担保物権の通有性と効力の比較(付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力・競売申立権)たんぽぶっけんのつうゆうせいとこうりょくのひかく
担保物権の通有性とは、担保物権におおむね共通して認められる付従性・随伴性・不可分性・物上代位性のことです。民法の担保物権は留置権・先取特権・質権・抵当権の4つで、どの性質と効力(優先弁済的効力・留置的効力・競売申立権)を持つかが少しずつ違います。
お金を貸すとき、借り手の財産から確実に回収できるようにしておく仕組みが担保物権です。民法は4種類を用意していて、修理代を払うまで品物を返さない留置権、給料や売買代金などに法律が当然に優先権を与える先取特権、品物を預かる質権、預からずに登記で押さえる抵当権があります。どれも債権を守るための道具なので共通の性質を持ちますが、道具ごとに得意なことが違い、その違いが一覧で問われます。

留置権と先取特権は法律の要件を満たせば当然に生じ、質権と抵当権は当事者の合意で生じます
留置権と先取特権は、当事者の合意がなくても法律の定めた要件を満たせば生じる法定担保物権です。質権と抵当権は、当事者の設定契約によって生じる約定担保物権です。目的物の範囲も違います。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を持つときに成立し(295条1項)、その物が債務者の物である必要はありません。一般の先取特権は債務者の総財産について成立する(306条)ので、債務者以外の者の財産には成立しません。質権は債務者又は第三者から受け取った物について成立し(342条)、抵当権も債務者又は第三者が担保に供した不動産について成立します(369条1項)。第三者が自分の物を担保に出す者を物上保証人といいます。「債務者以外の者は、質権を設定することができない」という肢(R8 問12 イ)は誤りです。抵当権の目的は不動産と地上権・永小作権なので(369条)、「民法の規定する約定担保物権は、全て債権を目的とすることができます」という解答(R4 問11 オ)は誤りです。
付従性・随伴性・不可分性は4つに共通しますが、留置権の随伴性は目的物の占有が一緒に移らなければ働きません
担保物権は債権を守るための手段なので、被担保債権がなければ成立せず、債権が消えれば消滅します(付従性)。被担保債権が譲渡されれば担保物権も一緒に移転します(随伴性)。不動産保存の先取特権について、被担保債権を譲渡したときに「いいえ。被担保債権の譲渡があった場合には,新たな債権者に不動産保存の先取特権が移転しますので,甲建物についての不動産保存の先取特権は消滅しません」という解答(R2 問11 オ)は正しいです。もっとも、留置権は物を占有していることが成立と存続の要件なので(295条1項・302条)、債権が譲渡されても、目的物の占有が譲受人に移らなければ留置権は譲受人に移りません。元本の確定前の根抵当権には随伴性がなく(根抵当権の語で扱います)、個々の債権が消えても根抵当権は消えないので、「民法の規定する担保物権には、全て付従性があります」という解答(R4 問11 イ)は誤りです。担保物権者は、債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部について権利を行使できます(不可分性。留置権の296条を先取特権に305条、質権に350条、抵当権に372条で準用)。一部の弁済を受けても、担保物権が半分になることはありません。
物上代位性は先取特権・質権・抵当権にあり、留置権にはありません
304条は、先取特権は目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使できるとし、払渡し又は引渡しの前に差押えを要求しています。この規定は質権(350条)と抵当権(372条)に準用されますが、留置権には準用されていません。留置権は物を留め置いて弁済を促す権利で、目的物の交換価値を把握していないからです。留置している建物が火災で滅失した事例で、保険金請求権に物上代位できるかという問に「いいえ。Aは、Bが取得した保険金請求権に物上代位することはできません」とする解答(R5 問12 エ)は正しいです。物上代位の要件と差押えの意味は、動産売買先取特権の物上代位と抵当権に基づく物上代位の語で扱います。

優先弁済的効力は留置権以外の3つにあり、留置権者も競売を申し立てられますが換価金から優先弁済は受けられません
先取特権・質権・抵当権は、目的物の価値から他の債権者に先立って弁済を受ける優先弁済的効力を持ちます(303条・342条・369条1項)。「民法の規定する約定担保物権には、全て優先弁済的効力があります」という解答(R4 問11 エ)は正しいです。留置権にはこの効力がなく、物を留め置くことで弁済を間接的に促す留置的効力だけを持ちます。留置的効力は留置権と質権にあり、「質権にも留置的効力があります」という解答(R4 問11 ア)は正しいです。もっとも民事執行法195条は留置権による競売を認めているので、留置権者も目的物の競売を申し立てることができます(形式競売)。換価金から優先弁済を受けるのではなく、換価金の上に留置権を持ち続ける扱いです。「留置権者は、留置権による競売を申し立てることができない」という肢(R7 問11 ア)は誤りです。優先弁済の範囲について、抵当権者が利息その他の定期金を請求する権利を持つときは、満期となった最後の2年分についてのみ抵当権を行使できます(375条1項)。抵当権者は抵当不動産の代価から弁済を受けない部分についてのみ他の財産から弁済を受けられ、抵当不動産より先に他の財産の代価を配当するときは、他の債権者は抵当権者に配当すべき金額の供託を請求できます(394条)。
- 留置権(法定)付従性・随伴性・不可分性があり、物上代位性・優先弁済的効力はありません。留置的効力と競売申立権があります
- 先取特権(法定)付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力があります。留置的効力はありません
- 質権(約定)付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力があります
- 抵当権(約定)付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力があります。留置的効力はありません
同一不動産上の順位は原則として登記の先後で決まりますが、登記した不動産保存・工事の先取特権は先に登記された抵当権にも優先します
同じ不動産の上に先取特権・質権・抵当権が並ぶとき、順位は原則として登記の先後で決まります。例外として、不動産保存の先取特権は保存行為の完了後直ちに登記し(337条)、不動産工事の先取特権は工事を始める前に費用の予算額を登記すれば(338条1項)、抵当権に先立って行使できます(339条)。保存や工事は不動産の価値を守り、又は高めて、抵当権者にも利益になるからです。同一不動産上の先取特権・質権・抵当権の順位が、例外なく登記の前後で決まるわけではありません。不動産の先取特権の登記と順位は、不動産の先取特権の語で扱います。
留置権や質権を行使して目的物を占有していても、被担保債権の消滅時効は進行します
300条は、留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げないと定め、この規定は質権に準用されます(350条)。物を留め置いていても、債権そのものを行使していることにはならないからです。留置権を裁判手続外で行使している事例で「はい。Aが甲建物を留置している間は、必要費償還請求権の消滅時効は進行しません」とする解答(R5 問12 ア)は誤りです。留置権の抗弁と時効の関係は、留置権の効力と消滅の語で扱います。
民法 第350条(留置権及び先取特権の規定の準用)
第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
民法 第372条(留置権等の規定の準用)
第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
民法 第304条第1項先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
民法 第339条(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。
民法 第300条(留置権の行使と債権の消滅時効)
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。
試験ではこう問われる
- 質権は債務者以外の第三者も設定でき、留置権は債務者以外の者の物にも成立するが、一般の先取特権は債務者の総財産にだけ成立する(342条・295条・306条。R8 問12 イ ×)
- 抵当権は債権を目的にできないので、約定担保物権の全てが債権を目的にできるわけではない(369条。R4 問11 オ ×)
- 元本の確定前の根抵当権があるので、民法の担保物権の全てに付従性があるわけではない(R4 問11 イ ×)
- 被担保債権が譲渡されれば担保物権も移転する(随伴性。R2 問11 オ ○)が、留置権は占有が移らなければ移転しない
- 物上代位性は先取特権・質権・抵当権にあり、留置権にはない(304条・350条・372条。R5 問12 エ ○)
- 約定担保物権には全て優先弁済的効力があり、留置的効力は留置権のほか質権にもある(R4 問11 エ ○、R4 問11 ア ○)
- 留置権者も競売を申し立てられるが優先弁済は受けられず、留置している間も被担保債権の消滅時効は進行する(民事執行法195条・300条。R7 問11 ア ×、R5 問12 ア ×)

