占有権の成立と占有の態様(所持・占有補助者・代理占有・自主占有と他主占有・186条の推定)せんゆうけんのせいりつとせんゆうのたいよう
占有権とは、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する権利です(180条)。占有は、自ら所持する直接占有と占有代理人を通じた代理占有、所有の意思の有無による自主占有と他主占有に分かれ、占有者は所有の意思・善意・平穏・公然の占有が推定されます。
留守にしている自分の家も、自分の支配の下にあることに変わりはありません。民法は、物を事実として支配している状態そのものを占有として保護し、その人が本当に権利者かどうかを問わずに、勝手に奪われない地位を与えています。誰が占有しているかは、鍵や表札の有無ではなく、社会の目から見てその人の支配が及んでいるかで決まります。占有の種類によって取得時効や損害賠償の扱いが変わるので、態様の区別も大切になります。

占有権は自己のためにする意思と所持によって成立し、所持は社会通念上その人の事実的支配が及んでいれば認められます
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します(180条)。所持は、物を手に持っていることではなく、社会通念上その物がその人の事実的支配の下にあると認められる客観的な関係をいいます。判例は、家屋の所有者が隣家に住み、常に出入口を監視して容易に他人の侵入を制止できる状況にあれば、錠をかけて鍵を持ったり標札や貼紙で占有中であることを示したりしていなくても、家屋を所持しているといえるとしています(最判昭和27年2月19日)。自己のためにする意思は、他人のためにする意思と併存してもよく、子の財産を管理する親権者にも認められます。占有は本権の有無と関係なく成立するので、盗人にも盗品の占有権があります。
同居の家族や店員のような占有補助者には独立の占有がなく、法人の代表者も原則として法人の機関として所持するにとどまります
他人の指示に従い、その手足として物を支配しているにすぎない者を占有補助者といい、独立の所持がないので占有権は成立しません。判例は、家屋に同居する家族は世帯主の占有を補助しているにすぎず、独立の占有を持たないとしています。賃借人の身の回りの世話をする同居の使用人も占有補助者にとどまるので、「A所有の甲建物をBがAから賃借して居住し,CがBの身の回りの世話をする使用人として甲建物でBと同居している場合において,AB間の賃貸借契約が解除されたときは,Aは,Cに対し,甲建物の明渡しを請求することができない」という肢(R2 問8 イ)は正しいです。占有補助者は占有権を持たないので、占有の訴えを起こすことができず、所有者からの返還請求の相手方にもなりません。法人の代表者が法人の代表機関として物を所持するときも、占有者は法人で、代表者個人は直接占有者ではありません(最判昭和32年2月15日)。「株式会社Aの代表取締役であるBが、株式会社Aの代表者として甲土地を占有している場合には、B自身のためにも所持するものと認めるべき特別の事情がない限り、Bは、甲土地の直接占有者たる地位を有しない」という肢(R8 問8 ア)は正しいです。ただし、代表者が個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情があれば、代表者個人も直接占有者になります。

占有権は代理人によっても取得でき、本人のために所持する占有代理人自身も独立の占有権を持ちます
占有権は、代理人によって取得することができます(181条)。建物を賃貸している場合、建物に住む賃借人は自ら所持する直接占有(自己占有)を持ち、賃貸人は賃借人を通じて間接占有(代理占有)を持ちます。この賃借人のように本人のために物を所持する者を占有代理人といい、本人に物を返還すべき地位にあることが代理占有の前提になります。占有代理人には、本人のためにする意思と自己のためにする意思が併存するので、占有代理人自身も独立の占有権を取得します。占有代理人には独立の占有があるので、占有補助者とは区別されます。賃貸借が終了しても、それだけでは賃貸人の代理占有は消滅せず(204条2項)、「Aが、Bに対して甲絵画を賃貸借契約に基づき引き渡し、甲絵画について代理占有している場合には、賃貸借契約が終了したことのみによっては、Aの占有権は、消滅しない」という肢(R8 問8 ウ)は正しいです。売主が自分で所持したまま、以後買主のために占有する意思を表示すれば、買主は占有改定によって占有権を取得します(183条)。本人が占有代理人に以後第三者のために占有することを命じ、その第三者が承諾したときは、第三者が占有権を取得します(指図による占有移転、184条)。承諾するのは占有代理人ではなく第三者なので、「Aが、Cに対して甲絵画を売却し、Bに対して以後Cのために甲絵画を占有することを命じ、Bがこれを承諾したときは、Cは、占有権を取得する」という肢(R8 問8 エ)は誤りです。
所有の意思の有無は占有を取得した権原の性質から外形的客観的に決まり、解除条件が成就しただけでは自主占有は他主占有に変わりません
所有の意思のある占有を自主占有、所有の意思のない占有を他主占有といいます。所有の意思の有無は占有者の内心ではなく、占有を取得した原因である権原の性質や占有に関する事情から外形的客観的に決まります。賃借人・受寄者・使用借主の占有は他主占有で、買主の占有は売主が他人であっても自主占有になり、盗人の占有も自主占有です。判例は、売買契約に基づいて開始された占有は、残代金を期限までに支払わなければ当然に解除されたものとする解除条件が付いていても所有の意思のある占有であり、現にその解除条件が成就して契約が失効しても、それだけでは所有の意思のある占有でなくなるわけではないとしています(最判昭和60年3月28日)。「その解除条件が成就して売買契約が失効したときは,Bの占有は所有の意思をもってする占有ではなくなる」という肢(R2 問8 ウ)は誤りです。他主占有が自主占有に変わる場面(185条)は、占有の承継と相続の語で扱います。
占有者は所有の意思・善意・平穏・公然と占有の継続が推定されますが、所有者に対して占有権原を主張する占有者は188条の推定に頼れません
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定され(186条1項)、前後の両時点で占有した証拠があれば、その間占有が継続したものと推定されます(186条2項)。善意も推定されるので、「占有者は、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定されますが、占有者が善意であることは推定されません」という肢(R6 問7 ア)は誤りです。そのため20年の取得時効を主張する占有者は、起算点とその20年後の両時点で占有していたことを主張立証すれば足ります。その間の占有の継続や、起算点の占有が自主占有で平穏かつ公然であったことは、占有者が主張立証する必要はありません。所有の意思がないことは、時効取得を争う相手方が主張立証します。また、占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定されます(188条)。しかし判例は、所有者から明渡しを求められた占有者が占有権原を主張するときは、占有者がその権原の立証責任を負い、188条を援用して所有者に対抗することはできないとしています(最判昭和35年3月1日)。

所有の意思をもった占有が要件になるのは無主物先占で、遺失物の拾得では所有の意思は要件になりません
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得します(239条1項)。所有者のない不動産は、占有しても取得できず国庫に帰属します(239条2項)。これに対して遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3か月以内に所有者が判明しないときに、拾得した者が所有権を取得します(240条)。条文は所有の意思を要件にしていないので、拾得者が所有の意思なく拾得していても、法定の手続と期間を経れば所有権を取得します。埋蔵物は公告後6か月以内に所有者が判明しないときに発見者が取得し、他人の物の中から発見されたときは発見者とその他人が等しい割合で取得します(241条)。「Aの所有する甲土地の中からBが埋蔵物を発見した場合において、その所有者が判明しないときは、Bが当該埋蔵物の単独所有権を取得する」という肢(R4 問9 ア)は誤りです。
民法 第180条(占有権の取得)
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
民法 第181条(代理占有)
占有権は、代理人によって取得することができる。
民法 第186条第1項占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
民法 第186条第2項前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
民法 第188条(占有物について行使する権利の適法の推定)
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
試験ではこう問われる
- 同居して世話をする使用人のような占有補助者には独立の占有がなく、賃貸借の解除後も所有者はその者に明渡しを請求できない(R2 問8 イ ○)
- 法人の代表者は、自己のためにも所持すると認めるべき特別の事情がない限り直接占有者でない(最判昭和32年2月15日。R8 問8 ア ○)
- 賃貸借が終了しただけでは、賃貸人の代理占有による占有権は消滅しない(204条2項。R8 問8 ウ ○)
- 指図による占有移転では、本人の指図を承諾するのは占有を取得する第三者で、占有代理人が承諾しても第三者は占有権を取得しない(184条。R8 問8 エ ×)
- 解除条件付売買に基づく占有は自主占有で、条件が成就しただけでは自主占有でなくならない(最判昭和60年3月28日。R2 問8 ウ ×)
- 占有者は所有の意思・善意・平穏・公然を推定される(186条1項。R6 問7 ア ×)が、所有者に対して占有権原を主張する占有者は188条を援用できない(最判昭和35年3月1日)
- 他人の土地から発見した埋蔵物は、所有者が判明しなければ発見者と土地の所有者が等しい割合で取得する(241条。R4 問9 ア ×)

