質権総論と動産質(342条〜355条・要物性・代理占有の禁止・転質・流質・占有喪失)しちけんそうろんとどうさんしち
質権とは、債権者が債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、その物について他の債権者に先立って弁済を受ける約定担保物権です(342条)。質権の設定は目的物の引渡しによって効力を生じ、質権者は設定者に代わりに占有させることができません(344条・345条)。
質屋に腕時計を預けてお金を借りると、返済するまで時計は質屋の手元に置かれます。返済できなければ、質屋は時計から優先的に回収します。物を手元に置いて返済を促し、いざとなれば換価して回収するのが質権です。物を預けること自体が質権の中身なので、預けたふりをして持ち主の手元に残すことは許されません。他方で、物を預かる質権者は、物を大切に扱い、勝手に処分しないよう、いくつもの決まりに縛られます。

質権の設定は目的物の引渡しで効力を生じ、引渡しは指図による占有移転でもよいのですが、占有改定ではできません
344条は、質権の設定は債権者にその目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、質権設定契約は要物契約になっています。引渡しには、現実の引渡しのほか、簡易の引渡しや指図による占有移転(184条)も含まれます(大判昭和9年6月2日)。「質権は、指図による占有移転により設定することができる」という肢(R8 問12 ウ)は正しく、「質権の設定は、債権者にその目的物を現実に引き渡さなければ、その効力を生じない」という肢(R5 問14 イ)は誤りです。しかし、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができない(345条)ので、設定者の手元に置いたままの占有改定では質権は成立しません。留置的効力を実際に働かせるためです。質権は債務者のほか第三者も設定できるので(342条)、「債務者以外の者は、質権を設定することができない」という肢(R8 問12 イ)は誤りです。質権は譲り渡すことができない物を目的とすることができません(343条)。質権の設定は取引行為なので、即時取得の対象になり、無権利者から善意無過失で質入れを受けて現実の引渡しを受けた者は質権を取得します。所有者からの引渡請求に対して質権の即時取得を主張する占有者は、質権設定の合意とそれに基づく引渡しを主張立証しなければなりません。

同一の動産に複数の質権を設定でき、質権者は設定者の承諾がなくても自己の責任で転質できます
355条は、同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は設定の前後によると定めており、複数の質権の設定を予定しています。第三者に保管させた動産について、指図による占有移転で順に質入れすればよいからです。348条は、質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について転質をすることができると定めています。判例は、この規定により、質物の所有者の承諾を要しない責任転質を認めています(大連決大正14年7月14日)。転質による損失は不可抗力によるものでも質権者が責任を負います。「質権者は、その権利の存続期間内において、質権設定者の承諾がなくとも、質物を第三者に引き渡して、当該第三者のために転質権を設定することができる」という肢(R5 問14 ウ)は正しいです。
質権の被担保債権の範囲は広く、利息について最後の2年分という制限はありません
346条は、質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保し、設定行為に別段の定めがあるときはこの限りでないと定めています。質権者は目的物を占有していて、後から利害関係を持つ第三者が現れにくいので、抵当権(375条)よりも範囲が広く、利息について最後の2年分の制限もありません。「動産質権は、設定行為に別段の定めがない場合には、質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない」という肢(R5 問11 ウ)は誤りです。被担保債権は金銭債権に限られず、「質権は、金銭債権以外の債権を担保するために設定することができる」という肢(R8 問12 ア)は正しいです。設定行為で別段の定めをすれば範囲を狭められるので、利息を除く特約も有効です。
質権者は弁済まで質物を留置し、果実を収取し、保存に必要な使用ができ、支出した必要費の償還を請求できます
質権者は、346条の債権の弁済を受けるまで質物を留置できます(347条)。質権者が先に質物を返す必要はなく、被担保債権の弁済が先です。そのため、設定者が弁済前に質物の返還を求める訴えを起こし、質権者が質権の抗弁を主張したときは、引換給付判決ではなく請求棄却の判決になり、「質権設定者が被担保債権の弁済前に質権者に対して訴訟を提起して目的物の返還を請求し、質権者が質権の抗弁を主張した場合には、裁判所は、当該請求を棄却するとの判決をするのではなく、被担保債権の弁済と引換えに目的物を引き渡せとの引換給付判決をしなければならない」という肢(R5 問14 オ)は誤りです。留置権の規定が準用される(350条)ので、質権者は質物から生ずる果実を収取して他の債権者に先立って弁済に充当でき(297条)、善良な管理者の注意をもって質物を占有し(298条1項)、設定者の承諾がなくても保存に必要な使用ができます(298条2項ただし書)。「質権者は、質物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、被担保債権の弁済に充当することができる」という肢(R5 問14 ア)は正しく、「質権者は、質権者による質物の使用について質権設定者の承諾がなく、かつ、目的物の保存のために質物の使用の必要がない場合であっても、質物の使用をすることができる」という肢(R5 問14 エ)は誤りです。質物について必要費を支出したときは、所有者に償還させることができます(299条1項)。
流質契約は弁済期前に限って禁止され、質物で直ちに弁済に充てるには鑑定人の評価に従って裁判所に請求します
349条は、質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させるなど法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができないと定めています。困窮した債務者が弁済期前に不利な約束をさせられるのを防ぐ趣旨なので、弁済期後の合意は許されます。「質権設定者は、被担保債務の弁済期が到来した後、質権者との間で、被担保債務の弁済として質物の所有権を質権者に取得させる旨の合意をすることができる」という肢(R7 問11 ウ)は正しいです。動産質権者は、債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求でき、あらかじめ債務者に通知しなければなりません(354条)。競売では費用倒れになる場合などのための制度です。
動産質権者は占有を奪われると占有回収の訴えによるだけで、質物を設定者に返しても質権そのものは消滅しません
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、質権を第三者に対抗できません(352条)。占有の継続は対抗要件です。そして、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ質物を回復できます(353条)。質権そのものに基づく返還請求はできません。この制限は動産質権の規定なので、不動産質権について「質権の目的である不動産の占有が第三者に奪われたときは、質権者は、当該第三者に対し、質権に基づいて当該不動産の返還を求めることができない」とする肢(R8 問12 エ)は誤りです。いったん有効に質権を取得した後に質権者が質物を設定者に任意に返しても、判例は質権は消滅しないとしています(大判大正5年12月25日)。占有は成立の要件で、成立後の占有の継続は対抗の問題にとどまるからです。動産質ならば第三者に対抗できなくなり、登記を対抗要件とする不動産質ならば影響がありません。
民法 第344条(質権の設定)
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
民法 第345条(質権設定者による代理占有の禁止)
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
民法 第346条(質権の被担保債権の範囲)
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
民法 第349条(契約による質物の処分の禁止)
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
民法 第353条(質物の占有の回復)
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。
試験ではこう問われる
- 質権の設定は引渡しで効力を生じ、指図による占有移転でもよいが、占有改定ではできない(344条・345条。R8 問12 ウ ○、R5 問14 イ ×)
- 債務者以外の第三者も質権を設定でき、金銭債権以外の債権を担保するためにも設定できる(342条。R8 問12 イ ×、R8 問12 ア ○)
- 質権者は設定者の承諾なく自己の責任で転質できる(348条。R5 問14 ウ ○)
- 質権は、別段の定めがなければ質物の隠れた瑕疵による損害の賠償も担保する(346条。R5 問11 ウ ×)
- 果実を収取して優先弁済に充当できるが、保存に必要な場合を除き承諾なく使用できない(350条・297条・298条。R5 問14 ア ○、R5 問14 エ ×)
- 質権の抗弁が認められると、引換給付判決ではなく請求棄却になる(R5 問14 オ ×)
- 弁済期後は、弁済として質物の所有権を質権者に取得させる合意ができる(349条。R7 問11 ウ ○)

