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留置権の効力と消滅(引換給付判決・果実・保存に必要な使用・無断賃貸・代担保・占有喪失・期限の許与)りゅうちけんのこうりょくとしょうめつ

民法 第8章 担保物権 過去問で10肢

留置権の効力とは、留置権者が債権の全部の弁済を受けるまで目的物の全部を留め置き、果実を収取して弁済に充てることができることです(296条・297条)。留置権は、債務者の承諾のない使用・賃貸に対する消滅請求、代わりの担保の提供、占有の喪失などによって消滅します(298条3項・301条・302条)。

修理代を払ってもらうまで時計を預かっている修理店は、その時計を勝手に使ったり人に貸したりしてよいわけではありません。留置権は弁済を促すために物を留め置く権利なので、物を大切に保管する義務を負い、使ってよいのは物を保つのに必要な範囲だけです。物を手放せば権利も消えます。他方で、所有者の側は、代わりの担保を出せば物を取り戻せます。留め置く力をどこまで認めるかの線引きが、この語の中身です。

法廷の場面。原告席の男性(札「所有者」)と被告席の男性(札「留置権者」)。被告席の机に「有益費償還請求権」の書類。先生が裁判官役(札「裁判所」)で判決書を読み上げている。判決書の文字「被告は、原告から金○○円の支払を受けるのと引換えに、建物

留置権の抗弁が認められると、請求棄却ではなく、被担保債権の弁済と引換えに物を引き渡せという判決になります

物の引渡しを求める訴訟で被告の留置権の抗弁が認められると、裁判所は請求を棄却せず、原告が被担保債権を弁済するのと引換えに物を引き渡すよう命じる判決をします(最判昭和47年11月16日)。留置権は債権の弁済を受けるまで物を留め置く権利にとどまり、引渡義務そのものを否定するものではないからです。売主Aの代金債権による留置権が転売の買主Cに対して認められる場合も同じです。質権は優先弁済を本体とする権利なので、質権の主張が認められれば債務者の返還請求は棄却されます。「質権設定者が被担保債権の弁済前に質権者に対して訴訟を提起して目的物の返還を請求し、質権者が質権の抗弁を主張した場合には、裁判所は、当該請求を棄却するとの判決をするのではなく、被担保債権の弁済と引換えに目的物を引き渡せとの引換給付判決をしなければならない」という肢(R5 問14 オ)は誤りです。留置権は物権なので、目的物が第三者に譲渡されても全部の弁済を受けるまで第三者に主張できます。同時履行の抗弁権との比較は、同時履行の抗弁権の効果と留置権との比較の語で扱います。

留置権者は善管注意で物を占有し、保存に必要な使用はできますが、使用の利益は返還し、債務者の承諾なく使用・賃貸すれば消滅を請求されます

留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有し(298条1項)、債務者の承諾を得なければ留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができません(同条2項本文)。ただし、物の保存に必要な使用はできます(同項ただし書)。判例は、建物の賃借人が費用償還請求権で留置権を行使し、従前と同じように居住を続けることは保存に必要な使用に当たるとしつつ(大判昭和10年5月13日)、居住による利益は不当利得として所有者に返還すべきだとしています(大判昭和13年12月17日)。「建物の賃借人は、賃貸借契約の終了後においては、当該建物について留置権を行使する場合であっても、従前のとおり当該建物に居住することはできない」という肢(R4 問13 イ)は誤りです。債務者の承諾を得れば留置物を賃貸でき、賃料は果実として収取し、他の債権者に先立って弁済に充当できます(297条1項)。果実はまず利息に充当し、残りがあれば元本に充当します(同条2項)。「留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる」という肢(R5 問11 ア)は正しいです。留置権者が298条1項・2項に違反したときは、債務者は留置権の消滅を請求できます(同条3項)。無断で賃貸しただけで留置権が消滅するのではなく、債務者の消滅請求によって消滅するので、無断で第三者に賃貸したときに「はい。留置権は、当然に消滅します」とする解答(R5 問12 ウ)は誤りです。留置物を債務者から譲り受けた第三取得者も消滅を請求でき、「留置物の所有者である債務者から当該留置物を譲り受けた第三取得者は、その譲受けの後に、留置権者が善良な管理者の注意をもって当該留置物を占有すべき義務に違反したとしても、留置権の消滅請求をすることができない」という肢(R8 問11 エ)は誤りです。判例は、無断賃貸が終了して留置権者が物の返還を受けていても消滅請求はできるとしています(最判昭和38年5月31日)。

アパートの一室の玄関の場面。玄関先に男性(札「留置権者」)が見知らぬ男性(札「無断の賃借人」)に鍵を渡している。廊下の端で所有者の男性(札「債務者(所有者)」)が書面「留置権消滅請求書」を手にしている。先生が管理会社の担当者役(札「管理会社

留置権者が支出した必要費は所有者に償還させることができ、留置中にさらに支出した必要費も被担保債権に加わります

留置権者が留置物について必要費を支出したときは所有者に償還させることができ、有益費は価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い支出した金額又は増価額を償還させることができます(299条)。留置中に有益費を支出した事例で、「はい。Aは、Bの選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができます」という解答(R5 問12 イ)は正しいです。必要費償還請求権で建物を留置している間に、さらに必要費を支出した場合、その償還請求権も含めて留置権を行使できます(最判昭和33年1月17日)。有益費については、裁判所が所有者の請求により償還に相当の期限を許与できます(299条2項ただし書)。期限が許与されると被担保債権が弁済期にないことになり、留置権は消滅します。

留置権は全部の弁済まで目的物の全部に及びますが、債務者は相当の担保を供して消滅を請求できます

留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部について権利を行使できます(296条)。判例は、留置物の一部の占有を失った場合でも、債権の全部の弁済を受けるまで残部について留置権を行使できるとしています(最判平成3年7月16日)。「留置権者は、留置物の一部を債務者に引き渡した場合には、被担保債権の全部の弁済を受けていないときであっても、留置物の残部の引渡しを拒むことができない」という肢(R8 問11 ア)は誤りです。他方、債務者は相当の担保を供して留置権の消滅を請求できます(301条)。物の価値が債権額より大きいとき、物を留め置かれ続けるのは債務者に酷だからです。

留置権は占有を失うと消滅しますが、占有回収の訴えで占有を取り戻せば消滅しません

302条本文は、留置権は留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅すると定めています。占有は留置権の存続要件なので、紛失しても、第三者に奪われても消滅します。留置権そのものに基づく返還請求はできません。ただし、債務者の承諾を得て賃貸し、又は質権の目的としたときは、間接占有が続くので消滅しません(302条ただし書)。また、留置権者も占有者なので、占有を奪われれば占有回収の訴えを提起でき(200条1項)、勝訴して現実に占有を回復すれば、占有は継続していたものとされ、留置権は消滅しません(203条ただし書、最判昭和44年12月2日)。

留置権者は競売を申し立てられますが優先弁済は受けられず、留置している間も被担保債権の消滅時効は進行します

民事執行法195条により、留置権者も目的物の競売を申し立てられます。「留置権者は、留置権による競売を申し立てることができない」という肢(R7 問11 ア)は誤りです。もっとも、これは換価のための競売で、換価金から優先弁済を受けることはできません。留置権者は換価金を留置することになり、「留置権者は、留置権による競売が行われたときは、その換価金を留置することができる」という肢(R8 問11 オ)は正しいです。優先弁済的効力が無いので物上代位もできず、甲建物が火災で滅失して所有者が取得した保険金請求権に「いいえ。Aは、Bが取得した保険金請求権に物上代位することはできません」とする解答(R5 問12 エ)は正しいです。留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げません(300条)。裁判手続外で留置権を行使している間について「はい。Aが甲建物を留置している間は、必要費償還請求権の消滅時効は進行しません」とする解答(R5 問12 ア)は誤りです。訴訟で留置権の抗弁を出しても、被担保債権について裁判上の請求に準じた効力は生じず、訴訟が係属している間、催告としての効力が続くにとどまります(最大判昭和38年10月30日)。現行法の言葉では、留置権の抗弁を主張しても、被担保債権について裁判上の請求による時効の完成猶予・更新は生じないことになります。

  • 消滅請求(298条3項)善管注意義務違反、債務者の承諾のない使用・賃貸・担保提供。賃貸が終了していても請求できます
  • 代わりの担保(301条)債務者が相当の担保を供して請求できます
  • 占有の喪失(302条)消滅します。承諾を得た賃貸・質入れは除きます。占有回収の訴えで回復すれば消滅しません
  • 期限の許与(299条2項ただし書)有益費の償還に期限が許与されると消滅します
  • 被担保債権の消滅付従性により消滅します。留置中も消滅時効は進行します(300条)
民法 第298条第2項

留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。

民法 第298条第3項

留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

民法 第301条

(担保の供与による留置権の消滅)
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

民法 第302条

(占有の喪失による留置権の消滅)
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。

試験ではこう問われる

  1. 賃貸借の終了後も、保存に必要な使用として従前どおり居住できる(298条2項ただし書。R4 問13 イ ×)
  2. 留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って弁済に充当できる(297条1項。R5 問11 ア ○)
  3. 無断で賃貸しただけでは消滅せず債務者の消滅請求によって消滅し、留置物の第三取得者も消滅を請求できる(298条3項。R5 問12 ウ ×、R8 問11 エ ×、R4 問13 エ ×)
  4. 一部を債務者に引き渡しても、残部について債権全部の弁済まで引渡しを拒める(296条。R8 問11 ア ×)
  5. 留置している間も被担保債権の消滅時効は進行する(300条。R5 問12 ア ×)
  6. 留置権者は競売を申し立てられ、換価金を留置できるが、優先弁済は受けられない(R7 問11 ア ×、R8 問11 オ ○、R4 問13 オ ○)
  7. 留置権には物上代位が無く、目的物の滅失による保険金請求権には及ばない(R5 問12 エ ○)

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