債権の混同(520条)さいけんのこんどう
債権の混同とは、債権と債務が同一人に帰属することで、その債権は消滅しますが、その債権が第三者の権利の目的であるときは消滅しません(520条)。
父にお金を貸していた子が、父の死亡で父の財産と借金を一人で相続したとします。子は自分に対して貸金を請求することになり、そのまま残しておく意味がありません。そこで民法は、債権と債務が同じ人に帰属したときは、その債権は消滅するとしています。これが債権の混同です。ただし、その債権に質権が設定されていたり差し押さえられていたりして、他人がその債権に利害を持っている場合には、消してしまうとその人が困るので、債権は消滅しません。

債権と債務が同一人に帰属すれば債権は消滅しますが、その債権が第三者の権利の目的であるときは消滅しません
520条は、債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は消滅し、ただしその債権が第三者の権利の目的であるときはこの限りでないと定めています。債権質に供されている債権を債務者が相続しても、質権者の権利を守るため債権は消滅しません。差し押さえられた債権も、差押債権者が取り立てる地位を持つので同じで、差押えの後に債務者が債権者を相続しても、その債権は消滅しません。保証人が債権者を相続すれば、債権者の保証債権と保証人の保証債務が同一人に帰属するので、保証債務は混同で消滅します。所有権と他の物権が同一人に帰属した場合の物権の混同は179条が定めていて、物権の混同の語で扱います。
相続による混同は単純承認なら生じますが、限定承認をすれば被相続人に対する権利は消滅しなかったものとみなされます
唯一の相続人が単純承認をすれば、被相続人の権利義務を無限に承継する(920条)ので、相続人が被相続人に対して持っていた貸金債権は、第三者の権利の目的である場合を除き混同で消滅します。これに対し、925条は、相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は消滅しなかったものとみなすと定めています。限定承認は相続財産の範囲で相続債務を清算する手続なので、相続人の債権も相続債権者と同じように清算に加わる必要があるからです。保証人が主たる債務者を相続した場合は、債権者が別にいるので債権と債務の混同は起きず、判例は、保証人は主たる債務者としての地位も兼ねるとしています(最判平成25年9月13日)。保証債務を担保する抵当権があれば、保証債務は消滅しません。

連帯債務者の一人と債権者の間に混同が生じれば、その連帯債務者は弁済をしたものとみなされ、他の連帯債務者に求償できます
440条は、連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は弁済をしたものとみなすと定めています。更改(438条)・相殺(439条1項)と並ぶ絶対的効力事由で、その連帯債務者は他の連帯債務者に負担部分に応じて求償できます(442条1項)。連帯債権でも同じ扱いで、「連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、債務者は弁済をしたものとみなされる」という肢(R4 問16 イ)は正しいです(435条)。求償権の範囲で弁済による代位もできます(弁済による代位の語で扱います)。
賃貸人の地位と転借人の地位が同一人に帰属しても転貸借は当然には消滅せず、混同で消えた賃借権も第三者との関係では消滅しなかったものになることがあります
判例は、家屋の賃貸人の地位と転借人の地位が同一人に帰した場合、613条1項による転借人の賃貸人に対する直接の義務は混同で消滅しても、特別の合意がない限り転貸借関係は当然には消滅しないとしています(最判昭和35年6月23日)。転貸借は賃借人と転借人の間の契約であって、賃貸人と転借人の間の債権債務ではないからです。賃借人が賃貸建物を譲り受けると賃借権は混同で消滅しますが、所有権移転登記をしないうちに二重譲受人が登記を備えて賃借人が所有権を対抗できなくなったときは、賃借権は第三者との関係では消滅しなかったものとなります(最判昭和40年12月21日)。対抗要件を備えた土地賃借権の後に土地に抵当権が設定された場合に賃借人が土地の所有権を取得しても賃借権が消滅しないこと(最判昭和46年10月14日。179条1項ただし書の準用)は、物権の混同の語で扱います。
民法 第520条債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
民法 第440条(連帯債務者の一人との間の混同)
連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。
民法 第925条(限定承認をしたときの権利義務)
相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
試験ではこう問われる
- 連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、債務者は弁済をしたものとみなされる(435条。R4 問16 イ ○)
- 債権と債務が同一人に帰属すれば債権は消滅するが、債権質に供された債権・差し押さえられた債権のように第三者の権利の目的なら消滅しない(520条)
- 保証人が債権者を相続すれば保証債務は消滅するが、主たる債務者を相続しても保証債務は当然には消滅しない(最判平成25年9月13日)
- 単純承認をした唯一の相続人の被相続人に対する債権は消滅するが、限定承認なら消滅しなかったものとみなされる(925条)
- 連帯債務者の一人と債権者の混同は弁済とみなされ、他の連帯債務者に求償できる(440条)
- 賃貸人の地位と転借人の地位が同一人に帰しても転貸借は当然には消滅しない(最判昭和35年6月23日)
- 抵当権者が抵当不動産の所有権を取得して抵当権が混同で消滅したときの抹消の登記では、抵当権の設定の登記の際に通知された登記識別情報を提供する(179条の物権の混同。R8 午後 問22 オ ○)

