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占有の訴え(占有回収・占有保持・占有保全の要件と期間)せんゆうのうったえ

民法 第6章 占有権・所有権 過去問で4肢

占有の訴えとは、占有者が本権の有無にかかわらず、占有を奪われたときは物の返還を、妨害されたときは妨害の停止を、妨害されるおそれがあるときは予防を求める権利です。占有回収の訴え・占有保持の訴え・占有保全の訴えの三つがあり、損害賠償や担保もあわせて請求できます(197条〜201条)。

盗まれた自転車を見つけた持ち主が、力ずくで取り返すことを許すと、世の中は奪い合いになってしまいます。民法は、物を事実として支配している占有者に、本当の権利者かどうかを問わず、奪われたら返せ、妨げられたらやめろと求める手段を与え、自力で取り返すことをやめさせています。これが占有の訴えで、奪われたとき・妨害されたとき・妨害されるおそれがあるときの三つの場面ごとに、要件と提起できる期間が決められています。

大学の研究室の場面。机の上に本が置かれていた跡があり、窓の外へ本を抱えて逃げる男性(札「窃取した者C」)。研究室の入口に旅行かばんを持って帰ってきた男性(札「借りていた教授B」)が驚いている。横に先生が説明役(札「先生」)。先生の吹き出し「

占有の訴えは、自主占有か他主占有か、直接占有か間接占有か、本権があるかを問わず、およそ占有者が起こせます

占有者は占有の訴えを提起することができ、他人のために占有をする者も同様です(197条)。占有の訴えは本権の有無にかかわらず占有を保護して自力救済を禁止するためのものなので、所有の意思の有無も本権の有無も問いません。賃借人は賃貸人から独立して侵奪者に占有回収の訴えを起こせます。賃借人を通じて占有している賃貸人(間接占有者)も、占有改定で引渡しを受けた買主も起こせます。留置権者や、物を詐取した者のように本権のない占有者も、窃取した者に対して占有回収の訴えを起こせます(善意か悪意かを問わない判例として大判大正13年5月22日)。賃貸借の終了後に物を返さない元賃借人も、所有者に無断で取り戻されれば占有回収の訴えを起こせ、「Bは,Aに対し,占有回収の訴えにより,動産甲の返還を請求することができる」という肢(R3 問9 ウ)は正しいです。

海外出張中や助手に預けている間も占有は続いていますが、占有補助者や法人の代表者個人は占有の訴えを起こせません

占有は社会通念上の事実的支配で判断するので、構内の研究室に置いた本を1週間の出張で離れていても、占有は失われていません。そのため、留守中に盗まれた場合も占有を奪われたことになります。助手に複写を指示して本を預けた場合も、助手は占有補助者か占有代理人にとどまり、本人の占有は続いているので、助手のもとから盗まれれば本人が占有回収の訴えを起こせます。反対に、法人の代表者が法人の業務として所持する物の直接占有者は法人であって代表者個人ではなく(最判昭和32年2月15日)、代表者が個人として占有の訴えを起こすには、自己のためにも所持する特別の事情が要ります(最判平成10年3月10日)。「株式会社Aの代表取締役であるBが、株式会社Aの代表者として甲土地を占有している場合には、B自身のためにも所持するものと認めるべき特別の事情がない限り、Bは、甲土地の直接占有者たる地位を有しない」という肢(R8 問8 ア)は正しいです。ただし、代表者が自己のためにも所持していると認めるべき事情があれば、代表者個人も占有回収の訴えを起こせるので、「Bが自己のためにも動産甲を所持していると認めるべき事情があるときであっても,Bは,個人としては,Cに対し,占有回収の訴えにより,動産甲の返還を請求することができない」という肢(R3 問9 オ)は誤りです。

占有回収の訴えは意思に反して所持を奪われたときに限られ、詐取・遺失・賃貸借終了後の不返還では起こせません

占有回収の訴えは、占有者がその占有を奪われたときに、物の返還と損害の賠償を請求するものです(200条1項)。占有を奪われたとは、占有者の意思に反して所持を奪われたことをいいます。だまされて渡した場合は、意思が欺罔によって生じたものであっても自分の意思で渡しているので、占有を奪われたことに当たりません(大判大正11年11月27日)。置き忘れた物を他人が拾った場合も同じで、「Aがその占有する動産甲を公園で紛失し,Bがこれを拾得した場合には,Aは,Bに対し,占有回収の訴えにより,動産甲の返還を請求することができる」という肢(R3 問9 イ)は誤りです。賃貸した物を賃貸借の終了後に返さない賃借人も、任意に引き渡した物を持ち続けているだけなので、賃貸人は占有回収の訴えを起こせません。これらの場合は、所有権に基づく返還請求や契約上の返還請求によります。

三つの場面を並べた板書の図解。左の枠「窃取された」には泥棒が自転車を持ち去る絵と大きな丸印、中央の枠「だまされて渡した(詐取)」には笑顔で自転車を手渡す持ち主の絵と大きなバツ印、右の枠「置き忘れた物を拾われた(遺失)」には電車の網棚の本を拾

侵奪者の特定承継人には、承継人が侵奪の事実を知っていたときに限り請求でき、その認識は侵奪があったことの認識でなければなりません

占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対しては提起できず、承継人が侵奪の事実を知っていたときに限って提起できます(200条2項)。占有を信頼して物を譲り受けた者を守るためです。判例は、侵奪の事実を知っていたといえるには、承継人が少なくとも何らかの形で占有の侵奪があったことを認識していることが必要で、前主の占有取得が何らかの犯罪行為や不法行為によるもので前主が正当な権利者でないことを知っていただけでは足りないとしています(最判昭和56年3月19日)。蔵書印のある本を、売主が横領したものと考えて買った者は、侵奪を認識していたとはいえません。所有者の表示のシールが貼られたままのパソコンでも、盗難の事情を知らない者が譲り受けたのであれば請求できず、「Bが盗品であることを秘して窃取の事実を知らないCに甲絵画を売り渡した場合には、Aは、Cに対し、占有回収の訴えにより甲絵画の返還を求めることができる」という肢(R8 問8 オ)は誤りです。

占有回収の訴えは奪われた時から1年以内、占有保持の訴えは妨害の存する間か消滅後1年以内で、工事による妨害は着手から1年を過ぎるか完成すれば起こせません

占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければなりません(201条3項)。占有保持の訴えは、妨害の停止と損害の賠償を求めるもので(198条)、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起します(201条1項本文)。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合は、工事に着手した時から1年を経過し、又は工事が完成したときは提起できません(201条1項ただし書)。工事を途中で止めさせる意味がなくなり、完成した工作物を壊させるのは社会経済上の損失が大きいからです。占有保全の訴えは、妨害の予防か損害賠償の担保を求めるもので(199条)、妨害の危険の存する間は提起できますが、工事による場合は同じただし書が準用されます(201条2項)。占有の訴えで損害賠償を求めるには、不法行為と同じく相手方の故意又は過失が必要です(大判昭和9年10月19日)。

  • 占有回収の訴え(200条)占有を奪われたとき/物の返還と損害賠償/奪われた時から1年以内(201条3項)/善意の特定承継人には請求できない
  • 占有保持の訴え(198条)占有を妨害されたとき/妨害の停止と損害賠償/妨害の存する間か消滅後1年以内、工事は着手から1年経過か完成で不可(201条1項)
  • 占有保全の訴え(199条)妨害されるおそれがあるとき/妨害の予防か損害賠償の担保/危険の存する間、工事は201条1項ただし書を準用(201条2項)

占有を奪われても、占有回収の訴えで勝訴して現実に占有を回復すれば、占有は継続していたものとみなされ、取得時効も中断しません

占有権は所持を失えば消滅しますが、占有者が占有回収の訴えを提起したときは消滅しません(203条)。判例は、占有回収の訴えを提起して勝訴し、現実にその物の占有を回復したときは、現実に占有しなかった間も占有を失わず、占有が継続していたものとみなされるとしています(最判昭和44年12月2日)。そのため、他人に占有を奪われると取得時効は中断しますが(164条)、占有回収の訴えで占有を回復すれば中断しなかったことになります。留置権者が占有回収の訴えで占有を回復した場合に留置権が消滅しないことは、留置権の効力と消滅の語で扱います。

民法 第197条

(占有の訴え)
占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。

民法 第200条第1項

占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。

民法 第200条第2項

占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

民法 第201条第1項

占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。

民法 第201条第3項

占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。

試験ではこう問われる

  1. 遺失物を拾った者は占有を侵奪していないので、占有回収の訴えの相手方にならない(200条1項。R3 問9 イ ×)
  2. 侵奪の事実を知って盗品を買い受けた者には占有回収の訴えを起こせる(200条2項ただし書。R3 問9 ア ○)
  3. 侵奪の事実を知らない特定承継人には起こせない(200条2項本文。R8 問8 オ ×)
  4. 賃貸借の終了後に返さない元賃借人も、所有者に無断で取り戻されれば所有者に占有回収の訴えを起こせる(R3 問9 ウ ○)
  5. 法人の代表者は、自己のためにも所持すると認めるべき特別の事情がない限り直接占有者でなく、その事情があれば個人として占有回収の訴えを起こせる(R8 問8 ア ○・R3 問9 オ ×)
  6. 占有を適法に取り戻した後でも、占有回収の訴えにより侵奪で生じた損害の賠償を請求できる(R3 問9 エ ×)
  7. 占有回収の訴えは奪われた時から1年以内、占有保持・占有保全の訴えは工事の着手から1年経過か完成で提起できない(201条)

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