種類債権の特定と選択債権(401条・406条〜411条)しゅるいさいけんのとくていとせんたくさいけん
種類債権とは、ビール1ダース・米1トンのように、目的物を種類と数量だけで指定した債権のことで、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了するか、債権者の同意を得て給付すべき物を指定したときに、以後その物が債権の目的物になります(401条2項。特定)。選択債権とは、数個の給付の中から選択によって目的が定まる債権のことで、選択権は別段の意思表示がなければ債務者に属します(406条)。
酒屋にビール1ダースを注文したとき、店はどの瓶を届けてもかまいません。倉庫の瓶が1本割れても、別の瓶を届ければ済みます。ところが、店がいったん客の家まで届けて差し出したのに客が受け取らなかった後では、店にいつまでも別の瓶を用意させるのは酷です。そこで民法は、一定の行為があった時点で「この瓶」に目的物を決める仕組み(特定)を置いています。いくつかの品から選んで渡す選択債権でも、誰が選ぶか、品が壊れたらどうなるかを条文で決めています。

種類債権は、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了するか、債権者の同意を得て給付すべき物を指定した時に特定します
種類債権の債務者は、法律行為の性質や当事者の意思で品質を定められないときは、中等の品質の物を給付しなければなりません(401条1項)。そして、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物が債権の目的物になります(401条2項)。何をすれば「必要な行為を完了」したといえるかは、弁済の場所で変わります。弁済の場所について別段の意思表示がないとき、特定物以外の引渡しは債権者の現在の住所でしなければならないので(484条1項)、種類債権は原則として持参債務です。持参債務では、債権者の住所に目的物を持参して差し出す現実の提供をしてはじめて特定します。判例は、債務者が発送しただけで特定するとすれば484条1項に反して債権者の不利益になるとして、債権者の住所で履行の提供をしなければ必要な行為を完了したとはいえないとしています(大判大正8年12月25日)。債権者が取りに来る取立債務では、債務者が目的物を分離し、引渡しの準備を整えて債権者に通知すれば足りると解されています。判例は、取立債務の漁業用タールの売買で、売主が残部の引渡しの準備ができたことを告げる口頭の提供をしただけでは、必要な行為を完了したとはいえないとしました(最判昭和30年10月18日)。
特定した後は債務者は別の物を調達する義務を負わず、その物が滅失すれば引渡債務は履行不能になります
特定すると、債権はその物の引渡しを目的とする債権として扱われ、債務者は引渡しまで善良な管理者の注意で保存する義務を負います(400条)。その代わり、特定した物が滅失すれば、同じ種類の物を探して給付する義務はなくなり、引渡債務は履行不能になります(412条の2第1項)。買主の住所にワインを持参したのに受領を拒まれ、その後に保管倉庫が第三者の放火で焼失した事例では、ワインは持参と現実の提供で特定しているので、売主はワインの引渡債務を免れます。これに対し、受領を拒まれた後に売主がそのワインを故意に滅失させたときは、受領遅滞で注意の程度が自己の財産に対するのと同一の注意に下がっても故意の滅失まで許されるわけではないので、売主は引渡債務の不履行による損害賠償責任を負います。特定後にワインが買主の過失で滅失したときは、債権者の責めに帰すべき事由による不能なので、買主は反対給付の履行を拒むことができず(536条2項)、代金債務を免れません。なお、「甲倉庫内の米のうち1トン」のように、給付すべき物の範囲を一定の場所の物に限った制限種類債権では、特定の前でも、その範囲内の物が全部滅失すれば履行不能になります。

選択債権の選択権は別段の意思表示がなければ債務者に属し、選択の意思表示は相手方の承諾がなければ撤回できません
債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は債務者に属します(406条)。給付をする側が選ぶのが自然だからで、当事者の合意で債権者や第三者に選択権を与えることもできます。選択権は相手方に対する意思表示によって行使し(407条1項)、その意思表示は相手方の承諾を得なければ撤回できません(同条2項)。相手方は選ばれた給付を前提に準備を始めるからで、弁済期前でも変わりません。債権が弁済期にある場合に、相手方から相当の期間を定めて催告をしても選択権者がその期間内に選択をしないときは、選択権は相手方に移転します(408条)。第三者が選択をすべき場合に、第三者が選択できず又は選択する意思がないときは、選択権は債務者に移ります(409条2項)。選択の効力は債権の発生の時にさかのぼりますが、第三者の権利を害することはできません(411条)。
給付の一部が不能になったときに残りの給付に特定するのは、その不能が選択権を有する者の過失による場合だけです
410条は、債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権はその残存するものについて存在すると定めています。選択権者が自分の過失で一方を不能にしたのに、なお不能の給付を選べるとするのは不当だからです。反対に、選択権を有しない当事者の過失による不能や、誰の過失にもよらない不能では特定は生じず、選択権者は不能になった給付を選ぶこともできます(その場合は債務不履行や危険負担の問題になります)。改正前の410条は、給付が後から不能になれば原則として残存する給付に特定し、選択権を有しない当事者の過失による不能だけを例外としていました。現在の410条では、選択権を有する者の過失によらない不能(誰の過失にもよらない不能を含みます)では特定しません。
民法 第401条第1項債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
民法 第401条第2項前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
民法 第410条(不能による選択債権の特定)
債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。
試験ではこう問われる
- 種類債権で品質を定められないときは中等の品質の物を給付する(401条1項)
- 持参債務の種類債権は債権者の住所での現実の提供で特定し、発送した時には特定しない(401条2項・484条1項。大判大正8年12月25日)
- 取立債務では分離・準備・通知で特定し、準備を告げる口頭の提供だけでは特定しない(最判昭和30年10月18日)
- 特定後に第三者の放火で滅失すれば引渡債務は履行不能になり、買主の過失で滅失すれば買主は代金債務を免れない(412条の2第1項・536条2項)
- 制限種類債権は、範囲内の物が全部滅失すれば特定前でも履行不能になる
- 選択権は別段の意思表示がなければ債務者に属し、選択の意思表示は相手方の承諾がなければ撤回できない(406条・407条2項)
- 残存する給付に特定するのは選択権を有する者の過失による不能だけである(410条。改正前は原則として特定した)

