占有者と回復者の関係(果実の取得・滅失損傷の責任・費用償還 189条〜196条)せんゆうしゃとかいふくしゃのかんけい
占有者と回復者の関係とは、本権のない占有者が物を回復者に返すときに、果実の帰属、占有物を滅失・損傷した責任、支出した必要費・有益費の償還を精算する規律です(189条〜191条・196条)。
自分の土地だと信じて畑を耕し、収穫した野菜を食べてしまった人が、後から本当の所有者に土地を返すことになったとします。食べた野菜の分まで返せと言われるのは酷ですし、畑の手入れに使った費用を一切払ってもらえないのも不公平です。民法は、物を返す占有者と返してもらう回復者の間で、果実・壊した物の賠償・かけた費用をどう精算するかを、占有者が善意か悪意か、所有の意思があるかで分けて決めています。

善意の占有者は果実を取得でき、本権の訴えで敗訴すると訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされます
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得します(189条1項)。ここでいう善意は、果実を収取する権利を含む本権があると誤信していることで、無過失までは要りません。善意の占有者は果実を消費してしまうのが普通なので、返還させるのは酷だからです。善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、敗訴が確定した時ではなく、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされます(189条2項)。占有を始めた時にさかのぼるわけでもないので、「善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、いつから悪意の占有者とみなされますか。占有を始めた時にさかのぼって悪意の占有者とみなされます」という肢(R6 問7 エ)は誤りです。なお、売買の当事者の間の果実は、189条ではなく売買の規定(575条)で処理されます。
悪意の占有者と、暴行・強迫・隠匿によって占有する者は、果実を返還し、消費した果実の代価も償還します
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負います(190条1項)。この規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者にも準用されます(190条2項)。収取を怠った果実も代価の償還の対象なので、「悪意の占有者は、果実の収取を怠った場合には、その果実の代価を償還する義務を負いますか。収取を怠った果実の代価を償還する義務を負いません」という肢(R6 問7 イ)は誤りです。
占有者の責めに帰すべき事由で占有物を滅失・損傷したとき、善意の自主占有者は現存利益だけを賠償し、悪意の占有者と所有の意思のない占有者は全部を賠償します
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、悪意の占有者はその損害の全部を、善意の占有者は現に利益を受けている限度で、回復者に賠償します(191条本文)。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であっても全部の賠償をしなければなりません(191条ただし書)。他人の物を借りている者は、借りた物を返すべき立場にあることを自覚して占有しているので、壊したら全部を償わせるのが公平だからです。所有者でない者から無断で物を借りた賃借人は、貸主が所有者だと過失なく信じていても所有の意思のない占有者なので、損害の全部を賠償します。「Aが,Bの所有する甲建物を自己の所有と偽って,事情を知らないCに賃貸している場合において,占有者Cがその責めに帰すべき事由によって甲建物を損傷させたときは,Cは,Bに対し,その損害の全部の賠償をしなければならない」という肢(R2 問8 オ)は正しいです。

必要費は善意悪意を問わず償還を請求できますが、果実を取得した占有者は通常の必要費を自分で負担します
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができます(196条1項本文)。必要費は本来、所有者が負担すべき費用なので、悪意の占有者も請求できます。「A所有の甲建物をBが悪意で占有している間に、甲建物が台風で一部損壊したため、損壊部分の修繕費をBが支出した場合において、BがAに甲建物を返還するときは、Bは、Aに甲建物の修繕費用の償還をさせることができない」という肢(R8 問8 イ)は誤りです。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は占有者の負担になります(196条1項ただし書)。果実を収める者が、果実を生む物の日常の維持費を賄うのが公平だからです。通常の修繕費や公租公課が通常の必要費に当たり、台風で壊れた箇所の修理のような臨時の必要費は、果実を取得していても償還を請求できます。
有益費は価格の増加が現存する限り回復者の選択で支出額か増価額を償還させられ、裁判所が期限を許与できるのは悪意の占有者に対してだけです
占有者が占有物の改良のために支出した有益費は、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、支出した金額又は増価額を償還させることができます(196条2項本文)。選ぶのは占有者ではなく回復者です。悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます(196条2項ただし書)。善意の占有者に対しては期限を許与できません。期限が許与されると償還請求権は弁済期にないことになり、悪意の占有者はこれを被担保債権として留置権を主張できなくなります(295条1項ただし書)。賃借人・留置権者・質権者など、他の制度の費用償還は費用償還の一覧の語で並べています。
- 果実(189条・190条)善意=取得できる/悪意・暴行強迫隠匿=返還し、消費等した分の代価も償還
- 滅失・損傷(191条)善意の自主占有者=現存利益/悪意の占有者・所有の意思のない占有者=全部
- 必要費(196条1項)善意悪意を問わず償還請求できる。果実を取得したら通常の必要費は占有者負担
- 有益費(196条2項)価格の増加が現存する限り、回復者の選択で支出額か増価額。悪意の占有者にだけ期限の許与
民法 第189条第1項善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
民法 第189条第2項善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
民法 第191条(占有者による損害賠償)
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。
民法 第196条第1項占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
民法 第196条第2項占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
試験ではこう問われる
- 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する(189条1項)
- 善意の占有者が本権の訴えで敗訴したときは、占有開始時にさかのぼるのではなく、訴えの提起の時から悪意とみなされる(189条2項。R6 問7 エ ×)
- 悪意の占有者は、果実を返還し、消費・損傷し又は収取を怠った果実の代価も償還する(190条1項。R6 問7 イ ×)
- 所有の意思のない占有者は、善意でも滅失・損傷の損害の全部を賠償する(191条ただし書。R6 問7 ウ ○・R2 問8 オ ○)
- 必要費は悪意の占有者も償還させることができ、台風による損壊の修繕費も同じ(196条1項本文。R8 問8 イ ×)
- 果実を取得した占有者は、通常の必要費の償還を請求できない(196条1項ただし書)
- 有益費は回復者の選択で支出額か増価額を償還させ、期限の許与は悪意の占有者に対してだけできる(196条2項)

