契約の成立(申込みと承諾・到達主義・意思実現)けいやくのせいりつ
契約の成立とは、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して相手方が承諾をしたときに、契約が効力を持つ合意として成り立つことです。法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式は要りません(522条)。
店先で「これをください」「はい、どうぞ」と言葉を交わせば、それだけで売買契約は成り立ちます。契約書を作らなくても、申込みと承諾がかみ合えば契約は成立するのが原則です。手紙やメールで離れた相手とやり取りする場合は、承諾がいつ契約を成立させるかが問題になります。現在の民法は、承諾の通知が申込者に届いた時に契約が成立するとしています。通信が速くなった今では、届くまで待っても取引は滞らないので、意思表示の一般原則にそろえたのです。

契約は申込みと承諾が合致した時に成立し、原則として書面などの方式は要りません
522条1項は、契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して相手方が承諾をしたときに成立すると定めています。申込みといえるには、相手方が「はい」と答えれば契約が成り立つ程度に内容が示されていなければなりません。売買の目的物も代金も示さずに「お譲りくださるお気持ちはありませんでしょうか」と尋ねる手紙は、相手方に申込みを促す申込みの誘引にとどまります。この場合は、相手方が「100万円でよろしければ甲をお譲りします」と返事をしたのが申込みで、それに対する「ありがとうございます」という返事が承諾です。契約は、この承諾の通知が届いた日に成立します。贈与(549条)も、ある財産を無償で与える意思表示と相手方の受諾の合致で効力を生じ、目的が他人の財産でも変わりません。「他人物を目的とする贈与は、贈与者がその物の所有権を取得した時からその効力を生ずる」という肢(R6 問18 ア)は誤りです。522条2項により、法令に特別の定めがある場合を除いて書面の作成その他の方式は要りません。書面が要る契約は別の語で一覧にしています。
承諾も到達主義によるので、承諾の通知が申込者に届いた時に契約が成立します
意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じます(97条1項)。「意思表示の通知が相手方に到達したというためには、その通知が相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる」という肢(R7 問5 ア)は正しいです。平成29年の債権法改正(令和2年4月施行)前は、隔地者間の契約は承諾の通知を発した時に成立するという特則(旧526条1項)がありましたが、改正で削除され、承諾も到達主義に一本化されました。「隔地者間の契約は、承諾の通知が申込者に到達したときは、承諾の通知を発した時に遡って成立する」という肢(R7 問5 ウ)は誤りです。承諾も到達するまでは効力を生じないので、承諾の通知を発した後に承諾を撤回する通知を発し、これが先に届けば承諾は効力を生じず、契約は成立しません。承諾期間の定めのある申込みでは、改正前から期間内に承諾の通知が届くことが必要で、期間内に届かなければ契約は成立しません。

申込みに変更を加えた承諾は、申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなされます
528条は、承諾者が申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなすと定めています。内容が合致しない以上は承諾にならない一方で、変更後の内容なら契約してよいという意思は表れているので、法はこれを新たな申込みとして扱います。100万円の申込みに対し「120万円でよろしければ甲をお譲りします」と返事をした場合は、この返事が新たな申込みになり、申込者が出した「それでは120万円で甲をお譲りください」という手紙が承諾になります。契約は、その手紙が届いた時に成立します。
承諾期間を過ぎて届いた承諾では契約は成立せず、申込者はその承諾を新たな申込みとみなすことができます
承諾の期間を定めてした申込みは、申込者がその期間内に承諾の通知を受けなかったときは効力を失います(523条2項)。承諾期間を申込みから1週間と定めた申込みに対し、申込みから10日後に承諾した場合は、申込みがすでに効力を失っているので契約は成立していません。もっとも、申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができ(524条)、これに承諾すれば契約が成立します。改正前は、通常なら期間内に届くはずだった承諾が延着したとき、申込者が延着の通知をしなければ期間内に届いたものとみなす制度(旧522条)がありましたが、改正で削除されました。延着の通知をしなかったことを理由に契約が成立することはありません。
承諾の通知を必要としない場合は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に契約が成立します
527条は、申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立すると定めています。申込みに沿う行為そのものを承諾とみて成立を認めるもので、意思実現と呼ばれます。注文書に「返事は要らないので製造に着手してください」とある場合の製造の着手、返信不要として商品の発送を求められた場合の発送、宿泊の申込みを受けた旅館が客室を用意することがその例です。成立の時期は製造に着手した時であって、申込者がそれを知った時ではありません。
契約の成立の時に履行が不能であっても、そのことだけで契約は無効になりません
改正前は、契約の時にすでに目的物が滅失しているなど給付が不能な契約(原始的不能)は無効と解されるのが一般でした。412条の2第2項は、契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、415条によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げないと定め、原始的不能の契約も有効に成立することを前提にしています。そのため、売買契約の締結の前日に目的物が焼失していたとしても、売買契約は効力を生じます。買主は履行を請求できませんが(412条の2第1項)、債務不履行の一般原則に従って損害賠償を請求したり契約を解除したりできます。原始的不能と代償請求権、契約交渉の段階で生じる説明義務などの責任は、債権の効力の語で扱います。
民法 第522条(契約の成立と方式)
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
民法 第527条(承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期)
申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
民法 第528条(申込みに変更を加えた承諾)
承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。
試験ではこう問われる
- 契約は申込みに対する承諾で成立し、法令に特別の定めがなければ書面の作成その他の方式は要らない(522条)
- 承諾も到達主義により、承諾の通知が申込者に届いた時に契約が成立し、発信の時に遡らない(97条1項。旧526条1項は削除。R7 問5 ウ ×)
- 到達といえるには、通知が相手方の了知可能な状態に置かれれば足りる(R7 問5 ア ○)
- 変更を加えた承諾は申込みの拒絶とともに新たな申込みとみなされ、申込者は遅延した承諾を新たな申込みとみなせる(528条・524条)
- 意思実現による契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立し、申込者がそれを知る必要はない(527条)
- 他人の財産を目的とする贈与も合意で効力を生じ、贈与者が所有権を取得した時から効力を生ずるのではない(549条。R6 問18 ア ×)
- 契約の成立の時に履行が不能であっても、契約は無効にならない(412条の2第2項)

