民事訴訟の審理の基本構造(処分権主義・弁論主義・職権進行主義・職権探知の役割分担)みんじそしょうのしんりのきほんこうぞう
民事訴訟の審理の基本構造とは、訴訟の開始・審判の範囲・訴訟の終了を当事者が決め(処分権主義)、判決の基礎となる事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ね(弁論主義)、手続の進行は裁判所が主導する(職権進行主義)という役割分担のことです。公益性の高い事項と人事訴訟では、裁判所が職権で事実と証拠を集めます(職権探知主義)。
お金を貸した人が裁判を起こすかどうか、いくら請求するか、途中で和解するかは、その人の自由です。どんな事実を主張し、どの証拠を出すかも、基本は当事者に任されます。私人どうしの財産の争いは、私的自治で決めてよい事柄だからです。他方で、期日をいつ開くかまで当事者に任せると訴訟が延びるので、手続の進行は裁判所が握ります。この役割分担が、民事訴訟のあらゆる手続の出発点です。

何を求め、どう終わらせるかは当事者が決め、判決の基礎となる事実と証拠も当事者が出し、手続の進行は裁判所が決めます
処分権主義とは、訴えるかどうか、何についてどの範囲で判決を求めるか、判決まで進むか取下げ・放棄・認諾・和解で終えるかを当事者が決める原則です。246条が「裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない」と定めるのはその表れで、根拠は私的自治の原則にあります。弁論主義とは、判決の基礎となる事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則で、当事者が主張しない事実を判決の基礎にできない(第1テーゼ)、当事者間に争いのない事実はそのまま判決の基礎にしなければならない(第2テーゼ)、争いのある事実を認定する証拠は当事者が申し出たものに限る(第3テーゼ)という3つの内容に分けて説明されます。弁論主義を直接定める条文はなく、人事訴訟について職権探知を定める人事訴訟法20条の反対解釈と、自白した事実を証明不要とする179条が手がかりになります。これに対し、期日の指定と変更は申立てにより又は職権で裁判長が行い(93条1項)、口頭弁論は裁判長が指揮するなど(148条)、手続の進行の主導権は裁判所にあります(職権進行主義)。資料の収集では当事者が主役で裁判所が釈明で補い、手続の進行では裁判所が主役で当事者の申立てや意見が加わるという、逆向きの組合せになっています。
- 処分権主義訴訟の開始・審判の範囲・訴訟の終了を当事者が決めます(246条・261条・266条・267条)
- 弁論主義事実の主張と証拠の提出を当事者に委ねます。主張のない事実は判決の基礎にできず、自白された主要事実は裁判所を拘束し、証拠は原則として当事者の申出によります
- 職権進行主義期日の指定・変更、口頭弁論の指揮、弁論の制限・分離・併合など、手続の進行は裁判所(裁判長)が主導します
- 職権探知主義公益性の高い訴訟要件と人事訴訟では、裁判所が当事者の主張しない事実を考慮し、職権で証拠調べができます
裁判所が職権でできるかどうかは、条文が「申立てにより又は職権で」と書くか「当事者の申立てにより」と書くかで決まります
同じ裁判所の行為でも、職権でできるものと当事者の申立てを待つものが条文で書き分けられています。管轄に関する事項は職権で証拠調べができ(14条)、「裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる」という肢(R5 午後 問1 ウ)は正しいです。当事者本人の尋問は「申立てにより又は職権で」できる(207条1項)ので、裁判所は職権で当事者本人を尋問できます。仮執行の宣言も「申立てにより又は職権で」できる(259条1項)ので、裁判所は職権でも仮執行の宣言ができます。判決の計算違いや誤記などの明白な誤りは「申立てにより又は職権で、いつでも」更正決定ができる(257条1項)ので、「判決に計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがある場合には、裁判所は、当事者の申立てがないときであっても、更正決定をすることができる」という肢(R7 午後 問5 エ)は正しいです。これに対し、義務承継人に訴訟を引き受けさせる決定は「当事者の申立てにより」とされています(50条1項)。誰を相手に権利を主張するかは当事者が決めることだからで、裁判所が職権で第三者に訴訟を引き受けさせることはできません。
- 管轄に関する事項の証拠調べ職権でできます(14条)
- 当事者尋問申立てにより又は職権でできます(207条1項)。弁論主義の第3テーゼの例外です
- 調査の嘱託職権でできます(186条1項)
- 仮執行の宣言申立てにより又は職権でできます(259条1項)。手形・小切手の金銭支払請求では職権で付さなければなりません(259条2項)
- 判決の更正決定申立てにより又は職権で、いつでもできます(257条1項)
- 義務承継人の訴訟引受け当事者の申立てが必要で、職権ではできません(50条1項)

自白された主要事実は裁判所を拘束しますが、書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束しません
弁論主義の第2テーゼにより、当事者間に争いのない主要事実は、証拠調べをしないでそのまま判決の基礎にしなければなりません。貸金返還請求で被告が貸付けの事実を認めれば裁判上の自白が成立し、裁判所は証拠調べの結果に反する認定をすることができません。これに対し、最判昭和52年4月15日は、書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束しないとしました。文書の成立の真正は主要事実ではなく、証拠の信用性にかかわる補助事実だからです。原告が領収証の成立の真正を認めても、裁判所はそれが原告の作成したものではないと判断できるので、「文書の成立の真正についての自白は,裁判所を拘束しない」という肢(R3 午後 問4 イ)は正しいです。また第1テーゼは、事実がどちらかの当事者から弁論に出ていれば足り、主張責任を負う側から出る必要はありません。原告が時効の更新の再抗弁として一部弁済の事実を主張していれば、裁判所はその弁済を認定して一部認容判決ができます。逆に被告が自分に不利益な事実を陳述した場合も同じで、「被告が主張責任を負わない自己に不利益な主要事実を進んで陳述した場合であっても,原告がこれを援用しなかったときは,裁判所は,当該事実を判決の基礎とすることができない」という肢(R2 午後 問2 ア)は誤りです。
重複起訴や既判力のような公益性の高い事項は、当事者が主張しなくても裁判所が職権で調べて判断の基礎にします
訴訟要件の多くは公益性が強いので、裁判所が職権で調査し(職権調査事項)、判断の資料も職権で集めることができます(職権探知主義)。同じ事件が別の裁判所に先に係属していることは重複起訴の禁止(142条)に当たり、当事者がその事実を主張していなくても訴えを却下できます。確定判決の既判力も、同じ紛争の蒸し返しを防ぐ公益的な効力なので職権調査事項です。当事者が前の確定判決の存在を主張していなくても、裁判所は既判力の存在を判決の基礎にできます。ただし、任意管轄・訴えの利益・当事者適格や、不起訴の合意・仲裁合意のような被告の指摘を待つ事項は、資料の収集について弁論主義によるとされています。職権調査事項と職権探知の範囲は、別の語で詳しく扱います。
人事訴訟は職権探知主義をとり処分権主義も制限されますが、訴えの取下げはできます
人事訴訟では、身分関係を当事者の意思だけで決めることが公益に反するので、裁判上の自白の規定が適用されず(人事訴訟法19条1項)、裁判所は当事者が主張しない事実を斟酌し、職権で証拠調べができます(同法20条)。処分権主義も制限され、請求の放棄・認諾の規定は原則として適用されません(同法19条2項)。しかし訴えの取下げは、身分関係を確定させるものではなく、訴訟を始めなかった状態に戻すだけなので、人事訴訟でもできます。離婚・離縁の訴えでは請求の放棄・認諾も和解もできるなど、人事訴訟の例外の詳細は人事訴訟の特則の語で扱います。
民事訴訟法 第246条(判決事項)
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
民事訴訟法 第179条(証明することを要しない事実)
裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。
民事訴訟法 第14条(職権証拠調べ)
裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。
民事訴訟法 第50条第1項訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したときは、裁判所は、当事者の申立てにより、決定で、その第三者に訴訟を引き受けさせることができる。
試験ではこう問われる
- 被告が主張責任を負わない自己に不利益な主要事実を陳述すれば、原告が援用しなくても判決の基礎にできる(R2 午後 問2 ア ×)
- 過失相殺は、当事者が過失相殺をすべきとの主張をしなくても裁判所がすることができる(R2 午後 問2 イ ×)
- 自白された主要事実は裁判所を拘束するが、間接事実についての自白(R7 午後 問2 ア ○)と文書の成立の真正についての自白(R3 午後 問4 イ ○、最判昭和52年4月15日)は拘束しない
- 自白は、反真実を証明できなくても相手方の同意があれば撤回できる(R2 午後 問2 ウ ○)
- 管轄に関する事項の証拠調べ(14条、R5 午後 問1 ウ ○)、判決の更正(257条1項、R7 午後 問5 エ ○)、調査の嘱託(186条、R2 午後 問2 オ ○)は職権でできる。義務承継人の訴訟引受けは当事者の申立てを要する(50条1項)
- 重複起訴の存在と既判力の存在は職権調査事項で、当事者の主張がなくても判断の基礎にできる
- 人事訴訟でも訴えの取下げはできる。制限されるのは請求の放棄・認諾と和解である(離婚・離縁を除く)

