書面・方式を要する契約と要物契約の一覧(横断)しょめんほうしきをようするけいやくとようぶつけいやくのいちらん
要物契約とは、合意に加えて目的物の引渡しがあって初めて成立する契約で、現行民法では書面によらない消費貸借がこれに当たります(587条)。書面・方式を要する契約とは、保証契約や書面でする消費貸借のように、法律が書面(電磁的記録を含む)や公正証書でしなければ効力を生じないと定めた契約です。
契約は口約束でも成り立つのが原則で、契約書は後で争いになったときの証拠にすぎません。それでも民法や特別法は、軽はずみに重い責任を負うのを防ぎたい契約や、内容をはっきりさせておきたい契約について、書面や公正証書がなければ効力を生じないとしています。保証がその代表です。反対に、物を渡して初めて成り立つ要物契約は、令和2年の改正で大きく減り、いまは書面によらない消費貸借だけになりました。どの契約にどんな方式が要るかは、問題の形を変えて繰り返し出ます。

契約は諾成・不要式が原則で、書面などの方式は法律が定めた場合にだけ要ります
522条2項は、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないと定めています。委任は当事者の一方が法律行為を委託し相手方が承諾することで効力を生じ(643条)、成立にも第三者への主張にも書面は要りません。各当事者はいつでも委任を解除でき(651条1項)、書面の有無で変わりません。「委任は、その合意が書面によらないでされた場合に限り、各当事者がいつでもその解除をすることができる」という肢(R8 問19 オ)は誤りです。抵当権設定契約も合意だけで成立し、登記は対抗要件にすぎません。死因贈与(554条)について判例は、遺言の方式に関する規定は準用されず(最判昭和32年5月21日)、遺言の撤回に関する1022条はその方式に関する部分を除いて準用されるとしています(最判昭和47年5月25日)。死因贈与は書面によらず合意だけで成立し、撤回も遺言の方式による必要はなく、負担付でもできます。執行者を指定する死因贈与の合意が公正証書でない書面でされた場合も、執行者はその死因贈与による所有権の移転の登記を申請できます。「Aを所有権の登記名義人とする甲不動産について、AがBに死因贈与をし、その執行者としてCを指定する旨の合意が公正証書でない書面によってされた場合において、Aが死亡し、Cが死因贈与を原因とするAからBへの所有権の移転の登記を申請するときは、代理権限を証する情報の一部として、当該書面に押印されたAの印鑑に関する証明書又はAの相続人全員の承諾書に押された印鑑に関する証明書を提供しなければならない」という肢(R6 午後 問19 エ)は正しいです。寄託は無報酬が原則で、報酬を定めなくても成立します。組合の出資は労務でもよく(667条2項)、金銭に限られません。不動産を出資するときは、「A,B及びCが民法上の組合契約を締結し,Aを業務執行組合員とした場合において,A,B及びCが所有権の登記名義人である甲土地の所有権を当該組合契約のために出資するときは,B及びCは,各自が有する持分について,「民法第 667 条第 1 項の出資」を登記原因としてAに対する持分の全部の移転の登記を申請することができる」という肢(R3 午後 問18 ア)は正しいです。
保証契約は、書面か電磁的記録でしなければ効力を生じず、事業のための貸金等債務の個人保証は締結前1か月以内の公正証書が要ります
446条2項は、保証契約は書面でしなければその効力を生じないと定め、同条3項は、内容を記録した電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなしています。保証人が軽率に重い責任を負わないようにする趣旨で、連帯保証でも単純保証でも同じです。書面によらない保証契約は効力を生じないので、撤回を考える余地もありません。「保証契約は、その内容を記録した電磁的記録によっても有効に締結することができる」という肢(R6 問17 ア)は正しく、電子メールを相互に送受信する方法による保証契約も効力を生じます。個人根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じず、その定めにも446条2項・3項が準用されるので(465条の2第2項・第3項)、極度額の定めも書面又は電磁的記録でしなければなりません。事業のために負担した貸金等債務の個人保証は、契約の締結に先立ち、その締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示していなければ効力を生じません(465条の6第1項)。締結後に公正証書で表示しても効力は生じません。この規定は貸金等債務の保証に限られるので、「事業の用に供する建物の賃貸借契約に基づく賃料債務を主たる債務とする保証契約は、その契約の締結に先立ち、公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない」という肢(R6 問17 エ)は誤りです。保証の詳しい要件は保証の語で扱います。
消費貸借は、書面によらなければ物の受取りで成立する要物契約で、書面ですれば合意だけで成立します
587条は、消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって効力を生ずると定めています。587条の2第1項は、書面でする消費貸借は、金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方が同じ物をもって返還をすることを約することによって効力を生ずると定めています。書面による金銭消費貸借は、借主が金銭を受け取る前でも合意だけで効力を生じます。書面でする消費貸借で目的物を受け取るまで解除できるのは借主で(587条の2第2項)、貸主ではありません。「書面でする消費貸借契約の貸主は,借主に対して目的物を交付するまでは,契約の解除をすることができる」という肢(R2 問19 ア)は誤りです。すでにある債務を消費貸借の目的とする準消費貸借は、その合意で成立したものとみなされるので(588条)、目的物の引渡しは要りません。

贈与・使用貸借・寄託は諾成契約で、書面の有無は引渡し前に解除できるかどうかを分けるだけです
贈与(549条)は合意で成立し、書面によらない贈与は各当事者が解除できますが、履行の終わった部分は解除できません(550条)。「受贈者は、書面によらない贈与であれば、履行の終わった部分についても解除することができる」という肢(R6 問18 イ)は誤りです。判例は、贈与者の意思が書面に表れていれば足り、受贈者の承諾を示す書面がなくても書面による贈与に当たるとしています(大判明治40年5月6日)。この場合、贈与者は贈与契約を解除できません。改正前は要物契約だった使用貸借と寄託も、諾成契約になりました。使用貸借の貸主は、書面による場合を除き借主が借用物を受け取るまで解除でき(593条の2)、使用貸借の成立に書面は要りません。寄託では、無報酬の受寄者が書面によらない場合に限り寄託物を受け取るまで解除できるので(657条の2第2項)、書面によらない有償寄託の受寄者にこの解除権はありません。
特別法では、定期建物賃貸借と一般定期借地は書面で、事業用定期借地と任意後見契約は公正証書でしなければなりません
借地借家法38条1項は、期間の定めがある建物の賃貸借で契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等書面によって契約をするときに限りできるとしています。存続期間を50年以上とする一般定期借地権の特約も、公正証書による等書面によってしなければならず(借地借家法22条)、公正証書に限られません。公正証書が必要なのは、事業用定期借地権(借地借家法23条)の設定です。事業用定期借地権である賃借権が譲渡された場合の移転の登記には、譲渡契約に係る公正証書の謄本等は要りません。「事業用定期借地権である賃借権が譲渡された場合において、賃借権の移転の登記を申請するときは、添付情報として賃借権の譲渡契約に係る公正証書の謄本等又はこれに代わるべき裁判があったことを証する情報を提供しなければならない」という肢(R8 午後 問19 ウ)は誤りです。任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならず(任意後見契約に関する法律3条)、その他の書面ではできません。借地権・借家権の詳しい要件はそれぞれの語で扱います。
書面・方式と要物性の一覧
- 書面(電磁的記録を含む)が効力要件: 保証契約(446条2項・3項)、個人根保証の極度額の定め(465条の2第3項)、書面でする消費貸借(587条の2)
- 公正証書が効力要件: 事業のための貸金等債務の個人保証の保証意思(465条の6、締結前1か月以内)、事業用定期借地権、任意後見契約
- 公正証書による等書面: 定期建物賃貸借の更新否定の定め、一般定期借地権の特約
- 要物契約: 書面によらない消費貸借(587条)
- 諾成・不要式: 売買・贈与・使用貸借・賃貸借・委任・請負・寄託・組合・死因贈与・抵当権設定契約・準消費貸借
- 書面の有無で引渡し前の解除が変わる: 贈与(550条)・使用貸借(593条の2)・無報酬の寄託(657条の2第2項)・書面でする消費貸借の借主(587条の2第2項)
民法 第446条(保証人の責任等)
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
民法 第587条の2第1項前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
試験ではこう問われる
- 契約は法令に特別の定めがなければ方式不要で(522条2項)、委任は書面の有無にかかわらず各当事者がいつでも解除できる(651条1項。R8 問19 オ ×)
- 保証は書面か電磁的記録が効力要件で、電磁的記録でも有効に締結できる(446条2項・3項。R6 問17 ア ○)
- 公正証書による保証意思の表示が要るのは事業のための貸金等債務の保証で、事業用建物の賃料債務の保証には要らない(465条の6第1項。R6 問17 エ ×)
- 書面によらない消費貸借は要物契約、書面でする消費貸借は諾成契約で、目的物の受取り前に解除できるのは借主だけ(587条・587条の2。R2 問19 ア ×)
- 書面によらない贈与も、履行の終わった部分は解除できない(550条。R6 問18 イ ×)
- 死因贈与は方式不要で(最判昭和32年5月21日)、公正証書でない書面で執行者を指定した死因贈与でも、執行者が所有権の移転の登記を申請できる(R6 午後 問19 エ ○)
- 公正証書が要るのは事業用定期借地権の設定と任意後見契約で、事業用定期借地権である賃借権の移転の登記に公正証書の謄本等は要らない(R8 午後 問19 ウ ×)

