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取消しと登記(取消し前の第三者・取消し後の第三者)とりけしととうき

民法 第5章 物権総論と物権変動 過去問で179肢

取消しと登記とは、不動産の売買などが取り消された場合に、取消権者が取消しによる所有権の復帰を第三者に主張するのに登記が要るかという問題です。判例は、取消し前の第三者は96条3項・95条4項などの第三者保護規定で処理し、取消し後の第三者とは復帰的物権変動による対抗関係に立つとして177条で処理します。

だまされて土地を売った人が売買を取り消すと、売買は初めから無効だったことになります。ところが、取り消した後も登記を買主の名義のまま放っておき、その間に買主が別の人に売ってしまうことがあります。このとき、取り消した人は登記を取り戻すことができたのに怠ったのですから、登記を信じて買った人より優先させる理由はありません。そこで判例は、取消し後に現れた第三者とは登記の早い方が勝つとしました。一方、取消し前に現れた第三者は、取消しの原因ごとに民法が用意した保護の規定で決まります。

登記所の窓口の場面。窓口の前で、先生が売主役(札「取り消した売主A」)として取消しの通知書を手に持ち、少し離れた窓口では別の男性(札「取消し後の買主C」)が登記の申請書を職員に差し出している。窓口の上の掲示「登記の早い方が優先」。先生の吹き

取消し前の第三者は、詐欺・錯誤による取消しなら善意無過失のときに保護されますが、強迫・制限行為能力による取消しには保護の規定がありません

取り消された行為は初めから無効であったものとみなされる(121条)ので、取消し前に買主から権利を得た者は、本来は無権利者から取得したことになります。詐欺による意思表示の取消しは善意でかつ過失がない第三者に対抗することができず(96条3項)、錯誤による取消しも同じです(95条4項)。いずれも令和2年4月施行の改正で、詐欺の第三者の要件が善意から善意無過失に改められ、錯誤の第三者保護の規定が新設されました。「Aがその所有する甲土地をBの詐欺によりBに売却してその旨の登記がされ,Bが詐欺の事実について善意無過失のCに甲土地を売却してその旨の登記がされた後,AがBとの間の売買契約を取り消したときは,Aは,Cに対し,甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができない」という肢(R2 問7 オ)は正しいです。強迫による取消しには第三者保護の規定がないので、取消し前の第三者が善意無過失でも、取消権者は取消しを対抗できます。強迫の被害者は意思決定の自由を奪われた者で、詐欺の被害者より保護の必要が強いからです。「Aがその所有する甲土地をBの強迫によりBに売却してその旨の登記をし、Bが強迫につき善意無過失のCに甲土地を売却してその旨の登記をした場合であっても、その後、AがBとの間の売買契約を強迫を理由として取り消したときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権を主張することができる」という肢(R4 問7 ア)は正しいです。制限行為能力を理由とする取消しにも保護の規定はなく、未成年者が取り消した場合に善意無過失の転得者は所有権の取得を主張できません。「成年被後見人であるAがその所有する甲土地をBに売却してその旨の登記がされ,Bが,Aが成年被後見人であることを知らないCに甲土地を売却してその旨の登記がされた後,AがBとの間の売買契約を取り消したときは,Aは,Cに対し,甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができない」という肢(R2 問7 イ)は誤りです。

取消し後の第三者とは、取消しによる所有権の復帰と第三者への譲渡が二重譲渡に似た関係になり、登記の先後で優劣が決まります

判例は、詐欺による売買の取消し後に買主から抵当権の設定を受けた第三者との関係について、取消しによって買主から売主へ所有権が復帰する物権変動があったものとみて、この復帰と第三者への物権変動を買主を起点とする二重譲渡と同じように扱い、177条により登記をしなければ対抗できないとしました(大判昭和17年9月30日)。96条3項の第三者は取消し前に利害関係に入った者に限られ、取消し後の第三者は同項では保護されません。取消し後に転売され移転登記がされた場合、取消権者は、所有権の復帰の登記を備えなければ、そのことを転得者に対抗できません。取消しについての転得者の善意や過失は問われないので、「Aがその所有する甲土地をBの詐欺によりBに売却してその旨の登記をし、AがBとの間の売買契約を詐欺を理由として取り消した後、Bがその取消しにつき善意のCに甲土地を売却してその旨の登記をした場合であっても、Cにその善意であることにつき過失があるときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができる」という肢(R5 問7 エ)は誤りです。

板書の図解。黒板に時間の矢印があり、中央に「取消し」の目盛り。左側(取消し前)に「第三者C」と書き、その下に「詐欺・錯誤→善意無過失なら保護(96条3項・95条4項)」「強迫・制限行為能力→保護されない」。右側(取消し後)に「第三者D」と書

強迫による取消しでも、取消し後の第三者との関係は詐欺と同じく対抗関係になります

強迫の被害者が手厚く保護されるのは取消し前の第三者との関係だけです。取消し後は、取消権者が登記名義を回復できる状態にあるので、詐欺か強迫かで区別する理由がありません。強迫を理由に売買を取り消した後、強迫の事実も取消しの事実も知らない者が買主から買い受けて移転登記をした場合、取消権者は復帰した所有権を対抗できず、転得者は取消権者に所有権の取得を主張できます。

目的物が動産なら、取消し前の第三者も即時取得によって所有権を取得することがあります

取消しによって買主は遡って無権利者になるので、取消し前に買主から動産を買って現実の引渡しを受けた者は、無権利者から譲り受けた者として192条の即時取得の要件を検討することになります。強迫による取消しで96条3項の保護を受けられなくても、平穏・公然・善意無過失で占有を始めていれば即時取得が成立し、転得者は宝石のような動産の所有権を取得します。

取消しの前後で扱いを分ける判例には批判があり、取消し後の第三者を94条2項の類推適用で保護する見解もあります

判例の構成に対しては、取消しの遡及効(121条)によれば買主は初めから無権利者なのに、取消し後に限って復帰的物権変動を考えるのは一貫しないという批判があります。また、取消し前の第三者は善意無過失が要件なのに、取消し後の第三者は悪意でも登記をすれば勝つという不均衡も指摘されています。そこで、取消し後の第三者についても無権利者からの取得と考えたうえで、取消権者が登記を回復できるのに放置した場合には94条2項を類推適用して善意の第三者を保護する見解があります。

民法 第121条

(取消しの効果)
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

民法 第96条第3項

前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

試験ではこう問われる

  1. 詐欺による取消しは、取消し前に転得して登記をした善意無過失の第三者に対抗できない(96条3項。R2 問7 オ ○)
  2. 錯誤による取消しは、取消し前の第三者が錯誤を過失により知らなかったときは、その第三者に対抗できる(95条4項。R3 問5 ウ ○)
  3. 強迫・制限行為能力による取消しは、取消し前の善意無過失の第三者にも対抗できる(R4 問7 ア ○、R2 問7 イ ×、R8 問5 オ ×)
  4. 取消し後の第三者とは対抗関係に立ち、取消権者は登記がなければ所有権の復帰を対抗できず、第三者の善意・過失は問われない(大判昭和17年9月30日。R5 問7 エ ×)
  5. 強迫による取消しでも、取消し後の第三者との関係は対抗関係になる
  6. 動産なら、取消し前の第三者も即時取得によって所有権を取得しうる。未成年を理由とする取消しの後に買主から善意無過失で買った者も即時取得する(R4 問8 イ ○)

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