相続の承認と放棄(915条〜940条・熟慮期間・法定単純承認・限定承認)そうぞくのしょうにんとほうき
相続の承認と放棄とは、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に、被相続人の権利義務を無限に承継する単純承認、相続財産の限度で債務を弁済する限定承認、初めから相続人とならなかったことになる相続放棄のいずれかを選ぶことです(915条・920条・922条・939条)。
親が亡くなると、財産だけでなく借金も受け継ぐことになります。借金の方が多いときにまで相続を強いるのは酷なので、民法は相続人に三つの選択肢を与えました。すべてを受け継ぐ単純承認、受け継いだ財産の範囲でだけ借金を払う限定承認、何も受け継がない相続放棄です。選ぶための期間は、相続の開始を知った時から3か月です。期間内に何もしなかったり、遺産を売ってしまったりすると、単純承認をしたものとみなされます。

熟慮期間は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月で、未成年者は法定代理人が知った時から数え、熟慮中は固有財産と同一の注意で管理します
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならず、この期間は利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所が伸長できます(915条1項)。「家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続の承認又は放棄をすべき期間を伸長することができる。」という肢(R7 問21 ア)は正しく、「相続の承認又は放棄をすべき期間は,伸長することができない。」という肢(R2 問22 ア)は誤りです。判例は、相続人が相続財産が全く存在しないと信じ、そう信ずるについて相当な理由があるときは、熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常認識しうべき時から起算すべきだとしています(最判昭和59年4月27日)。相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、法定代理人が本人のために相続の開始があったことを知った時から起算します(917条)。相続人が承認も放棄もせずに死亡したときは、その相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算します(916条)。「Aの相続人Bが相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合には、Bの相続人Cは、Bに係る相続の開始があったことを知った時から 3 か月が経過しているときであっても、Aの相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時から 3 か月以内は、Aに係る相続について承認又は放棄をすることができる。」という肢(R7 問21 イ)は正しく、916条の「知った時」は、Aの相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時と読みます。判例は、916条は再転相続人に第1相続と第2相続のそれぞれについて承認又は放棄の選択の機会を保障する趣旨だとして、第1相続を放棄して第2相続を承認することもできるとしています(最判昭和63年6月21日)。相続人は、承認又は放棄をするまで、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりません(918条)。
承認と放棄は熟慮期間内でも撤回できませんが、強迫や錯誤などを理由に家庭裁判所に申述して取り消すことはできます
相続の承認及び放棄は、熟慮期間内でも撤回することができません(919条1項)。「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から 3 か月以内は、既にした相続の放棄を撤回することができる。」という肢(R7 問21 ウ)は誤りです。これに対し、総則や親族編の規定による取消しはでき(同条2項)、取消権は追認をすることができる時から6か月、承認又は放棄の時から10年で時効により消滅し(同条3項)、取消しは家庭裁判所に申述してします(同条4項)。「相続の放棄をした者が,強迫を理由として相続の放棄の取消しをしようとする場合には,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」という肢(R2 問22 エ)は正しいです。15歳に達した未成年者でも、相続の放棄は財産上の行為なので5条の制限があり、法定代理人の同意を得ずにした放棄は取り消すことができます。判例は、相続放棄は家庭裁判所の受理で効力を生じるが、その性質は私法上の財産法上の法律行為だから錯誤の規定の適用があるとしています(最判昭和40年5月27日)。判例は、放棄の申述が受理されても、無効原因があれば後日の訴訟で無効を主張できるとしています。
相続財産を処分すれば単純承認とみなされますが、保存行為と短期賃貸は除かれ、放棄で相続人となった者が承認した後の消費も単純承認になりません
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(保存行為と602条の期間を超えない賃貸を除く)、熟慮期間内に限定承認又は放棄をしなかったとき、限定承認又は放棄の後に相続財産を隠匿し、私に消費し、又は悪意で財産目録に記載しなかったときは、単純承認をしたものとみなされます(921条)。判例は、1号の処分は、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながらしたか、少なくとも相続開始を確実に予想しながらしたことを要するとしています(最判昭和42年4月27日)。「相続人は,相続財産を処分したとしても,被相続人が死亡したことを知らず,予想もしていなかった場合には,単純承認をしたものとはみなされない。」という肢(R2 問22 イ)は正しく、処分の時に被相続人の死亡を確実に予想していたが知らなかったときは単純承認をしたものとみなされないとする肢(R7 問21 エ)は誤りです。保存行為と602条に定める期間を超えない賃貸は、1号ただし書により除かれます。3号ただし書により、放棄によって相続人となった者が相続の承認をした後は、放棄者が相続財産を消費しても単純承認とみなされません。単純承認をした相続人は無限に被相続人の権利義務を承継し(920条)、唯一の相続人が単純承認をすれば被相続人に対する貸金債権は第三者の権利の目的である場合を除き混同で消滅します(520条)。

限定承認は共同相続人全員が共同して家庭裁判所に申述し、限定承認者は相続債権者に弁済した後でなければ受遺者に弁済できません
相続人が数人あるときは、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみすることができます(923条)。放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされるので(939条)、残りの相続人全員で限定承認ができます。「Aが死亡し,その相続人がAの子B,C及びDである場合において,Bが相続の放棄をしたときは,C及びDは共同して限定承認をすることができる。」という肢(R2 問22 オ)は正しいです。限定承認をした相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は相続人の中から相続財産の清算人を選任しなければならず(936条1項)、この旨の肢(R5 問22 ウ)は正しいです。限定承認をすると被相続人に対して有した権利義務は消滅しなかったものとみなされるので(925条)、唯一の相続人が限定承認をしても被相続人に対する債権は混同で消滅しません。限定承認者はその固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理を継続します(926条1項)。限定承認者は5日以内に公告し(927条)、公告期間の満了前には相続債権者及び受遺者に弁済を拒むことができます(928条)。公告期間の満了後は、申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、弁済期に至らない債権であっても債権額の割合に応じて弁済しなければならず(929条・930条1項)、この旨の肢(R5 問22 エ)は正しいです。限定承認者は各相続債権者に弁済をした後でなければ受遺者に弁済できません(931条)。「限定承認者は、受遺者に弁済をした後でなければ、相続債権者に弁済をすることができない。」という肢(R5 問22 ア)は誤りです。公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、相続財産について特別担保を有する場合を除き、残余財産についてのみ権利を行使でき(935条)、この旨の肢(R5 問22 イ)は正しいです。限定承認をした共同相続人の一人に921条1号又は3号の事由があるときは、相続債権者は、相続財産から弁済を受けられなかった債権額について、その共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使できます(937条)。共同相続人の全員に対して行使できるとする肢(R5 問22 オ)は誤りです。判例は、限定承認をした相続人に相続債務の支払を命じる判決は、主文で相続財産の限度で支払を命じるべきだとしています(最判昭和49年4月26日)。
放棄者は初めから相続人でなかったものとみなされ、放棄の時に現に占有している財産は引き渡すまで自己の財産と同一の注意で保存します
相続の放棄をしようとする者は家庭裁判所に申述し(938条)、放棄者はその相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(939条)。相続の開始前に家庭裁判所の許可を受けてできるのは遺留分の放棄で(1049条1項)、相続の放棄は相続の開始前にはできません。「推定相続人は,相続開始前であっても,家庭裁判所の許可を得れば,相続の放棄をすることができる。」という肢(R2 問22 ウ)は誤りです。放棄は代襲原因に当たらないので(887条2項)、「被相続人Aの子Bが相続の放棄をした場合には、Bの子Cは、Aの相続人とならない。」という肢(R7 問21 オ)は正しいです。放棄の効力は登記なしに誰にでも対抗できるので、放棄者の債権者が共同相続の登記をして放棄者の持分を差し押さえても、他の相続人は単独所有を主張できます。この旨の肢(R7 問8 ウ)は正しく、差押えの登記の後に放棄したときは対抗できないとする肢(R2 問7 エ)は誤りです(相続と登記の語でも扱います)。相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければなりません(940条1項、令和3年改正)。令和3年改正前の940条1項は、放棄者に、放棄で相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同一の注意で管理を継続させていました。現在は、放棄者が義務を負うのは放棄の時に現に占有している財産に限られ、引き渡すまでの保存義務に改められています。注意の程度は改正の前後を通じて自己の財産と同一の注意で、善良な管理者の注意ではありません。
民法 第915条第1項相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
民法 第921条第1項第3号相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
民法 第940条第1項相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
試験ではこう問われる
- 熟慮期間は利害関係人又は検察官の請求で家庭裁判所が伸長でき、再転相続人は前の相続人の地位を承継した事実を知った時から3か月以内なら前の相続について承認又は放棄ができる(915条1項・916条。R7 問21 ア ○、イ ○、R2 問22 ア ×)
- 既にした放棄は熟慮期間内でも撤回できず、強迫による取消しは家庭裁判所に申述する(919条。R7 問21 ウ ×、R2 問22 エ ○)
- 処分による単純承認は、相続の開始を知りながらか、確実に予想しながらした処分に限られる(921条1号・最判昭和42年4月27日。R2 問22 イ ○、R7 問21 エ ×)
- 相続開始前に放棄はできず、放棄者の子は代襲しない(938条・887条2項。R2 問22 ウ ×、R7 問21 オ ○)
- 一人が放棄しても残りの全員で限定承認ができ、相続人が数人なら家庭裁判所が相続人の中から清算人を選任する(923条・939条・936条1項。R2 問22 オ ○、R5 問22 ウ ○)
- 限定承認者は相続債権者に弁済した後でなければ受遺者に弁済できず、法定単純承認の事由がある共同相続人にだけ相続分に応じて権利を行使できる(931条・937条。R5 問22 ア ×、オ ×)
- 放棄の効力は登記なしに対抗でき、放棄者の持分の差押債権者にも単独所有を主張できる(939条。R7 問8 ウ ○、R2 問7 エ ×)

