債権質(362条〜366条・対抗要件・直接取立て・担保価値維持義務)さいけんしち
債権質とは、債権を目的とする質権です(362条1項)。対抗要件は債権譲渡と同じく第三債務者への通知又はその承諾で(364条)、質権者は目的債権を直接に取り立てることができます(366条)。
会社が銀行からお金を借りるとき、取引先に対する売掛金や敷金返還請求権を担保に差し出すことがあります。債権そのものを質に入れる債権質です。債権には形がないので、目的物を預ける代わりに、第三債務者に「この債権は質に入りました」と知らせることが要になります。知らせた後は、第三債務者が設定者に払っても質権者には通じません。質権者は、競売の手続を経ずに、第三債務者から直接取り立てて回収できます。

債権は質権の目的になり、質権者自身に対する債権も目的にできますが、性質上譲渡できない債権には設定できません
362条1項は、質権は財産権をその目的とすることができると定め、債権も質権の目的になります。債権質には、性質に反しない限り質権の総則・動産質・不動産質の規定が準用され(同条2項)、譲り渡すことができない物を目的にできないとする343条も準用されます。質権者自身が債務者になっている債権、たとえば銀行が自行の預金債権を質に取ることもできます(最判昭和40年10月7日)。「権利質は,質権者自身に対する債権をその目的とすることができない」という肢(R3 問12 イ)は誤りです。現に発生していない債権も質権の目的にでき(364条)、「現に発生していない債権も、質権の目的とすることができる」という肢(R7 問13 オ)は正しいです。通常の債権の質入れに証書の交付は要りません。ただし、指図証券のように譲渡に証券の交付を要する債権を質に入れるときは、証券の交付が効力の要件になります(520条の7など)。
譲渡制限の意思表示がされた債権でも、質権の設定は効力を妨げられません
466条2項は、当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡はその効力を妨げられないと定めています。債権質の設定も債権の処分なので、質入れを禁止する合意があっても、質権の設定は有効です。ただし、その意思表示を知り、又は重大な過失によって知らなかった質権者に対しては、第三債務者は履行を拒むことができます(同条3項)。「当事者が譲渡を禁止する旨の意思表示をした債権を目的とする質権の設定は,その意思表示がされたことを質権者が知っていたときは,無効である」という肢(R3 問12 エ)は誤りです。
対抗要件は第三債務者への通知又はその承諾で、第三者には確定日付が要り、法人が設定者なら債権譲渡登記でも備えられます
364条は、債権を目的とする質権の設定は、467条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者が承諾しなければ、第三債務者その他の第三者に対抗することができないと定めています。第三債務者以外の第三者に対抗するには、確定日付のある証書による通知又は承諾が要ります(467条2項)。「AがBのためにCに対する債権を目的とする質権を設定し,Cに確定日付のある証書によってその通知をしたときは,Bは,その後にこの債権を差し押さえたAの他の債権者に対し,質権の設定を対抗することができる」という肢(R3 問12 オ)は正しいです。第三債務者に対抗するだけなら確定日付は要らないので、「第三債務者に対する質権の設定の通知又は第三債務者の承諾が確定日付のある証書によってされなければ、質権者は、債権を目的とする質権の設定を当該第三債務者に対抗することができない」という肢(R4 問14 ウ)は誤りです。法人が債権を質に入れるときは、債権譲渡登記ファイルに質権の設定を登記すれば、第三債務者以外の第三者に対しては確定日付のある通知があったものとみなされます(動産・債権譲渡特例法14条・4条1項)。対抗要件は質権の成立や存続の要件ではないので、二重に質入れされ後の質権者が先に対抗要件を備えても、先の質権者が質権を失うわけではなく、対抗できなくなるだけです。同一の債権に数個の質権を設定することもできるので、「同一の債権について複数の質権を設定することはできない」という肢(R4 問14 エ)は誤りです。その順位について「同一の債権について数個の質権が設定された場合には、その質権の順位は、設定の前後による」という肢(R7 問13 ウ)も誤りです。
第三債務者は通知を受けるまでに設定者に生じた事由を質権者に対抗できますが、通知の後の弁済や、その後に取得した債権による相殺は対抗できません
第三債務者は、質権の対抗要件が備わるまでに設定者に対して生じた事由を質権者に対抗できます(468条1項の趣旨)。通知を受ける前に設定者に弁済し、又は一部の免除を受けていれば、それを質権者に主張できます。反対に、通知又は承諾の後に第三債務者が設定者に弁済しても、質権者には対抗できません。通知の後に第三債務者が設定者に対して取得した債権を自働債権とする相殺も、質権者に対抗できません(大判大正5年9月5日)。異議をとどめない承諾による抗弁の切断(旧468条1項)は廃止されたので、異議をとどめない承諾だけでは抗弁は切断されません。

質権者は目的債権を自己の名で直接取り立てられ、金銭債権なら自己の債権額の範囲に限られ、双方の弁済期の到来が必要です
366条1項は、質権者は質権の目的である債権を直接に取り立てることができると定めています。民事執行の手続によらない実行の方法で、質権者は自己の名で取り立てます。金銭債権でなくても直接取り立てられ、弁済として受けた物について質権を持ちます(同条4項)。「債権の目的物が金銭でないときは,その債権を目的とする質権を有する質権者は,弁済として受けた物について質権を有する」という肢(R3 問12 ウ)は正しいです。目的債権が金銭債権のときは、自己の債権額に対応する部分に限り取り立てられます(同条2項)。「質権者は、質権の目的となっている金銭債権について、自己の債権額に対応する部分に限り、取り立てることができる」という肢(R4 問14 ア)は正しく、「質権者は、被担保債権である金銭債権及び質権の目的である金銭債権の弁済期がいずれも到来したときは、被担保債権の額にかかわらず、質権の目的である金銭債権の全額を取り立てることができる」という肢(R7 問13 イ)は誤りです。取立てには被担保債権の弁済期の到来も要り、目的債権の弁済期が先に来たときは、質権者は第三債務者に弁済すべき金額を供託させることができ、質権は供託金の上に存続します(同条3項)。「質権の目的である金銭債権の弁済期が到来したときは,質権者は,被担保債権の弁済期の到来前であっても,質権の目的である金銭債権を直接取り立てることができる」という肢(R3 問12 ア)は誤りです。質権の効力は、目的債権の利息(果実。362条2項・350条・297条)や、目的債権を担保する保証債権にも及びます。
設定者は目的債権の担保価値を維持する義務を負いますが、債権者であることは変わらず、質権の負担付きで譲渡したり、時効の完成猶予・更新のために訴えたりできます
判例は、債権が質権の目的とされた場合、質権設定者は質権者に対して当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い、債権の放棄、免除、相殺、更改など債権を消滅・変更させる一切の行為その他担保価値を害する行為は、この義務に違反して許されないとしています(最判平成18年12月21日)。「質権の設定者は、質権の目的となっている債権を取り立てることはできない」という肢(R4 問14 イ)と、「質権設定者は、被担保債権の弁済期の到来前であっても、質権の目的である債権を自働債権として相殺をすることはできない」という肢(R7 問13 エ)は正しいです。もっとも、質入れをしても目的債権の債権者は設定者のままなので、設定者は質権の負担の付いた債権を第三者に譲渡できます。設定者は、目的債権の消滅時効を止めるため、第三債務者を被告として債権存在確認の訴えを提起することもできます。
民法 第364条(債権を目的とする質権の対抗要件)
債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者にその質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
民法 第366条第1項質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
民法 第366条第2項債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
民法 第366条第3項前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
試験ではこう問われる
- 質権者自身に対する債権も、現に発生していない債権も、質権の目的にできる(最判昭和40年10月7日・364条。R3 問12 イ ×、R8 問12 オ ○、R7 問13 オ ○)
- 譲渡制限の意思表示がある債権も、悪意の質権者に有効に質入れできる(466条2項。R3 問12 エ ×)
- 第三債務者に対抗するには確定日付は要らず、差押債権者などの第三者に対抗するには確定日付のある通知又は承諾が要る(364条・467条。R4 問14 ウ ×、R3 問12 オ ○)
- 同一の債権に数個の質権を設定できる(R4 問14 エ ×、R7 問13 ウ ×)
- 金銭債権は自己の債権額に対応する部分に限り取り立てられ、金銭でない債権は弁済として受けた物の上に質権を持つ(366条2項・4項。R4 問14 ア ○、R7 問13 イ ×、R3 問12 ウ ○)
- 被担保債権の弁済期が来ていなければ直接取り立てられず、目的債権の弁済期が先なら供託させる(366条3項。R3 問12 ア ×)
- 設定者は担保価値維持義務を負い、目的債権を取り立てることも、目的債権を自働債権として相殺することもできない(最判平成18年12月21日。R4 問14 イ ○、R7 問13 エ ○)

