訴訟上の合意(管轄合意・不控訴合意・証拠制限契約・自白契約・不起訴合意・訴え取下げの合意・仲裁合意)そしょうじょうのごうい
訴訟上の合意とは、管轄・控訴・証拠・訴えの提起や取下げなど、訴訟に関する事項について当事者が結ぶ合意のことです。処分権主義と弁論主義によって当事者に任された範囲で有効とされ、手続の進め方を変えたり裁判官の自由心証を縛ったりする合意は無効です。
取引先どうしが契約のときに「もめたら仲裁で決める」「この文書は証拠に使わない」「判決が出ても控訴はしない」と約束しておくことがあります。訴訟の進め方は法律で決まっていて、当事者が勝手に変えることはできません。他方で、訴えるかどうか、どんな事実や証拠を出すかは当事者に任されています。そこで、当事者に任された範囲の事柄についての合意は有効とされ、裁判所の事実認定や手続の進め方そのものを縛る合意は無効とされます。

訴訟上の合意は、処分権主義と弁論主義で当事者に任された範囲で有効で、手続の進め方を変える合意は任意訴訟の禁止に触れて無効です
訴訟の手続は多数の事件を公平かつ効率的に扱うために法定されており、個々の事件で当事者が合意によって手続を作り変えることは許されません(任意訴訟の禁止)。法が明文で合意を認めているのは、第一審の管轄の合意(11条)、不控訴の合意(281条1項ただし書)、飛越上告の合意(311条2項)などに限られます。明文のない合意は、処分権主義と弁論主義によって当事者が自由に決められる事項について、内容が明確で合理的な限りで有効と解されています。証拠調べの手続を特定の外国の民事訴訟法に従わせる合意は、裁判所の主宰する手続を変えようとするもので無効です。管轄の合意の要件と効力は、合意管轄の語で扱います。合意の法的性質については、私法上の義務を生じさせるだけとみる私法契約説と、訴訟法上の効果を直接生じさせるとみる訴訟契約説が対立しています。
- 有効不控訴の合意(終局判決後・双方が上告権を留保・書面)、管轄の合意、証拠制限契約、自白契約、特定の紛争の不起訴の合意、訴え取下げの合意、仲裁合意
- 無効一方だけの不控訴の合意・判決前の不控訴の合意、証拠調べ後の結果を排除する合意、証拠評価の合意、手続を外国法に従わせる合意、紛争を特定しない不起訴の合意
不控訴の合意は、終局判決後に当事者双方が上告する権利を留保して書面でする場合に限って有効です
終局判決後、当事者双方が共に上告をする権利を留保して控訴をしない旨の合意をしたときは、控訴をすることができません(281条1項ただし書)。この合意は管轄の合意と同じく書面又は電磁的記録でしなければなりません(同条2項・11条2項・3項)。合意があれば控訴権は消滅し、提起された控訴は不適法です。合意があれば、地方裁判所の判決に対し最高裁判所に直ちに上告できます(311条2項)。これに対し、判決の言渡し前の合意や、当事者の一方だけが控訴しない旨の合意は、条文の要件を欠くうえ一方に不公平なので無効です。判決の言渡し前に控訴権を放棄することもできず、「控訴をする権利は、第一審裁判所が判決を言い渡す前にあらかじめ放棄することができる」という肢(R4 午後 問5 ア)は誤りです。控訴権の放棄との違いは、後半の控訴の取下げの語で扱います。
証拠制限契約と自白契約は弁論主義の範囲内なので有効ですが、自由心証を縛る合意は無効です
どの証拠を出すか、どの事実を争うかは弁論主義によって当事者に任されているので、一定の証拠を使わない合意(証拠制限契約)や一定の事実を認める合意(自白契約)は有効で、裁判所を拘束します。他方、証拠調べが終わった後にその結果を排除する合意は、すでに形成された裁判官の心証を消そうとするもので、自由心証主義(247条)に反します。一定の証拠から特定の事実を認定しなければならないとする合意(証拠評価の合意)も、自由心証を直接縛るので無効です。

訴え取下げの合意が主張立証されると、訴えは権利保護の利益を欠くとして却下され、訴訟が当然に終了するわけではありません
訴訟外で訴えを取り下げる旨の合意をしても、それだけでは訴えの取下げの効力は生じません。判例(最判昭和44年10月17日)は、取下げの合意が成立し被告がこれを主張立証したときは、原告は権利保護の利益を失ったものとして訴えを却下すべきだとしました(私法契約説)。「訴訟の係属中に、原告と被告との間で原告が当該訴訟に係る訴えを取り下げる旨の合意が裁判外で成立した場合には、当該訴えは、権利保護の利益を欠く」という肢(R8 午後 問2 ア)は正しいです。これに対し、「当事者間における訴えの取下げに関する裁判外の合意の成立が証拠上認められるときは、訴えの取下げがあったものとみなされる」という肢(R6 午後 問4 ウ)は誤りです。訴訟外の和解で取下げを約束しただけの場合も訴訟は終了しないので、売買代金請求訴訟で「訴訟外で,YがXに対し150万円を支払い,Xが訴えを取り下げる旨の和解をした」場合は、訴訟の終了の効果は生じません。訴訟契約説によれば、合意によって訴訟が終了し、裁判所は訴訟終了宣言判決をすることになります。
紛争を特定しない不起訴の合意は無効で、仲裁合意があれば被告の申立てにより訴えは却下されます
特定の紛争について訴えを提起しない合意(不起訴の合意)は、権利を放棄できる以上有効で、被告がこれを主張し認められれば訴えは却下されます。この合意は職権調査事項ではなく、被告の主張を待って判断されます。しかし、当事者間のあらゆる紛争について一切訴えないという合意は、裁判を受ける権利(憲法32条)を奪うもので公序良俗に反し無効です。仲裁合意の対象となる紛争について訴えが提起されたときは、仲裁合意が無効であるなどの例外に当たらない限り、被告の申立てにより、裁判所は訴えを却下しなければなりません(仲裁法14条1項)。却下するか本案判決をするかの裁量はありません。
民事訴訟法 第281条第1項控訴は、地方裁判所が第一審としてした終局判決又は簡易裁判所の終局判決に対してすることができる。ただし、終局判決後、当事者双方が共に上告をする権利を留保して控訴をしない旨の合意をしたときは、この限りでない。
民事訴訟法 第281条第2項第十一条第二項及び第三項の規定は、前項の合意について準用する。
試験ではこう問われる
- 不控訴の合意は、終局判決後に双方が上告する権利を留保し、書面又は電磁的記録でする場合に有効で、合意後の控訴は不適法である(281条1項ただし書・2項)
- 判決の言渡し前の不控訴の合意や一方だけが控訴しない合意は無効で、控訴権を判決の言渡し前に放棄することもできない(R4 午後 問5 ア ×)
- 証拠制限契約と自白契約は有効で裁判所を拘束するが、尋問終了後に結果を排除する合意と証拠評価の合意は自由心証主義に反し無効である
- 裁判外で訴え取下げの合意が成立すれば、訴えは権利保護の利益を欠き却下される(最判昭和44年10月17日、R8 午後 問2 ア ○)
- 取下げの合意が認められても、取下げがあったものとみなされるわけではない(R6 午後 問4 ウ ×)。訴訟終了宣言や請求棄却にもならない
- 紛争を特定しない不起訴の合意は無効で、仲裁合意があれば被告の申立てにより裁判所は訴えを却下しなければならない(仲裁法14条1項)

