直接主義と弁論の更新(249条)ちょくせつしゅぎとべんろんのこうしん
直接主義とは、弁論を聴き証拠を調べた裁判官自身が判決をするという原則で、判決はその基本となる口頭弁論に関与した裁判官がします(249条1項)。弁論の更新とは、裁判官が代わったときに当事者が従前の口頭弁論の結果を陳述して、新しい裁判官のもとで審理を引き継ぐ手続のことです(249条2項)。
証人がどんな表情でどう答えたかは、調書を読むだけでは伝わりません。そこで民事訴訟では、弁論を聴き証拠を調べた裁判官自身が判決をするという直接主義がとられています。ところが裁判官は転勤で代わるので、そのたびに審理を全部やり直すと訴訟が終わりません。そこで、当事者が従前の口頭弁論の結果を新しい裁判官の前で陳述する「弁論の更新」で直接主義の形を整え、証人については申出があれば尋問をやり直すことにしています。

判決は基本となる口頭弁論に関与した裁判官がしますが、判決の言渡しだけなら関与していない裁判官がしてもかまいません
249条1項は、判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がすると定めます。この規定が求めるのは、口頭弁論に関与した裁判官が判決の内容を決めることです。判例(最判昭和26年6月29日)は、基本となる口頭弁論に関与しない裁判官でも判決の言渡しに関与することは妨げられないとしました。したがって、「口頭弁論を終結した後に裁判官の交代があった場合には,判決は,口頭弁論において当事者が従前の口頭弁論の結果を陳述した後でなければ,言い渡すことができない」という肢(R3 午後 問5 ウ)は誤りです。裁判官が代わったのに弁論の更新をしないまま判決をすると、基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をしたことになり、法律に従って判決裁判所を構成しなかったものとして上告の理由になります(312条2項1号)。弁論の更新は直接主義という公益性の強い要請にかかわるので、当事者が遅滞なく異議を述べなくても異議権(責問権)を失うことはありません(90条ただし書)。
裁判官が代わったときは、当事者が従前の口頭弁論の結果を陳述して弁論を更新し、一方が欠席していれば出頭した当事者が双方の分を陳述できます
249条2項は、裁判官が代わった場合には、当事者は、従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならないと定めます(弁論の更新)。合議体では、構成員のうち1人が代わっただけでもこの手続が必要です。更新は直接主義の形を満たすための報告なので、陳述は概括的でよく、当事者の一方がするだけで足ります。判例(最判昭和31年4月13日)は、当事者の一方が欠席したときは、出頭した当事者に双方に係る従前の口頭弁論の結果を陳述させることができるとしました。
更新が要るかどうかは、判決に加わる裁判官が従前の口頭弁論に関与していたかで決まり、控訴審でも第一審の口頭弁論の結果を陳述します
更新が要るかどうかは、判決に加わる裁判官が従前の口頭弁論に関与していたかで決まります。合議体の審理をその構成員の1人が単独で引き継ぐときは、その裁判官は従前の審理に関与しているので更新は要りません(最判昭和26年3月29日)。逆に単独裁判官の審理をその裁判官を含む合議体が引き継ぐときは、新しく加わる裁判官が従前の審理を知らないので更新が必要です。控訴審の裁判官も第一審の口頭弁論に関与していないので、296条2項により、当事者は第一審における口頭弁論の結果を陳述しなければなりません。
- 合議体の1人が代わった弁論の更新が必要です(249条2項)
- 合議体から構成員1人の単独審理へ更新は要りません
- 単独審理からその裁判官を含む合議体へ更新が必要です
- 一方当事者の欠席出頭した当事者が双方の分を陳述できます
- 控訴審第一審における口頭弁論の結果を陳述します(296条2項)
- 弁論を再開しただけで裁判官が代わらない更新は要りません

単独の裁判官か合議体の過半数が代わったときは、当事者の申出があれば証人を尋問し直さなければなりませんが、当事者本人はその対象になりません
結果の陳述だけでは、証人の供述態度から受ける印象までは新しい裁判官に伝わりません。そこで249条3項は、単独の裁判官が代わった場合又は合議体の裁判官の過半数が代わった場合において、その前に尋問をした証人について当事者が更に尋問の申出をしたときは、裁判所はその尋問をしなければならないと定めます。3人の合議体のうち2人が代わるのは過半数の交代に当たり、単独の裁判官が代わった場合も同じです。この規定の対象は証人であり、当事者本人は含まれません。また249条3項は同じ審級の中で裁判官が代わった場合の規定であり、控訴審は第一審の続審なので、第一審で尋問した証人の再尋問を認めなくても、直接主義の要請に反しません。
受命裁判官や受託裁判官による証拠調べは直接主義の例外であり、条文が定める場面に限って許されます
証拠調べは受訴裁判所自身が行うのが直接主義の原則ですが、法律は訴訟経済のためにいくつかの例外を置いています。裁判所は、相当と認めるときは裁判所外で証拠調べをすることができ、合議体の構成員(受命裁判官)に命じ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して(受託裁判官)させることができます(185条1項)。検証もこの証拠調べに含まれ、裁判所外の証拠調べに受訴裁判所の構成員全員が関与する必要はありません。証人尋問を受命裁判官又は受託裁判官に裁判所外でさせることができるのは195条各号の場合に限られ、その一つが当事者に異議がないとき(4号)です。さらに大規模訴訟では、当事者に異議がないときは、受命裁判官に裁判所内で証人又は当事者本人の尋問をさせることができます(268条)。
- 裁判所外の証拠調べ(185条1項)相当と認めるとき、受命裁判官に命じ、又は受託裁判官に嘱託できます
- 裁判所外の証人尋問(195条)出頭義務がない・出頭できない、出頭に不相当な費用や時間を要する、現場での尋問が必要、当事者に異議がない、のいずれかの場合に限られます
- 大規模訴訟(268条)当事者に異議がないとき、受命裁判官に裁判所内で証人又は当事者本人を尋問させることができます
民事訴訟法 第249条第1項判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする。
民事訴訟法 第249条第2項裁判官が代わった場合には、当事者は、従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならない。
民事訴訟法 第249条第3項単独の裁判官が代わった場合又は合議体の裁判官の過半数が代わった場合において、その前に尋問をした証人について、当事者が更に尋問の申出をしたときは、裁判所は、その尋問をしなければならない。
民事訴訟法 第296条第2項当事者は、第一審における口頭弁論の結果を陳述しなければならない。
試験ではこう問われる
- 判決は基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする(249条1項)が、言渡しだけなら関与していない裁判官でもよい(最判昭和26年6月29日)。口頭弁論終結後に裁判官が代わっても、更新の陳述なしに言い渡せる(R3 午後 問5 ウ ×)
- 合議体の1人が代わっただけでも弁論の更新が必要である(249条2項)。一方当事者が欠席しても、出頭した当事者に双方の従前の口頭弁論の結果を陳述させて更新できる(最判昭和31年4月13日)
- 合議体から構成員の単独審理に移るときは更新不要、単独からその裁判官を含む合議体に移るときは更新が必要である
- 単独の裁判官か合議体の過半数が代わったら、申出により証人を再尋問しなければならない(249条3項)。当事者本人は対象外である
- 控訴審は第一審の口頭弁論の結果を陳述する(296条2項)が、第一審の証人の再尋問を認めなくても直接主義に反しない
- 更新をしないでした判決は判決裁判所の構成の違法として上告理由(312条2項1号)で、責問権の喪失で治癒されない
- 受命・受託裁判官による裁判所外の証拠調べ(185条1項)、異議がないときの裁判所外の証人尋問(195条4号)、大規模訴訟の裁判所内の尋問(268条)は直接主義の例外である

