給付の訴えの利益(現在給付・執行障害・時効の完成猶予のための再訴)きゅうふのうったえのりえき
給付の訴えの利益とは、給付の訴えについて判決を求めることが正当と認められる利益のことです。履行期の到来した請求権を主張する現在給付の訴えには原則として認められ、執行が事実上できない事情があっても失われませんが、すでに確定した給付判決がある場合には、時効の完成猶予のためにほかに方法がないときなどに限って認められます。
お金を返してもらう約束の期限が来ているのに払ってもらえないなら、裁判所に「払え」という判決を求めるのは当然の権利です。給付の訴えでは、原告が履行期の来た請求権を主張していれば、それだけで判決を求める利益があるのが原則です。相手に財産がなくて執行できそうになくても、判決を得ておく意味はあります。逆に、すでに勝訴判決を持っている人が同じ請求で重ねて訴えるのは、原則として無駄なので許されません。ただし時効を止めるためにほかに方法がなければ例外が認められます。

現在給付の訴えは、履行期の到来した請求権を主張すれば原則として訴えの利益があります
現在給付の訴えは、すでに履行期が来ている給付請求権を主張して給付判決を求めるものです。履行期が来たのに履行されていないこと自体が紛争なので、原告がそう主張すれば訴えの利益は原則として認められます。被告が義務を認めていても、後で翻意するおそれがあるので訴えの利益は失われません。執行証書(民事執行法22条5号)を持っている債権者も、執行証書には既判力がないので、既判力のある判断を得るために給付の訴えを起こせます。将来の給付を求める訴えは、あらかじめ請求する必要がある場合に限られ(135条)、こちらは「将来給付の訴え」で扱います。給付の訴えの利益は、給付判決を得ても執行が難しい事情があるだけでは否定されません。訴訟物は給付請求権の存在と範囲であり、それを執行できるかどうかは執行の段階の問題だからです。
請求権に仮差押えの執行がされていても、強制執行をしない合意があっても、給付の訴えの利益は失われません
判例は、債権に仮差押えの執行がされると、第三債務者は支払を差し止められ、仮差押債務者は取立てや譲渡ができなくなるが、それは禁止に反する行為を仮差押債権者に対抗できないという意味にとどまり、仮差押債務者は第三債務者に対する給付訴訟を起こし、無条件の勝訴判決を得ることができるとしました(最判昭和48年3月13日)。仮差押えは財産の現状を保存して執行を保全するためのもので、その目的に必要な限度でしか効力がないからです。また判例は、給付訴訟の訴訟物は給付請求権の存在と範囲であり、強制執行をしない旨の合意(不執行の合意)があるかどうかは本来その審判の対象にならないとしました(最判平成5年11月11日)。不執行の合意があっても、給付の訴えの利益は失われません。債権者が執行証書を持っている場合も同じで、「債権者がその債権について執行証書を所持している場合において、同一の債権に係る給付の訴えには、訴えの利益が認められない」という肢(R4 午後 問3 エ)は誤りです。同じ判決は、被告が不執行の合意を主張した場合には、それも訴訟物に準じるものとして審判の対象になり、合意が認められれば強制執行できないことを判決主文で明らかにするのが相当だとしています。執行段階での紛争を防ぐためです。

確定した給付判決があっても、時効の完成猶予のためにほかに方法がなければ同じ請求で再び訴えられます
確定した給付判決を持っている原告は、それで強制執行ができるので、同じ請求権について重ねて給付判決を求める利益は原則としてありません。しかし、判決で確定した権利も10年で時効にかかります(民法169条1項)。債務者に財産がなくて差押えなどができず、承認も得られないときは、時効の完成を止めるには裁判上の請求しかありません。判例は、このように時効を止めるためにほかに方法がない場合には、同一の請求権について再び給付の訴えを起こす利益があるとしました(大判昭和6年11月24日)。現行の民法では、裁判上の請求で時効の完成が猶予され(民法147条1項1号)、確定判決で権利が確定すれば時効が更新されます(同条2項)。旧規定の「時効中断」は、現行法では完成猶予と更新に当たります。
中間の登記の抹消を求める訴えは、最終の登記の抹消請求が棄却されて実行できなくても、訴えの利益を失いません
A所有の不動産にB名義の登記がされ、さらにC、Dへと移転登記が重ねられた場合、Aが最終名義人Dへの抹消請求で敗訴すると、B・C名義の登記の抹消判決を得ても、後の登記が残るので現実には抹消を実行できません。それでも判例は、登記の抹消登記手続を求める請求は被告に抹消登記申請という意思表示を求めるもので、認容判決が確定すれば被告が意思表示をしたものとみなされ(民事執行法177条1項)、それで判決の執行は完了するから、抹消登記を現実に実行できないことは訴えの利益を失わせないとしました(最判昭和41年3月18日)。給付の実現が事実上難しいことは訴えの利益を否定する理由にならないという考え方が、仮差押えや不執行の合意の場面と共通しています。
民法169条1項確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
民事執行法177条1項意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。
試験ではこう問われる
- 現在給付の訴えは、履行期の到来した請求権を主張すれば原則として訴えの利益がある。被告が訴え提起前の協議で請求権を認め、争わないことが明らかでも同じである(R4 午後 問3 ア ×)
- 債権者が執行証書を所持していても、同じ債権の給付の訴えの利益は認められる(R4 午後 問3 エ ×)
- 請求権に仮差押えの執行がされていても給付の訴えの利益は失われない(最判昭和48年3月13日)
- 不執行の合意があっても給付の訴えの利益は認められ、合意が認められれば強制執行できないことを主文で明示する(最判平成5年11月11日)
- 確定した給付判決があっても、時効の完成猶予のためにほかに方法がなければ同一の請求で再び訴えられる(大判昭和6年11月24日)
- 最終名義人への抹消請求が棄却されて中間の登記の抹消を実行できなくても、中間の名義人への抹消請求の訴えの利益は失われない(最判昭和41年3月18日)

