訴えの変更の要件うったえのへんこうのようけん
訴えの変更とは、訴訟の係属中に原告が請求の趣旨又は原因を変えて審判の対象を変えることです。請求の基礎に変更がないこと、著しく訴訟手続を遅滞させないこと、事実審の口頭弁論の終結に至るまでであることが要件です(143条1項)。
建物の明渡しを求めて訴えたところ、被告が「その建物はもう取り壊して、今あるのは自分が建てた別の建物だ」と言い出したとします。原告が一から別の訴えを起こし直すのは無駄なので、同じ手続の中で請求を土地の明渡しに切り替えられると便利です。これが訴えの変更です。ただ、被告にとっては守るべき対象が途中で変わるので、変更できる範囲に枠がはめられています。その枠が誰のための枠かを考えると、同意で外れる要件と外れない要件の区別がつきます。

訴えの変更は、請求の基礎に変更がなく、著しく訴訟手続を遅滞させない限り、口頭弁論の終結に至るまですることができます
原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができます(143条1項本文)。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは変更できません(同項ただし書)。口頭弁論の終結に至るまでなので、事実審である控訴審でも変更できますが、法律審である上告審ではできません。第一審で全部勝訴した原告も、被告の控訴に附帯して請求を拡張できるので、「被控訴人(第一審原告)は、自らの請求の拡張をするための附帯控訴をすることができない」という肢(R8 午後 問5 ウ)は誤りです。訴えの変更には、旧請求を残して新請求を加える追加的変更と、旧請求の代わりに新請求を立てる交換的変更があります。追加的変更は旧請求を取り下げるものではないので、訴えの取下げのような相手方の同意は要らず、「相手方が本案について口頭弁論をした後は、相手方の同意を得なければ、訴えの追加的変更をすることができない」という肢(R6 午後 問2 エ)は誤りです。請求の基礎の同一性は、新旧の請求が社会生活上同じ紛争に関するもので、それまでの訴訟資料を新請求の審理に利用できるかで判断するのが一般です。反対に、請求の趣旨と原因を変えずに主張だけを変えるのは攻撃防御方法の変更で、訴えの変更ではありません。所有権確認の訴えで取得原因を売買から時効取得に変えても、訴訟物である所有権は同じなので、訴えの変更に当たりません。判例は、詐害行為取消訴訟で被保全債権を別の債権に変えても、詐害行為取消権は被保全債権ごとに複数発生するものではないから、攻撃防御方法の変更にすぎないとしました(最判平成22年10月19日)。
- 請求の基礎に変更がないこと被告を守るための要件です。被告の同意、異議のない応訴、被告の陳述した事実に基づく変更なら不要になります
- 著しく訴訟手続を遅滞させないこと訴訟経済という公益のための要件です。被告が同意しても外れません
- 口頭弁論の終結に至るまで事実審の口頭弁論終結までで、上告審ではできません
請求の基礎の同一性は被告を守るための要件なので、被告が同意し、異議なく応訴し、又は被告の陳述した事実に基づいて変更するときは問われません
請求の基礎の同一性を求めるのは、被告が防御の目標を予想外に変えられて困ることのないようにするためです。そのため、被告が同意すれば、請求の基礎に変更があっても訴えの変更は許されます(大判昭和16年5月23日)。被告が異議を述べずに応訴した場合も同じで、判例は控訴審での請求の拡張について、相手方が異議を述べていないから許容したのは違法でないとしました(最判昭和29年6月8日)。さらに判例は、相手方の提出した防御方法を是認したうえその主張事実に立脚して新たに請求する場合、すなわち相手方の陳述した事実をもって新請求の原因とする場合には、請求の基礎を変更する訴えの変更であっても、相手方が現実に同意したかどうかにかかわらず許されるとし、相手方の陳述した事実には積極否認の内容となる重要な間接事実も含まれるとしました(最判昭和39年7月10日)。家屋の明渡しを求めた原告が、被告の「家屋は取り壊して今の家屋は自分のものだ」という陳述に基づいて家屋収去土地明渡しの請求を加えた事案です。

著しく訴訟手続を遅滞させないことは公益のための要件なので、被告が同意しても、被告の陳述に基づく変更でも外れません
訴えの変更で新しい争点や立証が増え、審理に多大な時間がかかるようになると、裁判所の負担と他の事件への影響が大きくなります。143条1項ただし書は、この訴訟経済という公益を守るための要件なので、被告のための要件である請求の基礎の同一性とは違い、被告の同意があっても排除できません。判例も、相手方の陳述した事実に基づいて訴えを変更する場合でも、著しく訴訟手続を遅滞させるときは許されないとしています(最判昭和42年10月12日)。訴えの変更も反訴も攻撃防御方法の提出ではありませんが、どちらにも著しい遅滞を理由とする制限があります(反訴は146条1項2号)。人事訴訟では、紛争を一度に解決して身分関係を早く安定させるため、請求の基礎に変更があっても請求又は請求の原因を変更でき(人事訴訟法18条1項)、離婚請求に婚姻の取消請求を追加することも許されます。
請求の趣旨の変更は書面でして相手方に送達し、裁判所は不当な変更を決定で許さず、その決定には独立して不服を申し立てられません
訴えの変更は実質的には新しい訴えの提起なので、請求の変更は書面でしなければならず(143条2項)、その書面は相手方に送達しなければなりません(同条3項)。送達は原告が直接するのではなく、原告が裁判所に書面を提出し、裁判所が相手方に送達します。これは地方裁判所の規律で、簡易裁判所では「簡易裁判所における請求の変更は,口頭ですることができる」という肢(R3 午後 問3 ア)が正しいです。2項は「請求の変更は」と書き、請求の原因の変更を挙げていないので、判例は、請求の原因を変更するにとどまるときは、判決事項の申立てである請求の趣旨を変更する場合と違い、書面によることを要しないとしました(最判昭和35年5月24日)。訴えの変更の書面が提出されず、又は送達されなかった瑕疵は、被告が異議を述べないと異議権の喪失で治癒されます(異議権の語で扱います)。訴え提起による時効の完成猶予は、変更の書面を裁判所に提出した時に生じます(147条)。裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければなりません(143条4項)。この決定は審理の対象を旧請求に整える裁判なので、終局判決に対する上訴の中で上訴裁判所の判断を受けるにとどまり、独立して抗告することはできません(大判昭和8年6月30日)。
民事訴訟法 第143条第1項原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。
民事訴訟法 第143条第2項請求の変更は、書面でしなければならない。
民事訴訟法 第143条第4項裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければならない。
試験ではこう問われる
- 相手方が本案について口頭弁論をした後でも、訴えの追加的変更に相手方の同意は要らない(143条1項。R6 午後 問2 エ ×)
- 第一審で全部勝訴した原告も、附帯控訴により控訴審で請求を拡張できる(R8 午後 問5 ウ ×)
- 簡易裁判所では請求の変更を口頭ですることができる(R3 午後 問3 ア ○)
- 被告の同意・異議のない応訴・被告の陳述した事実に基づく変更なら、請求の基礎に変更があっても許される(最判昭和29年6月8日、最判昭和39年7月10日)
- 著しく訴訟手続を遅滞させる変更は、被告が同意しても許されない(最判昭和42年10月12日)
- 請求の趣旨の変更は書面でして裁判所が送達し、請求の原因だけの変更は書面を要しない(143条2項・3項、最判昭和35年5月24日)
- 変更を許さない決定には独立の不服申立てができない(143条4項、大判昭和8年6月30日)

