(最大判昭和42年11月1日)、被害者が即死した場合も相続の対象になります。判例は、無権代理人が本人を他の相続人と共同相続した場合、無権代理行為を追認する権利は相続人全員に不可分的に帰属するとしています(最判平成5年1月21日)。その帰結は無権代理と相続の語で扱います。
占有は事実的支配がなくても相続人に移り、相続人は自己の占有だけを主張して善意悪意を選べます
判例は、被相続人が死亡して相続が開始するときは、特別の事情のない限り、従前その占有に属したものは当然に相続人の占有に移るとしています(最判昭和44年10月30日)。権原のない占有も承継されるので、相続人が相続財産を事実上支配していなくても、権原なく占有していた被相続人の占有は相続人に承継されます。また判例は、187条1項は相続のような包括承継にも適用され、相続人は被相続人の占有の善意悪意の地位をそのまま承継するのではなく、自己の占有のみを主張することも選べるとしています(最判昭和37年5月18日)。相続人が被相続人の占有を併せて主張するときは、相続人が占有を始めた時に悪意であっても、占有を始めた時に善意であった被相続人の占有により善意と判定されるとする肢(R6 問7 オ)は正しいです。占有の承継の詳細は前半の占有の承継と相続の語で扱います。賃貸借の保証人の相続人の責任について、従来の判例は相続開始後に生じた賃料債務にも及ぶとしていました。現在は、個人が賃借人の債務を保証する契約は個人根保証契約で、保証人の死亡で元本が確定するので(465条の4第1項3号)、個人である保証人の相続人は、相続開始後に生じた主債務について履行する責任を負いません。
系譜・祭具・墳墓は相続財産と別に祭祀を主宰すべき者が承継し、遺産分割の対象になりません
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、相続の一般原則にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し、被相続人の指定があればその者が承継します(897条1項)。慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めます(同条2項)。祭祀財産は相続財産とは別に承継されるので、被相続人の指定がなくても遺産分割の対象になりません。祭祀を主宰すべき者に、被相続人と氏が同じであるという要件はありません。
共同相続財産は共有に属し、可分債権・債務は相続分に応じて当然に分割されますが、預貯金債権と相続開始時の金銭は遺産分割の対象です
相続人が数人あるときは、相続財産は共有に属し(898条1項)、その性質は249条以下の共有と同じです。各相続人は自己の持分を処分できます。判例は、持分の過半数を持つ共有者でも、単独で占有する少数持分権者に当然には明渡しを請求できないとしています(最判昭和41年5月19日)。判例は、相続財産中の金銭その他の可分債権は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて承継するとしています(最判昭和29年4月8日)。遺産である貸金債権は、各相続人が自己の相続分に応じて単独で行使でき、共同相続人の一人が全額を請求しても、他の相続人の分について債務者の履行遅滞は生じません。株式は可分債権ではないので相続によって当然には分割されず、共同相続人の準共有に属して遺産分割の対象になります(264条・898条1項)。「Aの遺産である株式について,B及びCは,Aの相続開始により, 2 分の 1 ずつの割合で当該株式の持分を分割して取得することとなり,当該株式は,遺産分割の対象とはならない。」という肢(R3 問22 オ)は誤りです。これに対し判例は、共同相続された普通預金債権・通常貯金債権・定期貯金債権は相続開始と同時に当然に分割されることはなく遺産分割の対象となるとして、従来の判例を変更しました(最大決平成28年12月19日)。「Aを債権者とする普通預金債権について,B及びCは,Aの相続開始により,各相続分に応じて分割された同債権をそれぞれ取得することはなく,同債権は,遺産分割の対象となる。」という肢(R3 問22 ウ)は正しいです。遺産分割前の払戻しは909条の2で一定額まで認められます。判例は、相続人は遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を保管している他の相続人に自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないとしています(最判平成4年4月10日)。相続開始時の金銭は、相続開始と同時に当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象になります。

- 当然に分割される貸金債権などの可分債権(最判昭和29年4月8日)、金銭債務(連帯債務も相続分に応じて分割承継。最判昭和34年6月19日)、延滞賃料債務
- 遺産分割の対象預貯金債権(最大決平成28年12月19日)、相続開始時の金銭(最判平成4年4月10日)
- 各相続人が全部を負う不動産の引渡義務のような不可分債務
- 遺産とは別の財産相続開始後の賃料債権(最判平成17年9月8日)、全員の合意で売却した遺産の代金債権(最判昭和52年9月19日)
連帯債務は相続分に応じて分割承継され、相続開始後の賃料債権と遺産の売却代金は遺産分割の影響を受けない分割債権です
判例は、連帯債務者の一人が死亡した場合、その相続人らは被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲で本来の債務者とともに連帯債務者となるとしています(最判昭和34年6月19日)。債権者は、相続人の一人に被相続人の債務の全額を請求することはできず、その相続人が承継した範囲で請求できます。不動産の引渡義務は性質上不可分なので、各相続人がその全部について引渡義務を負います。相続時に延滞していた賃料債務は通常の金銭債務で、相続分に応じた分割債務となります。判例は、相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生じる賃料債権は、遺産とは別個の財産で、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後の遺産分割の遡及効の影響を受けないとしています(最判平成17年9月8日)。遺産分割で賃貸不動産を取得した相続人も、相続開始から遺産分割までの賃料債権を相続開始時に遡って取得することはありません。判例は、共同相続人全員の合意で遺産分割前に遺産の不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は持分に応じた代金債権を取得するとしています(最判昭和52年9月19日)。その代金債権は不可分債権ではなく、分割債権です。
民法 第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
民法 第897条第1項系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
試験ではこう問われる
- 使用貸借は借主の死亡で終了し、使用借権は相続されない。代理人の代理権も相続人に承継されない(597条3項・111条1項2号。R4 問18 エ ○)
- 詐欺の取消権と生命侵害の慰謝料請求権は相続される(120条2項・最大判昭和42年11月1日)
- 相続人は被相続人の占有を承継し、併せて主張するときは被相続人の占有開始の時の善意で判定される(最判昭和44年10月30日・187条。R6 問7 オ ○)
- 系譜・祭具・墳墓は祭祀を主宰すべき者が承継し、遺産分割の対象にならない(897条)
- 普通預金債権は当然には分割されず遺産分割の対象となり、株式も当然には分割されない(最大決平成28年12月19日。R3 問22 ウ ○、オ ×)
- 可分債権と金銭債務は相続分に応じて分割承継され、連帯債務の相続人は承継した範囲で連帯債務者となる(最判昭和29年4月8日・最判昭和34年6月19日)
- 相続開始後の賃料債権は分割単独債権で遺産分割の遡及効の影響を受けず、相続開始時の金銭は遺産分割まで保管者に支払を求められない(最判平成17年9月8日・最判平成4年4月10日)

