代物弁済(482条)だいぶつべんさい
代物弁済とは、弁済者が債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をし、その他の給付をすることで、その給付は弁済と同一の効力を有します(482条)。
1,000万円を借りている人が、お金の代わりに自分の土地を貸主に渡して借金を終わりにしたいと考えたとします。貸主が承知すれば、お金を払ったのと同じように借金は消えます。これが代物弁済です。ただし、約束をしただけで借金が消えるとすると、土地の登記が移らないうちに別の人へ売られたとき貸主は困ります。そこで、借金が消えるのは実際に土地を渡し終えた時とされ、それまでは借主はお金を払って借金を終わらせることもできます。

代物弁済は弁済者と債権者の契約で成立し、弁済者が他の給付をした時に弁済と同一の効力を生じます
482条は、弁済をすることができる者(弁済者)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は弁済と同一の効力を有すると定めています。平成29年改正前は、他の給付をして初めて成立する要物契約と理解されていましたが、現在は合意で成立する諾成契約であり、債務が消滅するのは他の給付をした時です。「代物弁済の契約が締結されれば,代物弁済の契約で定められた給付が現実になくても,弁済と同一の効力は生じます」という肢(R3 問16 ウ)は誤りです。合意の後も、他の給付が終わるまでは本来の債務は残るので、債務者は本来の給付をして債務を消滅させることができます。代物弁済の当事者は弁済者と債権者なので、Bが第三者に負う債務について、BがAに対して持つ債権を代わりに譲り渡す代物弁済は、Aの関与なしにでき、Aの意思に反してもできます。債権を譲渡する代物弁済で債務が消滅する時期については、「確定日付のある証書により、債務者が第三債務者に通知をし、又は第三債務者が承諾をした時に、債務消滅の効果が生じます」という肢(R7 問17 オ)が正しいとされています。
不動産による代物弁済では、所有権は合意の時に移転しますが、債務が消滅するのは所有権移転登記が完了した時です
判例は、不動産の所有権の譲渡による代物弁済で債務が消滅するのは、当事者の意思表示だけでは足りず、登記その他の引渡行為を完了して第三者に対する対抗要件を備えた時であるとしています(最判昭和40年4月30日)。所有権移転登記がされた事例で「代物弁済契約が成立した時点で、債務消滅の効果が生じます」とする肢(R7 問17 ウ)は誤りです。一方で、所有権の移転そのものは原則として代物弁済契約の意思表示によって生じます(最判昭和57年6月4日)。債務の消滅と所有権の移転は別の効果なので、「代物弁済契約が成立した時点で、所有権移転の効果が生じます」という肢(R7 問17 エ)は正しく、「金銭債権の債務者Aが、債権者Bとの間で、金銭の給付に代えてAが所有する甲土地の給付をする旨の代物弁済契約をした場合には、甲土地の所有権の移転の効果は、AからBへの所有権の移転の登記をした時に生ずる」という肢(R5 問7 ウ)は誤りです。登記の完了前に既存債務が弁済されれば、代物弁済の意思表示は効力を失うので(最判昭和43年12月24日)、債務者は登記の完了前なら本来の金銭を支払って債務を消滅させることができます。もっとも、登記に必要な書類を受領した時に債務を消滅させる特約は有効です(最判昭和43年11月19日)。金銭を払う代わりに土地を譲る合意は、代物弁済と解すれば登記の完了まで旧債務は消滅しないので(最判昭和39年11月26日)。

代物弁済は既存の債務を消滅させるための行為なので、債務の発生原因の契約が解除されたり目的物の前主が取り消したりすれば効力を失います
代物弁済は消滅させるべき債務があることを前提にしているので、債務の発生原因である契約が解除されて債務が遡って消滅すれば、代物弁済による所有権移転の効果も遡って失われます(最判昭和60年12月20日)。弁済者が前主から取得した土地で代物弁済をした後に、前主が強迫を理由に売買を取り消せば、強迫による取消しは善意の第三者にも対抗できる(96条3項は詐欺に限られます。大判昭和4年2月20日)ので、債権者は所有権を取得できず、他の給付をしたことにならないので債務は消滅しません。
既存の債務のために約束手形を振り出しても代物弁済とは推定されず、支払のための交付と推定されます
判例は、既存の金銭債務に関して約束手形が振り出された場合は、特別の事情がない限り、既存債務の支払のため(支払確保のため)に振り出されたものと推定し、代物弁済と主張する者がそれを証明しなければならないとしています(大判大正11年4月8日)。手形が確実に支払われるとは限らないので、債権者は既存の債務を残したまま手形を受け取るのが通常だからです。
代物弁済による債務の消滅は消滅を主張する者が合意と給付の完了を主張立証し、所有権の移転だけを主張するなら合意で足ります
代物弁済は債務を消滅させる事実なので、債務の消滅を主張する側が証明責任を負います。482条の文言から、債務の消滅を主張するには代物弁済の合意と他の給付をしたことを主張立証する必要があり、不動産による代物弁済なら登記の完了まで主張立証します。これに対し、所有権の移転だけを主張するときは合意で足ります。
民法 第482条(代物弁済)
弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
試験ではこう問われる
- 代物弁済の契約が締結されただけでは弁済と同一の効力は生じず、他の給付をした時に生じる(482条。R3 問16 ウ ×)
- 不動産による代物弁済で所有権が移転するのは代物弁済契約の時である(最判昭和57年6月4日。R7 問17 エ ○、R5 問7 ウ ×)
- 不動産による代物弁済で債務が消滅するのは所有権移転登記の完了時で、契約成立の時ではない(最判昭和40年4月30日。R7 問17 ウ ×)
- 債権を譲渡する代物弁済では、確定日付のある証書による通知又は承諾の時に債務消滅の効果が生じる(R7 問17 オ ○)
- 無権利者が動産で代物弁済をして現実に引き渡した場合、善意無過失の債権者は即時取得する(192条。R4 問8 ア ○)
- 他の給付の完了前は、債務者は本来の給付をして債務を消滅させられる(最判昭和43年12月24日)。登記書類の受領時に債務を消滅させる特約は有効(最判昭和43年11月19日)
- 既存債務のための約束手形の振出しは支払のためと推定され、代物弁済とは推定されない(大判大正11年4月8日)

