遺言の効力・撤回と遺言執行者(985条〜1027条)いごんのこうりょくてっかいといごんしっこうしゃ
遺言の効力・撤回とは、遺言が遺言者の死亡の時から効力を生じ、遺言者はいつでも遺言の方式に従って撤回できることをいい、遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する者です(985条・1012条・1022条)。
遺言は、書いた時ではなく、書いた人が亡くなった時に効力を生じます。それまでは本人の気持ちが変わってもよいので、いつでも書き直しや取消し(撤回)ができ、撤回する権利をあらかじめ放棄することもできません。亡くなった後に遺言の中身を実際に実現する役目を負うのが遺言執行者です。遺言執行者がいるときは、相続人が勝手に遺産を処分して遺言の実現を妨げることはできません。

遺言は遺言者の死亡の時から効力を生じ、停止条件が死亡後に成就したときは成就の時から効力を生じます
遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます(985条1項)。遺言に停止条件を付けることもでき、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は条件が成就した時から効力を生じます(同条2項)。「遺言に停止条件が付されていた場合において,遺言者の死亡後に条件が成就したときは,条件が成就した時から,遺言の効力が生ずる。」という肢(R2 問23 ウ)は正しいです。遺言による認知も遺言の効力発生によって効力を生じ、認知の効力は出生の時に遡ります(784条)。判例は、遺言の解釈では遺言書の文言を形式的に判断するのではなく、遺言者の真意を探究すべきだとしています(最判昭和58年3月18日)。
遺言者はいつでも遺言の方式で撤回でき、前の遺言と同じ方式である必要はなく、撤回する権利は放棄できません
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回できます(1022条)。撤回の意思を確実にするため遺言の方式が要り、任意の方式では撤回できませんが、方式の間に優劣はないので、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回できます。「公正証書によってした遺言は、自筆証書によってした遺言により撤回することができない。」という肢(R8 問23 イ)は誤りです。前の遺言が後の遺言と抵触するときはその部分について撤回したものとみなされ、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合も同じです(1023条)。「遺言者が、甲土地をAに遺贈する旨の遺言をした後に甲土地をBに生前贈与したときは、当該遺言を撤回したものとみなされる。」という肢(R8 問23 エ)は正しいです。遺言者が故意に遺言書や遺贈の目的物を破棄したときも撤回したものとみなされますが(1024条)、過失による破棄はこれに当たらないので、「遺言者が、過失によって遺言書の一部をシュレッダーで裁断したときは、その部分については、遺言を撤回したものとみなされる。」という肢(R8 問23 オ)と、遺言者の過失による遺言書の焼失で撤回とみなされるとする肢(R2 問23 ア)は誤りです。遺言者は撤回する権利を放棄できないので(1026条)、「遺言者は、その遺言中に当該遺言が最終の遺言であって撤回することはない旨を表示することにより、当該遺言を撤回する権利を放棄することができる。」という肢(R8 問23 ア)は誤りです。
撤回された遺言は撤回の行為が撤回されても原則として復活しませんが、原遺言の復活を望む意思が遺言書から明らかなときは復活します
撤回された遺言は、撤回の行為が撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなっても、効力を回復しません(1025条本文)。遺言者が原遺言の復活を望んでいるとは限らないからです。ただし、撤回の行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は復活します(同条ただし書)。「遺言者が,甲遺言をした後に,それを撤回する乙遺言をした場合には,乙遺言が強迫により取り消されたときであっても,甲遺言の効力が回復することはない。」という肢(R2 問23 イ)は誤りです。判例は、このただし書の趣旨に照らし、甲遺言を乙遺言で撤回した後に乙遺言を丙遺言で撤回した場合に、遺言書の記載から遺言者の意思が甲遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、甲遺言の効力が復活するとしています(最判平成9年11月13日)。

遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持ち、遺贈の履行は遺言執行者だけができ、自己の責任で第三者に任務を行わせられます
遺言者は遺言で遺言執行者を指定し又は指定を第三者に委託でき(1006条)、遺言執行者がないとき又はなくなったときは、家庭裁判所が利害関係人の請求によって選任できます(1010条)。相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に相当の期間を定めて就職を承諾するかどうか催告でき、期間内に確答しなければ承諾したものとみなされます(1008条)。未成年者と破産者は遺言執行者になれませんが(1009条)、法人を除く規定はないので、法人も遺言執行者になることができます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がある場合には遺贈の履行は遺言執行者のみが行えます(1012条1項・2項)。特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者は当該共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるので(1014条2項)、遺言執行者は単独で被相続人から当該共同相続人への所有権の移転の登記を申請することができないとする肢(R3 問23 イ)は誤りです。目的が預貯金債権であるときは、遺言執行者は払戻しの請求ができ、預貯金債権の全部が目的なら解約の申入れもできます(1014条3項。遺言で別段の意思を表示したときを除く。同条4項)。遺言執行者は自己の責任で第三者に任務を行わせることができますが、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときはその意思に従うので(1016条1項)、「遺言執行者は,やむを得ない事由がある場合には,遺言者が遺言によって表示した意思に反しても,遺言執行者の責任で第三者にその任務を行わせることができる。」という肢(R3 問23 エ)は誤りです。遺言執行者が数人ある場合の任務の執行は過半数で決しますが、各遺言執行者は保存行為をすることができ(1017条)、「遺言執行者が複数いる場合の各遺言執行者は,単独で,相続財産の保存に必要な行為をすることができる。」という肢(R3 問23 オ)は正しいです。
遺言執行者がある場合に相続人がした遺言の執行を妨げる処分は無効ですが、善意の第三者には対抗できません
遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず、これに違反した行為は無効ですが、善意の第三者に対抗することはできません(1013条1項・2項、平成30年改正)。改正前の判例は、相続人が遺贈の目的物を処分しても絶対的に無効で、受遺者は登記なしに処分の相手方に対抗できるとしていました(最判昭和62年4月23日)。現在は、処分の相手方が遺言執行者がいることを知っていれば無効を対抗でき、「特定の不動産の遺贈があった場合において,遺言執行者がいるにもかかわらず,遺贈の相手方でない相続人が当該不動産を第三者に売却し,かつ,当該第三者において遺言執行者がいることを知っていたときは,当該売却行為は無効となる。」という肢(R3 問23 ウ)は正しいです。相手方が善意なら、受遺者は無効を対抗できません。相続と登記との関係は前半の相続と登記の語で扱います。
民法 第985条第2項遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
民法 第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
民法 第1013条第2項前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
試験ではこう問われる
- 停止条件が遺言者の死亡後に成就すれば、遺言は成就の時から効力を生じる(985条2項。R2 問23 ウ ○)
- 公正証書遺言も自筆証書遺言で撤回でき、撤回する権利は放棄できない(1022条・1026条。R8 問23 イ ×、R8 問23 ア ×)
- 遺贈の目的物の生前贈与は撤回とみなされるが、過失による遺言書の破棄や焼失は撤回とみなされない(1023条・1024条。R8 問23 エ ○、R8 問23 オ ×、R2 問23 ア ×)
- 撤回の遺言が強迫を理由に取り消されれば原遺言は効力を回復する(1025条ただし書。R2 問23 イ ×)
- 特定財産承継遺言の遺言執行者は、単独で相続を原因とする所有権の移転の登記を申請できる(1014条2項。R3 問23 イ ×)
- 遺言執行者の復任は遺言者の別段の意思に従い、保存行為は各遺言執行者が単独でできる(1016条1項・1017条2項。R3 問23 エ ×、R3 問23 オ ○)
- 遺言執行者がいることを知っていた第三者への相続人の売却は無効となる(1013条2項。R3 問23 ウ ○)

