職権調査事項・職権探知主義・職権証拠調べしょっけんちょうさじこうしょっけんたんちしゅぎしょっけんしょうこしらべ
職権調査事項とは、当事者の申立てや指摘がなくても裁判所が自ら調査しなければならない事項のことで、重複起訴の禁止や既判力の存在など公益性の強い訴訟要件がこれに当たります。職権探知主義とは、裁判所が当事者の主張しない事実をしん酌し、職権で証拠調べをすることができる審理の方式で、人事訴訟や公益性の強い訴訟要件の審理でとられます。
同じ事件で二つの裁判所に訴えが出ていたり、すでに確定判決があったりするのに、当事者がそれを言わないからといって裁判所が審理を続ければ、矛盾した判決が出るおそれがあり、裁判所の手間も無駄になります。このように訴訟制度そのものにかかわる事項は、当事者に任せず裁判所が自ら調べます。他方で、事実と証拠の収集は当事者に任せるのが民事訴訟の原則なので、裁判所が職権で証拠を調べられるのは、法律が特に認めた場面に限られます。

訴訟要件の多くは職権調査事項で、当事者が指摘しなくても裁判所が自ら調べて判断します
職権調査事項とは、当事者の申立てや指摘がなくても、裁判所が自らの判断で調査しなければならない事項のことです。訴訟要件の多くは公益にかかわるのでこれに当たり、本案の弁論が進んだ後でも問題にできます。重複起訴の禁止(142条)は審理の重複と判決の矛盾を防ぐ公益的な要請なので、当事者が先行訴訟の係属を主張していなくても、裁判所はそれを理由に訴えを却下できます。確定判決の既判力の存在も職権調査事項です。当事者が確定判決の存在を主張していなくても、裁判所は既判力の存在を判決の基礎にできます。これに対し、不起訴の合意・仲裁合意・訴訟費用の担保の不提供(75条)は、被告が主張したときに限って考慮すれば足りる抗弁事項とされています。
公益性の強い訴訟要件は資料の収集も職権探知によりますが、任意管轄・訴えの利益・当事者適格は資料の収集が弁論主義によります
職権調査事項かどうか(裁判所が調査を始めるか)と、判断の資料を職権で集められるか(職権探知主義か弁論主義か)は、別の問題です。職権探知主義とは、裁判所が当事者の主張しない事実をしん酌し、職権で証拠を調べ、当事者間に争いのない事実にも拘束されないという審理の方式です。重複起訴の有無のように公益性の強い訴訟要件では、資料の収集にも職権探知主義が及びます。管轄に関する事項も、裁判所は職権で証拠調べをすることができます(14条)。「裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる」という肢(R5 午後 問1 ウ)は正しいです。他方、任意管轄・訴えの利益・当事者適格は当事者の利害にかかわる面が強いので、資料の収集は弁論主義によるとされています。
- 職権調査事項・職権探知重複起訴の禁止、既判力の存在、専属管轄、当事者能力・訴訟能力・代理権など
- 職権調査事項・資料は弁論主義任意管轄(ただし証拠調べは14条で職権でも可)、訴えの利益、当事者適格
- 抗弁事項(被告の主張を待つ)不起訴の合意、仲裁合意、訴訟費用の担保の不提供

証拠は当事者が申し出たものに限るのが原則で、職権で証拠調べができるのは条文が定める場合だけです
弁論主義の第3テーゼにより、争いのある事実を認定する証拠は、原則として当事者が申し出たものに限られます(職権証拠調べの禁止)。例外は条文で個別に定められています。当事者本人の尋問は申立てにより又は職権でできる(207条1項)ので、職権で当事者本人を尋問できます。調査の嘱託(186条1項)は当事者の申立てを要件としていないので、「裁判所は,職権で,必要な調査を官庁・公署その他の団体に嘱託することができる」という肢(R2 午後 問2 オ)は正しいです。訴訟の係属中は、裁判所は必要があると認めるときは職権で証拠保全の決定ができる(237条)ので、職権で証拠保全をすることもできます。検証をするにあたり必要があれば鑑定を命じることができる(233条)ので、職権で鑑定を命じることもできます。これに対し、文書提出命令は文書提出命令の申立てを理由があると認めるときに発するもの(223条1項)で、職権では命じられません。当事者が訴訟で引用した文書(220条1号)でも同じで、職権でその提出を命じることはできません。
- 職権でできる管轄に関する事項の証拠調べ(14条)、当事者尋問(207条1項)、調査の嘱託(186条1項)、検証の際の鑑定(233条)、訴訟係属中の証拠保全(237条)、釈明処分としての検証・鑑定・調査の嘱託(151条1項5号・6号)、人事訴訟の証拠調べ
- 申立てが要る証人尋問、鑑定、書証の申出、文書提出命令(223条1項)
人事訴訟では職権探知主義がとられ、裁判所は当事者が主張しない事実をしん酌し、職権で証拠調べができます
人事訴訟は身分関係を対世的に確定するので、当事者の意思だけで結論を左右させることが公益に反します。そこで人事訴訟法20条は、裁判所は当事者が主張しない事実をしん酌し、かつ、職権で証拠調べをすることができると定め、裁判上の自白の規定も適用されません(同法19条1項)。ただし、職権探知主義のもとでも、集めた資料をどう評価するかは自由心証主義(247条)によります。人事訴訟の特則の詳細は人事訴訟の特則の語で扱います。
民事訴訟法 第14条(職権証拠調べ)
裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。
民事訴訟法 第207条第1項裁判所は、申立てにより又は職権で、当事者本人を尋問することができる。この場合においては、その当事者に宣誓をさせることができる。
民事訴訟法 第237条(職権による証拠保全)
裁判所は、必要があると認めるときは、訴訟の係属中、職権で、証拠保全の決定をすることができる。
試験ではこう問われる
- 重複起訴の存在と既判力の存在は職権調査事項で、当事者の主張がなくても判断の基礎にできる。不起訴の合意・仲裁合意・訴訟費用の担保の不提供は抗弁事項である
- 管轄に関する事項は職権で証拠調べができる(14条、R5 午後 問1 ウ ○)。任意管轄・訴えの利益・当事者適格の資料の収集は弁論主義による
- 当事者尋問(207条1項)・調査の嘱託(186条、R2 午後 問2 オ ○)・訴訟係属中の証拠保全(237条)・検証の際の鑑定(233条)は職権でできる
- 文書提出命令は申立てによる(223条1項)。当事者が引用した文書でも職権では命じられない
- 過失相殺は、当事者が過失相殺をすべきとの主張をしなくても裁判所がすることができる(R2 午後 問2 イ ×)
- 損害の性質上その額の立証が極めて困難なときは、口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定できる(248条、R2 午後 問2 エ ○)
- 人事訴訟では職権探知主義(人事訴訟法20条)がとられ、職権で証拠調べができる

