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相続と登記(共同相続・相続放棄・遺産分割・遺贈・特定財産承継遺言・遺言執行者)そうぞくととうき

民法 第5章 物権総論と物権変動 過去問で137肢

相続と登記とは、相続によって不動産を取得した者が、その取得を第三者に主張するのに登記が要るかという問題です。自己の法定相続分は登記なしに対抗でき、相続放棄の効力も登記なしに主張できますが、遺産分割や特定財産承継遺言で法定相続分を超えて取得した部分は登記がなければ第三者に対抗できず(899条の2第1項)、遺贈も登記がなければ対抗できません。

親が亡くなって子どもたちが土地を相続すると、まずは法定相続分に従って皆の共有になります。自分の相続分は法律で当然に決まるので、登記がなくても誰にでも主張できます。しかし、遺産分割や遺言で自分の相続分より多く取得した部分は、登記を見て取引する第三者には外から分かりません。そこで民法は、法定相続分を超える部分は登記をしなければ第三者に対抗できないとしました。相続を放棄した人は初めから相続人でなかったことになり、遺贈は意思表示による移転なので登記が要ります。

遺産分割協議の座卓の場面。座卓を囲んで兄弟の男性二人(札「相続人B」「相続人C」)と母親役の先生(札「相続人A」)が座り、卓上に「遺産分割協議書 甲土地はBが取得する」と書いた紙がある。窓の外で別の男性(札「Cから買った第三者D」)が登記済

共同相続人の一人が単独相続の登記をして売却しても、他の共同相続人は自己の持分を登記なしに対抗でき、持分についての更正登記を求めます

判例は、相続財産に属する不動産について単独所有権移転の登記をした共同相続人と、その者から移転登記を受けた第三取得者に対し、他の共同相続人は自己の持分を登記なしに対抗できるとしました(最判昭和38年2月22日)。単独登記は他の相続人の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力がないので、譲受人もその持分を取得できないからです。「A及びBが甲土地を共同相続したが、Aが、Bに無断で、甲土地を単独で相続した旨の登記をした上で甲土地をCに売却し、AからCへの所有権の移転の登記をしたときは、Bは、Cに対し、甲土地の持分を主張することができない」という肢(R4 問7 エ)は誤りです。もっとも、単独登記をした相続人自身の持分は有効に譲渡されているので、他の相続人が求めることができるのは登記の全部の抹消ではなく、自己の持分についての一部抹消(更正)登記です。「A及びBが甲土地を共同相続した場合において、Bが、甲土地について単独で相続した旨の登記をした上で甲土地をCに売却し、その旨の登記がされたときは、Aは、Cに対し、当該登記の全部抹消登記手続をすることを請求することができる」という肢(R7 問8 イ)は誤りです。遺産分割前に無断で単独登記をされて売られた場合も、他の相続人は相続登記をしなくても法定相続分に応じた持分を譲受人に主張できます。被相続人から買って未登記の者と、相続人の一人が単独登記をして売った相手との関係では、その相続人の持分2分の1について二重譲渡と同じ対抗関係になり、他の相続人の持分は譲受人が取得できないので、被相続人からの買主は2分の1の限度で共有持分の取得を主張できます。

遺産分割で法定相続分を超えて取得した部分は、登記をしなければ分割後の第三者に対抗できず、分割前の第三者は909条ただし書で保護されます

899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分(900条・901条で算定した相続分)を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定めています。平成30年の相続法改正で、遺産分割後の第三者との関係を177条の対抗問題とした判例(最判昭和46年1月26日)を明文化したものです。遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利を害することはできず(909条)、分割前に持分に抵当権の設定を受けて登記した者は保護され、遺産分割で取得した相続人はその抵当権設定登記の抹消を請求できません。分割後に他の相続人の法定相続分を買い受けた者に対し、遺産分割で取得した相続人は、登記をしなければ法定相続分を超える所有権の取得を対抗できません。「B及びCは,遺産分割協議において,BがAの遺産である甲土地の所有権全部を取得することに合意したが,その後,Cが,第三者に対し,甲土地の 2 分の 1 の持分を売却した場合,Bは,当該第三者に対し,登記なくして甲土地の所有権全部の取得を対抗することができる」という肢(R3 問22 ア)は誤りで、「甲土地を所有するAが死亡し、その子B及びCがAを共同相続した場合において、BC間でBが甲土地を単独で取得する旨の遺産分割協議が成立したが、Cが甲土地を共同相続したものとして所有権の移転の登記をした上で、自己の法定相続分に相当する持分をDに売却してその旨の登記をしたときは、Bは、Dに対し、単独での甲土地の所有権の取得を対抗することができない」という肢(R5 問7 ア)は正しいです。遺産分割後に代位で共同相続登記がされ持分が差し押さえられた場合も、遺産分割で取得した相続人は、法定相続分を超える部分を登記なしに差押債権者に対抗できません。

板書の図解。黒板の左に円グラフのような土地の図があり、半分に「Bの法定相続分→登記なしで対抗できる」、残り半分に「法定相続分を超える部分→登記が必要(899条の2)」と書かれている。右側に「遺産分割・特定財産承継遺言=同じ扱い」「相続放棄=

特定財産承継遺言(相続させる遺言)で取得した部分も、法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できなくなりました

特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、特段の事情のない限り遺産分割の方法の指定で、何らの行為を要せず死亡の時に直ちにその相続人に承継されます(最判平成3年4月19日)。現行法はこれを特定財産承継遺言と呼びます(1014条2項)。旧判例は、この承継は法定相続分による相続と本質が同じだとして、登記なしに第三者に対抗できるとしていました(最判平成14年6月10日)。しかし899条の2第1項は「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」と定め、令和元年7月1日以降に開始した相続では、法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できません。他の相続人の債権者が代位で共同相続登記をして持分を差し押さえた場合、特定財産承継遺言で取得した相続人は、法定相続分を超える部分を登記なしに差押債権者に対抗できません。妻が法定相続分で登記して持分を売った場合も、特定財産承継遺言で取得した相続人は、自己の法定相続分を超える部分を登記なしに買主に主張できません。共同相続人自身は第三者ではないので、受益相続人は、ともに相続した他の相続人に対しては、登記がなくても単独所有権の取得を対抗できます。

相続放棄の効力は絶対的で、放棄者の債権者が代位で共同相続登記をして差し押さえても、他の相続人は登記なしに対抗できます

相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(939条)。判例は、放棄の申述をすると相続人は相続開始時にさかのぼって相続開始がなかったのと同じ地位に置かれ、この効力は絶対的で、何人に対しても登記等なくして効力を生ずるとしました(最判昭和42年1月20日)。遺産分割と違って909条ただし書のような第三者保護の規定がなく、放棄は熟慮期間内に家庭裁判所に申述してするので第三者が現れる余地も小さいからです。「甲土地を所有するAが死亡し、Aの子B及びCのうちBが相続の放棄をしてCがAの唯一の相続人となった場合には、Bの債権者Dが甲土地をBも共同相続したものとしてBのその持分を差し押さえたときであっても、Cは、Dに対し、甲土地の単独所有権の取得を主張することができる」という肢(R7 問8 ウ)は正しく、差押えの登記がされた後に相続の放棄をした場合について「Cは,Dに対し,単独での甲土地の所有権の取得を対抗することができない」とする肢(R2 問7 エ)は誤りです。放棄者の持分を譲り受けた者も、他の相続人に持分の取得を主張できません。

遺贈は意思表示による物権変動なので、受遺者は登記がなければ相続人からの譲受人や相続人の差押債権者に対抗できません

判例は、遺贈は遺言による意思表示で物権変動を生じる点で贈与と異ならないから、177条が適用され、受遺者は登記をしなければ第三者に対抗できないとしています(最判昭和39年3月6日)。受遺者は相続人自身には登記なしに主張できますが、相続人の債権者が持分を差し押さえた場合や、相続人が第三者に売って登記をした場合は対抗関係になります。「Aがその所有する甲土地をBに遺贈する旨の遺言を残して死亡し、Bが遺贈の承認をした場合において、その後、Aを単独で相続したCに対して債権を有するDが、Cが甲土地を相続したものとして代位による所有権の移転の登記をした上で甲土地を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、Bは、Dに対し、甲土地の所有権を主張することができない」という肢(R4 問7 オ)は正しいです。遺贈があったことを知らず登記の機会がなかった受遺者も、登記がなければ差押債権者に対抗できず、相続人から買って登記をした者に対しては、その移転登記の抹消登記手続を請求できません。被相続人からの生前贈与と相続人への遺贈も対抗関係で、受贈者・受遺者が相続人として履行義務を承継していても登記の有無で決まります(最判昭和46年11月16日)。受贈者は、登記をしなければ受遺者に贈与による所有権の取得を対抗できず、受遺者が相続人であっても同じです。

家庭裁判所の窓口の場面。窓口で男性(札「相続を放棄した子B」)が「相続放棄申述書」を差し出している。少し離れた所で別の男性(札「Bの債権者D」)が差押えの書類を持って驚いた顔をしている。先生が説明役(札「先生」)で手前に立ち、吹き出し「放棄

遺言執行者がある場合の相続人の処分は無効ですが善意の第三者には対抗できず、限定承認をした受贈相続人は相続債権者に対抗できません

遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず(1013条1項)、これに違反した行為は無効ですが、善意の第三者に対抗することができません(1013条2項)。旧判例は相続人の処分を絶対的に無効とし、受遺者は登記なしに処分の相手方に対抗できるとしていました(最判昭和62年4月23日)。現行法では、遺言執行者がある場合に相続人が持分を売っても、買主が遺言執行者のあることを知らなければ、受遺者は買主に所有権の取得を主張できません。不動産の死因贈与を受けた相続人が限定承認をした場合、限定承認者は相続財産を清算して相続債権者に弁済すべき立場にあるので、信義則に照らし、死因贈与による移転登記が相続債権者の差押登記より先でも相続債権者に所有権取得を対抗できません(最判平成10年2月13日)。

民法 第899条の2第1項

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

民法 第1013条

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

最判昭和42年1月20日

家庭裁判所に放棄の申述をすると、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずる

試験ではこう問われる

  1. 共同相続人の一人が無断で単独相続の登記をして売却しても、他の相続人は自己の持分を登記なしに主張でき、求められるのは全部抹消ではなく更正登記である(最判昭和38年2月22日。R4 問7 エ ×、R7 問8 イ ×)
  2. 遺産分割で法定相続分を超えて取得した部分は、登記をしなければ分割後に持分を買い受けた第三者に対抗できない(899条の2第1項。R3 問22 ア ×、R5 問7 ア ○)
  3. 特定財産承継遺言で取得した部分も、法定相続分を超える部分は登記が要る。旧判例(最判平成14年6月10日)は登記不要としていた
  4. 相続放棄の効力は絶対的で、放棄者の債権者が代位登記をして差し押さえても、他の相続人は登記なしに単独所有を主張できる(最判昭和42年1月20日。R7 問8 ウ ○、R2 問7 エ ×)
  5. 遺贈は登記がなければ第三者に対抗できず、相続人の債権者が代位で相続登記をして差し押さえたときは受遺者は所有権を主張できない(最判昭和39年3月6日。R4 問7 オ ○)
  6. 法定相続分による相続の登記の後に遺産分割で一人が取得したときは、他の相続人と共同して持分の移転の登記を申請できるほか、取得した相続人が単独で所有権の更正の登記を申請できる(R6 午後 問20 ア ×、ウ ○)
  7. 遺言執行者がある場合の相続人の処分は無効だが、善意の第三者に対抗できない(1013条2項)

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