訴訟要件の意義と審理(職権調査・判断の順序・本案判決との関係・中間判決)そしょうようけんのいぎとしんり
訴訟要件とは、裁判所が請求の当否について本案判決をするために必要な要件をいい、裁判権・当事者能力・当事者適格・訴えの利益・重複起訴でないことなどがあります。一つでも欠ければ訴えは却下され、多くは裁判所が職権で調べる職権調査事項です。
裁判所が「原告の言い分は正しい」「正しくない」と中身の判断をするには、その前提として、裁判所が扱える事件であること、当事者が実在し訴える資格があること、判決を出す意味があることなどがそろっていなければなりません。こうした本案判決の前提条件を訴訟要件といいます。欠けていれば、裁判所は中身に入らず訴えを却下します。多くは公益にかかわるので、当事者が言わなくても裁判所が自分で調べます。

訴訟要件は本案判決をするための要件で、一つでも欠ければ訴えは却下されます
訴訟要件には、裁判権、当事者の実在、当事者能力、適法な訴訟係属、訴えの利益、当事者適格、重複起訴でないこと、既判力に触れないことなどがあります。訴訟要件がそろえば請求を認容するか棄却する本案判決をし、一つでも欠ければ訴え却下の判決(訴訟判決)をします。ただし管轄違いは、却下ではなく管轄裁判所への移送で処理します(16条1項)。再度の訴え提起の手間や手数料を省き、訴え提起による時効の完成猶予や期間遵守の効果を保つためです。訴訟要件は本案判決の要件であって本案審理の要件ではないので、訴訟要件の審理と本案の審理は並行して進められます。
- 裁判所に関するもの裁判権・管轄(欠ければ移送)
- 当事者に関するもの当事者の実在・当事者能力・当事者適格
- 訴えに関するもの訴えの利益・重複起訴でないこと・再訴禁止に触れないこと・既判力に触れないこと
- 抗弁事項不起訴の合意・仲裁合意・訴訟費用の担保の不提供(被告の主張を待って判断します)
訴訟要件の多くは職権調査事項で、被告が本案について弁論した後でも欠缺を主張できます
訴訟要件の多くは公益にかかわるので、当事者が指摘しなくても裁判所が自ら調べる職権調査事項です。例外として、不起訴の合意・仲裁合意・訴訟費用の担保の不提供は、被告の主張があって初めて判断する抗弁事項です。訴訟要件は口頭弁論終結時にそろっていれば足り、本案の審理と並行して判断するので、被告が本案について弁論した後でも欠けていると主張できます。判断の資料も職権で集められるのが原則ですが、訴えの利益や当事者適格のように当事者の利害にかかわるものは弁論主義によるとされます。裁判長は訴えの適法性に関する事実上・法律上の事項についても釈明権を行使できます(149条1項)。控訴審でも訴訟要件は職権で調べるので、原告だけが控訴した場合でも、訴訟要件がないと判断すれば不利益変更禁止の原則にかかわらず訴えを却下できます。職権調査事項と職権探知主義の区別は「職権調査事項・職権探知主義」で扱います。
争いのある訴訟要件は中間判決で判断できますが、中間確認の訴えの対象にはなりません
裁判所は、中間の争いについて中間判決をすることができ(245条)、訴訟要件の存否をめぐる争いはこれに当たります。これに対し、中間確認の訴え(145条1項)の対象は、本来の請求の判断の先決関係にある法律関係に限られ、訴訟要件はそれに当たりません。また、訴訟要件の調査の順序は法定されておらず、どれか一つが欠けると分かれば却下できます。訴訟要件の審理を尽くさずに請求を棄却できるかは争いがあり、従来の通説は否定しますが、被告の利益を守るための要件や訴えの利益・当事者適格については請求棄却を認める見解も有力です。請求を認容するには訴訟要件の審理を尽くす必要があることには争いがありません。

補正できない不適法な訴えは口頭弁論を経ないで判決で却下でき、訴状の送達も要らない場合があります
判決をするには口頭弁論を経るのが原則ですが(87条1項)、訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は口頭弁論を経ないで判決で訴えを却下することができます(140条)。これは「できる」規定で、却下しなければならないわけではありません。不適法でも補正の余地があれば、釈明や補正の機会を与えるのが原則です。判例は、裁判制度の趣旨からしてもはや許されないことが明らかで、当事者のその後の訴訟活動によっても適法とすることが全く期待できない訴えは、被告に訴状を送達するまでもなく口頭弁論を経ずに却下し、判決正本を原告にだけ送達すれば足りるとしました(最判平成8年5月28日)。
訴えの取下げで訴訟係属が消えた後は却下判決はできず、訴訟要件を欠く訴えでは請求の認諾もできません
訴えが取り下げられると、訴訟は初めから係属していなかったものとみなされる(262条1項)ので、裁判所は判断の対象を失い、不適法な訴えでも却下判決はできません。これに対し、裁判外で取下げの合意が成立しただけのときは、訴訟係属は残り、訴えが権利保護の利益を欠くとして却下されます。「訴訟の係属中に、原告と被告との間で原告が当該訴訟に係る訴えを取り下げる旨の合意が裁判外で成立した場合には、当該訴えは、権利保護の利益を欠く」という肢(R8 午後 問2 ア)は正しいです。取下げの効力が争われ、裁判所が取下げを有効と判断したときは、訴え却下ではなく訴訟終了宣言の判決をします。請求の認諾は確定判決と同一の効力を生じ本案判決の代わりになるので、本案判決の要件である訴訟要件がそろっていることが前提です。判例も、不適法な訴えでの認諾は効力を生じないとしています(最判昭和28年10月15日)。どの場合に訴え却下の判決をすべきかを仕分ける問題では、選定当事者の全員が死亡したときは訴訟手続が中断し(124条1項6号)却下されません。取下げを有効と判断したときは訴訟終了宣言です。これに対し、入会権の確認訴訟で入会集団の構成員の一部が当事者になっていないとき(固有必要的共同訴訟で当事者適格を欠く)、送達後に分かった手数料の不足を納付しないとき、債権者代位訴訟の係属中に債務者が同じ債権について別訴を起こしたとき(重複起訴)は、訴え却下の判決をすべき場合に当たります。
民事訴訟法 第140条(口頭弁論を経ない訴えの却下)
訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。
民事訴訟法 第245条(中間判決)
裁判所は、独立した攻撃又は防御の方法その他中間の争いについて、裁判をするのに熟したときは、中間判決をすることができる。請求の原因及び数額について争いがある場合におけるその原因についても、同様とする。
試験ではこう問われる
- 訴訟要件は本案判決の要件で、欠ければ訴えを却下する。管轄違いは却下ではなく移送する(16条1項)
- 訴訟要件の多くは職権調査事項で、本案について弁論した後でも欠缺を主張できる。争いのある訴訟要件について中間判決ができる(245条)
- 補正できない不適法な訴えは口頭弁論を経ないで判決で却下できる(140条)。不適法で補正できない控訴も同じである(R8 午後 問5 エ ○)
- 訴え却下判決は、理由とされた訴訟要件の欠缺について既判力を有し(R8 午後 問4 イ ×)、それ以外の訴訟要件の不存在には既判力が及ばない(R2 午後 問5 エ ×)
- 請求棄却の判決を求めていた被告は、訴えを却下した第一審判決に対し、請求棄却を求めて控訴できる(R8 午後 問5 イ ○)
- 裁判外で訴えの取下げの合意が成立すれば、訴えは権利保護の利益を欠く(R8 午後 問2 ア ○)。取下げが効力を生じた後は却下判決はできない
- 訴訟要件を欠く訴えでは請求の認諾ができない(最判昭和28年10月15日)

