司法書士試験AIブートラボ 司法書士試験AIブートラボ

異議権(責問権)の放棄と喪失(90条)いぎけんのほうきとそうしつ

民事訴訟法 第5章 審理の原則と手続

異議権(責問権)とは、裁判所や相手方の訴訟行為に訴訟手続に関する規定の違反があるとき、異議を述べてその効力を争う当事者の権利です。違反を知り又は知ることができたのに遅滞なく異議を述べなければ失われ(喪失)、あらかじめでなければ放棄もできますが、公益にかかわる規定の違反は放棄も喪失もできません(90条)。

手続に小さな誤りがあっても、当事者がその場で何も言わずに訴訟が進んだ後で、ずっと前の誤りを理由に全部をやり直させるのは不経済で、手続の安定も害します。そこで民事訴訟法は、手続の違反を知りながら遅滞なく異議を述べなかった当事者は、もう異議を述べられないことにしました。ただし、裁判の公正や公開のように当事者の都合で左右できない規定の違反は、異議を述べなくても治りません。

公開の法廷。証言台の証人(札「証人」)は宣誓書に署名しないまま証言を終えたところ。次の期日の場面として、被告代理人(札「被告」)が立ち上がり「前回の証人は宣誓していませんでした」と言っている。法壇の先生(札「裁判所」)の吹き出し「その場で気

訴訟手続に関する規定の違反を知り又は知ることができたのに遅滞なく異議を述べなければ、異議を述べる権利を失います

90条は、当事者が訴訟手続に関する規定の違反を知り、又は知ることができた場合において、遅滞なく異議を述べないときは、これを述べる権利を失うと定めます。この権利を異議権(責問権)といい、失われると違反の瑕疵は治癒されます。異議権は放棄することもできます。放棄の方式に定めはなく、期日に口頭で述べても足ります。放棄の対象になるのは具体的に生じた違反なので、違反が生じる前にあらかじめ放棄することはできません。中断中に裁判所がした訴訟行為も、中断が解消した後に当事者双方が責問権を放棄すれば有効になります。

宣誓をさせないでした証人尋問、証人とすべき者の当事者尋問、訴えの変更の書面の欠缺、訴状送達の瑕疵は、異議を述べなければ治癒されます

当事者の利益を守るための規定の違反は、当事者が異議を述べなければ治癒されます。最判昭和29年2月11日は、宣誓させるべき証人を宣誓させないで尋問した場合も、当事者が遅滞なく異議を述べないときは責問権を失うとしました。証人として尋問すべき者を当事者本人として尋問した場合も同様に治癒されるとした判例があります(最判昭和30年6月24日)。最判昭和31年6月19日は、訴えの変更の書面の提出又は送達の欠缺は被告の責問権の喪失によって治癒されるとしました。受送達権限のない同居者が訴状を受領した瑕疵も、被告の訴訟代理人が第1回期日に異議なく弁論すれば治癒されます(最判昭和28年12月24日)。

教室の黒板の板書の図解。左右2列。左の見出し「黙っていると治る(90条本文)」に「宣誓をさせない証人尋問」「証人とすべき者の当事者尋問」「訴えの変更の書面がない・送達がない」「訴状の受領者に権限がない」。右の見出し「黙っていても治らない(9

判決の公開・裁判所の構成・直接主義のように公益にかかわる規定の違反は、異議を述べなくても治癒されません

90条ただし書は、放棄することができないものについては異議権を失わないとしています。裁判所の構成、除斥、専属管轄、公開主義、弁論の更新、判決の言渡しのように、訴訟制度そのものの信頼と運営に欠かせない規定がこれに当たります。判決の言渡しを公開の法廷で行わなかったときは、知りながら遅滞なく異議を述べなくても、異議を述べる権利を失いません。人事訴訟で公開停止の要件がないのに公開を停止したときも、その違反は責問権の喪失によって治癒されません。口頭弁論に関与していない裁判官が判決をしたとき(249条1項違反)も、その瑕疵は異議権の喪失によっては治癒されません。裁判官が代わったのに従前の口頭弁論の結果が陳述されなかった(弁論の更新がない)ときも、遅滞なく異議を述べなかったからといって責問権を失うことはありません。

そもそも違反にならない訓示規定には異議権の問題が生じず、言渡期日が2か月を超えても異議は述べられません

判決の言渡しは口頭弁論の終結の日から2か月以内にしなければならないとされていますが(251条1項)、これは裁判所に対する訓示規定であり、守られなくても言渡しが違法になるわけではありません。違反がない以上、異議権の対象にもなりません。

民事訴訟法 第90条

(訴訟手続に関する異議権の喪失)
当事者が訴訟手続に関する規定の違反を知り、又は知ることができた場合において、遅滞なく異議を述べないときは、これを述べる権利を失う。ただし、放棄することができないものについては、この限りでない。

試験ではこう問われる

  1. 違反を知り又は知ることができたのに遅滞なく異議を述べなければ異議権を失う(90条本文)
  2. 放棄は書面でなくてよい。違反が生じる前にあらかじめ放棄することはできない
  3. 治癒される違反には、宣誓をさせないでした証人尋問(最判昭和29年2月11日)、証人とすべき者を当事者として尋問したこと、訴えの変更の書面の不提出・不送達(最判昭和31年6月19日)、受送達権限のない者による訴状の受領がある
  4. 治癒されない違反には、判決の言渡しを公開しなかったこと、口頭弁論に関与しない裁判官の判決、弁論の更新をしなかったことがある(90条ただし書)
  5. 中断中の訴訟行為も、中断解消後に当事者双方が責問権を放棄すれば有効になる
  6. 言渡期日を終結から2か月を超えて指定しても、訓示規定(251条1項)なので異議権の問題にならない

司法書士試験AIブートラボ

司法書士試験の対策を、
スマホひとつで。

過去問の肢別演習、記述式と雛形ドリル、先例と条文、用語集。司法書士試験の勉強に使う教材をひとつのアプリにまとめました。

関連する用語

審理の原則と手続

口頭弁論の諸原則(公開主義・双方審尋主義・口頭主義・必要的口頭弁論・公開停止)

口頭弁論の諸原則とは、判決の基礎となる口頭弁論を、公開の法廷で(公開主義)、当事者双方に平等に主張の機会を与えて(...
審理の原則と手続

直接主義と弁論の更新(249条)

直接主義とは、弁論を聴き証拠を調べた裁判官自身が判決をするという原則で、判決はその基本となる口頭弁論に関与した裁判...
複雑訴訟

訴えの変更の要件

訴えの変更とは、訴訟の係属中に原告が請求の趣旨又は原因を変えて審判の対象を変えることです。請求の基礎に変更がないこ...
証拠

証人尋問の方式(交互尋問・順序・書面尋問・映像等による尋問)

証人尋問の方式とは、証人に口頭で問いを発して証言を得る手続の進め方をいい、尋問の順序(202条)、書類に基づく陳述...
審理の原則と手続

送達の瑕疵と再審・上訴の追完(補充送達の利害対立・送達の不正取得)

送達の瑕疵とは、送達が法定の方式に反していたり、有効な送達でも書類が本人に届かなかったりして、受送達者が手続に関与...
審理の原則と手続

訴訟手続の中断と受継(124条〜132条)

訴訟手続の中断とは、当事者の死亡や法定代理権の消滅など訴訟を追行する者に交代が必要な事由が生じたとき、新しい追行者...