物権的請求権の性質と要件(相手方の故意過失不要・時効消滅しない・費用負担)ぶっけんてきせいきゅうけんのせいしつとようけん
物権的請求権とは、物権の円満な支配が妨げられ又は妨げられるおそれがあるときに、物権者がその回復や予防を相手方に求める権利で、返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権の3つがあります。相手方の故意・過失や責任能力を要件とせず、所有権に基づくものは時効で消滅せず、物権から切り離して譲渡することもできません。
大雨のあと、自分の畑に他人の自動車が流されてきたとします。持ち主に落ち度はありませんが、畑の持ち主は車をどけてもらわなければ畑を使えません。物権は物を直接支配する権利なので、その支配が妨げられたら、相手に落ち度があるかどうかにかかわらず元に戻すよう求められなければ意味がありません。そこで判例は、明文はないものの、物権者は妨害している者に返還・妨害の排除・妨害の予防を求められるとしています。損害賠償とは違い、相手の故意や過失は問題になりません。

物権的請求権には返還・妨害排除・妨害予防の3つがあり、明文がなくても物権の性質から認められます
返還請求権は物の占有を奪われた場合に返還を求める権利で、妨害排除請求権は占有以外の方法で物権が妨げられている場合に妨害の除去を求める権利で、妨害予防請求権は妨害のおそれがある場合にその予防を求める権利です。民法に一般の規定はありませんが、仮の権利である占有権にも占有の訴え(197条以下)が認められていること、202条が本権の訴えの存在を前提にしていることから認められています。所有権だけでなく地上権のような占有を内容とする物権にも認められ、地上権者は地上権に基づく妨害排除請求権の行使として土地上の自動車の撤去を求めることができます。これに対し、地役権は土地を占有する権利ではないので、「Aが所有する甲土地にBのために通行地役権が設定されている場合において、Cが甲土地を権原なく占有してBの通行を妨害しているときは、Bは、Cに対し、地役権に基づいて甲土地の明渡しを請求することができる」という肢(R7 問7 オ)は誤りです。抵当権者も、抵当不動産に危害を加えようとする者に対し、それが所有者か第三者かを問わずその行為の禁止を求めることができ(大判昭和7年4月20日)、被担保債権の弁済期が来ているかどうかを問いません(大判昭和6年10月21日)。「第三者が抵当不動産を損傷しようとしているときは、抵当権者は、当該第三者に対し、その行為の差止めを求めることができる」という肢(R6 問13 オ)は正しいです。
相手方の故意・過失も責任能力も行為能力も要件ではなく、妨害の程度が重大であることも要りません
物権的請求権は、物権の円満な支配が客観的に妨げられている状態そのものから生じる権利で、相手の帰責性を問う不法行為の損害賠償(709条)とは仕組みが違います。判例は、隣地の掘り下げで土地が崩落する危険がある事案で、危険が相手方の行為によるものかどうか、相手方に故意・過失があるかどうかを問わず、危険の防止に必要な措置を求めることができるとしました(大判昭和12年11月19日)。他人に盗まれて土地上に放置された自動車の所有者も撤去を拒めず、「AがBの所有する自動車を盗んでCが所有する甲土地上に権原なく放置しているときは、Cは、Bに対し、当該自動車の撤去を請求することはできない」という肢(R7 問7 エ)は誤りです。妨害状態の発生について相手方に故意又は過失があることは要らず、責任弁識能力を欠く者や未成年者も相手方になります。妨害の除去を求めるのに、重大で著しく回復困難な損害を被ることも要りません。

妨害予防請求権は侵害のおそれがあれば足り、過去に侵害があったことは要りません
妨害予防請求権は、まだ現実の妨害がない段階で、物権が侵害されるおそれが客観的にある場合に、その予防に必要な措置を求める権利です。過去に実際の侵害があったことを要件にすると、あらかじめ危険を除く意味がなくなります。自然災害で傾いた鉄塔が隣の建物を損傷させるおそれがある場合、鉄塔の所有者は、過去に一度も建物を損傷させたことがないことを理由に請求を拒むことはできません。隣地からの土砂崩壊の危険について隣地所有者に故意・過失がなくても、危険の防止に必要な相当の設備の設置を求めることができます。
所有権に基づく物権的請求権は所有権から切り離して譲渡できず、所有権と別に時効で消滅することもありません
判例は、所有権に基づく返還請求権は所有権の一作用であって所有権から独立した権利ではないから、所有権自体と同じく消滅時効によって消滅しないとしています(大判大正5年6月23日)。所有権は消滅時効の対象から外されている(166条2項)ので、その作用である妨害排除請求権・妨害予防請求権も時効で消えません。崩落の危険が生じた時から20年が経過しても、山林に20年放置された自動車についても、相手方は所有権に基づく請求権の消滅時効を援用できません。不法占有を知った時から5年を経過しても、物権的返還請求権は時効により消滅しません。物権的請求権だけを物権から切り離して譲渡することもできないので、確定日付のある証書による通知又は承諾を対抗要件として譲渡することもできません。

所有権に基づく返還請求では、所有者は所有と相手方の占有を主張すればよく、占有権原は占有者が立証します
所有権に基づく返還請求権の要件は、請求者がその物を所有していること、相手方がその物を占有していること、相手方に占有権原がないことです。判例は、所有権に基づく土地明渡請求で、占有権原の存在は占有者が主張立証責任を負うとしました(最判昭和35年3月1日)。不法占拠者は177条の第三者に当たらないので、所有権の取得を登記していない所有者も不法占拠者に物権的請求権を行使できます(最判昭和25年12月19日)。「Aがその所有する甲土地をBに売却した後、Cが甲土地を正当な権原なく占有している場合には、Bは、所有権の移転の登記をしなくても、Cに対し、甲土地の所有権の取得を対抗することができる」という肢(R5 問7 イ)は正しいです。物権的請求権と契約上の請求権は競合し、賃貸借が終了すれば賃貸人は契約の終了に基づく返還請求も所有権に基づく返還請求もできます。「Aがその所有する甲土地をBに賃貸して引き渡し,その後,AB間の賃貸借契約が終了したが,Bがその所有する乙動産を甲土地に放置している場合において,AがBに対し賃貸借契約の終了に基づき乙動産の撤去を請求することができるときは,Aは,Bに対し,甲土地の所有権に基づき,乙動産の撤去を請求することができない」という肢(R3 問7 エ)は誤りです。
物権的請求権を行使する費用を誰が負担するかは、物権的請求権の性質の理解によって考え方が分かれています
他人の土地に無断で建てられた建物を収去する費用のように、物権的請求権の実現には費用がかかります。物権的請求権を相手方に行為を求める権利と見る見解(行為請求権説)からは相手方が費用を負担し、相手方に忍容を求めるだけの権利と見る見解(忍容請求権説)からは請求者が負担します。行為請求権説に立つと、たとえば甲の土地に乙の故障車がある場合、先に請求した方が費用を免れるという結論になるので、原則は行為請求権説によりながら、相手方が支配を解いて請求者の持ち去りを忍容すれば足りる返還請求の場面では例外を認める見解や、費用は物権侵害による損害として不法行為(709条)で処理すれば足りるとする見解もあります。
民法166条1項・2項債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
民法 第202条(本権の訴えとの関係)
占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
試験ではこう問われる
- 物権的請求権の相手方の故意・過失は要件ではなく、盗まれて他人の土地に放置された自動車の所有者も撤去を拒めない(R7 問7 エ ×)
- 通行地役権は土地を占有する権利ではないので、地役権者は通行を妨害する占有者に土地の明渡しまでは求められない(R7 問7 オ ×)
- 抵当権者は、抵当不動産を損傷しようとする第三者にその行為の差止めを求めることができる(大判昭和7年4月20日。R6 問13 オ ○)
- 不動産質権者は、目的不動産の占有を奪った第三者に質権に基づいて返還を求めることができる(R8 問12 エ ×)
- 契約の終了に基づく撤去請求ができる場合でも、所有権に基づく撤去請求もでき、両者は競合する(R3 問7 エ ×)
- 登記のない所有者も不法占拠者に物権的請求権を行使できる(最判昭和25年12月19日。R5 問7 イ ○)
- 所有権に基づく物権的請求権は所有権と別に時効で消滅せず、物権から切り離して譲渡することもできない(大判大正5年6月23日)

