遺言の方式(960条〜984条)いごんのほうしき
遺言の方式とは、遺言が民法の定める方式に従わなければ効力を生じないとされる作成の決まりのことで、普通の方式として全文・日付・氏名を自書して押印する自筆証書遺言、証人2人以上の立会いの下で公証人に口授する公正証書遺言、封印した証書を公証人と証人の前に提出する秘密証書遺言があり、死亡の危急に迫った者などには特別の方式があります(960条・967条〜984条)。
遺言は、書いた本人が亡くなってから効力を生じるので、本当に本人の意思なのかを後から確かめることができません。そこで民法は、遺言を決まった方式で作らなければ効力がないとしました。自分で全文を手書きする自筆証書遺言、公証役場で公証人に作ってもらう公正証書遺言、中身を秘密にしたまま公証人に封書を出す秘密証書遺言が基本の三つです。方式を守ることで、偽造や他人の押しつけを防いでいます。

15歳に達すれば遺言ができ、行為能力の規定は適用されませんが、成年被後見人には医師2人以上の立会いが要ります
15歳に達した者は遺言をすることができ(961条)、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の行為能力を制限する規定は遺言には適用されません(962条)。遺言の効力は死亡後に生じ、保護すべき本人がいなくなるので、本人の意思をできるだけ尊重するためです。被保佐人は保佐人の同意を得ずに遺言をすることができ、成年被後見人がした遺言を成年後見人が取り消すこともできません。遺言者は遺言をする時にその能力を有していなければならず(963条)、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければなりません(973条1項)。「成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師二人の立会いがあれば、自筆証書によって遺言をすることができる。」という肢(R6 問22 エ)は正しいです。公証人が遺言能力を認めて作成した公正証書遺言でも、遺言能力がなかったことを理由に無効を主張できます。身分行為と行為能力の総論は前半の語で扱います。
自筆証書遺言は全文・日付・氏名を自書して押印しますが、押印は指印でよく、財産目録は自書しなくてよく、封印は要りません
自筆証書によって遺言をするには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません(968条1項)。判例は、押印は印章に代えて指印でもよいとしています(最判平成元年2月16日)。「自筆証書によって遺言をする場合にしなければならない押印は、指印によることはできない。」という肢(R6 問22 イ)は誤りです。証書を封じ封印することは要件ではありません。日付が真実の作成日付と違っても、それが誤記であること及び真実の作成日付が証書の記載から容易に判明するときは、遺言は無効になりません。「自筆証書遺言に記載された日付が真実の作成日付と相違する場合には、それが誤記であること及び真実の作成日付が証書の記載から容易に判明するときであっても、当該遺言は、無効である。」という肢(R6 問22 オ)は誤りです。自筆証書と一体のものとして相続財産の目録を添付するときは、その目録は自書しなくてよく、目録の毎葉に署名押印すれば足ります(968条2項、平成30年改正)。「遺言者が自筆証書遺言に添付した片面にのみ記載のある財産目録の毎葉に署名し、押印していれば、当該目録について自書することを要しない。」という肢(R6 問22 ウ)は正しいです。加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、変更した旨を付記して特に署名し、かつ変更の場所に印を押さなければ効力を生じません(968条3項)。
公正証書遺言は証人2人以上の立会いで公証人に口授し、秘密証書遺言は本文の自書は要りませんが署名押印と封印が要ります
公正証書によって遺言をするには、証人2人以上の立会いがあり、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授しなければならず、公正証書は公証人法の定めるところにより作成します(969条)。遺言者が署名できない場合は公証人がその事由を付記して署名に代えることができ、現在はこの扱いを公証人法が定めています。証人となることができない者が同席していても、民法所定の証人が立ち会っていれば公正証書遺言は無効にならないので、「証人となることができない者が同席して作成された公正証書遺言は、民法所定の証人が立ち会っている場合であっても、無効である。」という肢(R6 問22 ア)は誤りです。秘密証書によって遺言をするには、遺言者が証書に署名押印し、証書を封じて同じ印章で封印し、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して自己の遺言書である旨並びに筆者の氏名及び住所を申述し、公証人が日付と申述を封紙に記載して遺言者・証人とともに署名押印します(970条1項)。本文の自書は要りませんが、署名が要件なので、署名できない者は秘密証書遺言をすることができません。公正証書遺言と秘密証書遺言は、どちらも公証人が作成に関与します。秘密証書遺言は方式に欠けるところがあっても自筆証書の方式を備えていれば自筆証書遺言として効力を有するので(971条)、「秘密証書による遺言について、その方式に欠けるものがある場合には、当該遺言は、自筆証書による遺言の方式を具備しているときであっても、自筆証書による遺言として有効とはならない。」という肢(R5 問23 エ)は誤りです。
- 自筆証書遺言(968条)全文・日付・氏名を自書して押印(指印可)。財産目録は自書不要(毎葉に署名押印)。封印不要。検認が要る
- 公正証書遺言(969条)証人2人以上の立会い、公証人への口授。公証人法により作成。検認不要
- 秘密証書遺言(970条)本文の自書不要。署名押印・封印・公証人1人と証人2人以上の前への提出。方式を欠いても自筆証書の方式を備えれば自筆証書遺言として有効(971条)
- 死亡危急時遺言(976条・983条)証人3人以上の立会い、20日以内に家庭裁判所の確認。普通の方式でできるようになってから6か月生存すれば効力を生じない
二人以上の者が同一の証書で遺言することはできず、未成年者や推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族は証人になれません
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができません(975条)。共同遺言を許すと各自が自由に撤回できなくなるからです。同一の証書に二人の遺言が記載されていれば、一方に氏名の自書を欠く方式の違背があっても共同遺言に当たります(最判昭和56年9月11日)。「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることもできる。」という肢(R5 問23 イ)は誤りです。未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人は、遺言の証人又は立会人となることができません(974条)。15歳に達した未成年者も証人になれず、推定相続人の兄弟姉妹は証人になれます。証人には遺言執行者になれない制限はないので(1009条は未成年者と破産者だけを除きます)、遺言の証人になった者もその遺言の遺言執行者になることができます。死亡の危急に迫った者の遺言は、遺言の日から20日以内に証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ効力を生じず(976条4項)、「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が特別の方式によってした遺言は、法定の期間内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。」という肢(R5 問23 オ)は正しいです。この遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは効力を生じません(983条)。

遺言書の保管者は公正証書遺言を除いて検認を請求しますが、検認は遺言の有効無効を判断する手続ではありません
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならず、公正証書遺言にはこの規定は適用されません(1004条1項・2項)。法務局の遺言書保管所に保管された自筆証書遺言も、遺言書保管法により検認が不要です。保管者に他の相続人への通知義務は定められていません。判例は、検認は遺言書の形式その他の状態を調査確認して偽造・変造を防ぎ保存を確実にするための検証手続で、遺言の効力を判定するものではないとしています(大判大正7年4月18日)。検認を経ても方式を欠く遺言が有効になるわけではないので、「自筆証書による遺言書に日付の自署がない場合において,当該遺言書について家庭裁判所の検認を経たときは,当該遺言書を添付して遺贈を原因とする所有権の移転の登記の申請をすることができる。」という肢(R3 午後 問19 ウ)は誤りです。封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人等の立会いの下で開封しなければなりませんが(1004条3項)、これに違反して開封しても過料の制裁があるだけで(1005条)、遺言は無効になりません。
民法 第968条第1項自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
民法 第968条第2項前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
民法 第975条(共同遺言の禁止)
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
試験ではこう問われる
- 成年被後見人は事理を弁識する能力を一時回復した時に医師2人以上の立会いがあれば遺言できる(973条1項。R6 問22 エ ○)
- 自筆証書の押印は指印でよく(最判平成元年2月16日。R6 問22 イ ×)、財産目録は毎葉に署名押印すれば自書を要しない(968条2項。R6 問22 ウ ○)
- 日付の誤記は、誤記であることと真実の作成日付が証書の記載から容易に判明すれば遺言を無効にしない(R6 問22 オ ×)
- 証人になれない者が同席しても、所定の証人が立ち会っていれば公正証書遺言は無効にならない(974条。R6 問22 ア ×)
- 方式を欠く秘密証書遺言も自筆証書の方式を備えれば自筆証書遺言として有効(971条。R5 問23 エ ×)
- 二人以上の者が同一の証書で遺言することはできない(975条。R5 問23 イ ×)
- 危急時遺言は家庭裁判所の確認を得なければ効力を生じず(976条4項。R5 問23 オ ○)、検認は遺言の効力を判定しない(1004条。R3 午後 問19 ウ ×)

