身分行為と行為能力(婚姻・認知・遺言・縁組と制限行為能力者)みぶんこういとこういのうりょく
身分行為と行為能力とは、婚姻・離婚・認知・縁組・遺言のような身分上の行為には、財産上の行為を対象とする行為能力の制限の規定(5条・9条・13条・17条)がそのままは適用されず、意思能力があれば本人が単独ですることができるという規律のことです。
誰と結婚するか、自分の子だと認めるか、死後に財産を誰に残すかは、本人にしか決められない事柄です。財産の取引なら保護者の同意を求めて本人を守れますが、身分の事柄を保護者の同意で左右するのは本人の意思の尊重に反します。そこで民法は、婚姻・離婚・認知・縁組・遺言について、行為能力の制限の規定をそのまま当てはめず、意思能力があれば本人が単独でできるようにしています。その代わり、遺言の年齢や縁組の代諾のような個別の規定を置いています。

成年被後見人は、成年後見人の同意を得ずに婚姻・協議離婚・認知をすることができ、その行為は行為能力の制限を理由に取り消せません
738条は、成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しないと定め、764条はこれを協議上の離婚に、799条は縁組に準用しています。780条は、認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しないと定めています。成年被後見人は能力を一時回復している間に自ら婚姻や協議上の離婚をすることができ、成年後見人の同意は要りません。「成年被後見人が,成年後見人の同意を得ないで婚姻をした場合には,成年後見人は,その同意がないことを理由として,当該婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる」という肢(R3 問20 ウ)は誤りです。もっとも、同意が要らないことは意思能力まで要らないということではなく、その行為の意味を理解する能力を欠いてした届出は無効になりえます。未成年者が認知をする場合も法定代理人の同意は要らず、「未成年者が認知をするには、その法定代理人の同意を要しない」という肢(R6 問4 エ)は正しく、「未成年被後見人が子を認知するには、未成年後見人の同意を得なければならない」という肢(R4 問20 イ)は誤りです。同意なしの認知を親権者や法定代理人が取り消すこともできません。
遺言は15歳に達すればでき、行為能力の制限の規定は適用されず、成年被後見人の遺言には医師2人以上の立会いが要ります
961条は十五歳に達した者は遺言をすることができると定め、962条は5条・9条・13条・17条を遺言には適用しないとしています。15歳に達した未成年者は単独で遺言をすることができ、被保佐人も保佐人の同意を得ずに遺言をすることができます。962条が行為能力の制限の規定を外しているのは遺言だけで、贈与者と受贈者の契約である死因贈与には及びません。「15 歳に達した者が死因贈与をするには、その法定代理人の同意を得ることを要しない」という肢(R6 問18 エ)は誤りです。成年被後見人も、事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師二人以上の立会いがあれば遺言をすることができ(973条1項)、その遺言を成年後見人が取り消すことはできません。他方で、未成年者は遺言の証人又は立会人になることはできない(974条1号)ので、15歳に達した未成年者も遺言の証人にはなれません。遺言の方式は遺言の方式の語で扱います。

養親になるには20歳に達していることが必要で、15歳未満の者の縁組は法定代理人が代わって承諾します
792条は、二十歳に達した者は養子をすることができると定めています。成年年齢は18歳ですが、養親の年齢は20歳のままなので、未成年者はもちろん18歳・19歳の者も養親になれません。養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができます(797条1項)。法定代理人がこの承諾をするには、養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときは、その同意も得なければなりません(797条2項)。「養子となる者が15歳未満である場合において、当該養子となる者の父が親権を停止されているときは、当該養子となる者の法定代理人が当該養子となる者に代わって縁組の承諾をするには、当該父の同意を得なければならない」という肢(R8 問20 ウ)は正しいです。15歳以上の者は自ら縁組の承諾をしなければならず、法定代理人が代わって承諾することはできません。15歳未満の未成年者を養子とするには、代諾に加えて原則として家庭裁判所の許可も要ります(798条本文)。判例は、法定代理人でない者の代諾による縁組でも、養子が満15歳に達した後は自ら追認でき、追認により縁組は有効になるとしています(最判昭和27年10月3日)。縁組の要件と効果は普通養子縁組の語で扱います。
- 婚姻・協議離婚・縁組成年被後見人も成年後見人の同意不要(738条・764条・799条)。婚姻適齢は18歳(731条)
- 認知未成年者・成年被後見人も法定代理人の同意不要(780条)。同意なしを理由に取り消せません
- 遺言15歳以上でできる(961条)。5条・9条・13条・17条は適用しない(962条)。成年被後見人は医師2人以上の立会い(973条)。未成年者は証人になれない(974条1号)
- 養子縁組養親は20歳以上(792条)。15歳未満は法定代理人が代諾(797条1項)。15歳に達すれば無権代諾を追認できる(最判昭和27年10月3日)
成年年齢と婚姻適齢が18歳になり、未成年者の婚姻を前提とする問題は前提が成り立たなくなりました
令和4年4月から成年は18歳、婚姻適齢は男女とも18歳になり、未成年者の婚姻に父母の同意を求めた旧737条と婚姻による成年擬制の旧753条は削除されました。現在は未成年者が婚姻することはなく、未成年者の婚姻への父母の同意や成年擬制を前提とする問題は、前提が成り立ちません。18歳に満たない者の婚姻は731条に違反しますが、届出が受理されれば無効になるのではなく、各当事者、その親族又は検察官が家庭裁判所に取消しを請求できる婚姻になります(744条1項)。「それぞれ 17 歳である男女の届け出た婚姻届が受理された場合には,当該婚姻は,取消しの請求がなくとも,当然に無効である」という肢(R3 問20 ア)は誤りです。18歳の夫婦は成年者なので、自分たちだけでした協議上の離婚を行為能力の制限を理由に取り消すことはできません。未成年者が同意を得ずに子を認知しても取り消すことができないのは、780条によるものです。
民法 第738条(成年被後見人の婚姻)
成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。
民法 第780条(認知能力)
認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。
民法 第962条第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
民法 第973条第1項成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
試験ではこう問われる
- 成年被後見人が成年後見人の同意を得ないでした婚姻を、成年後見人は同意がないことを理由に取り消せない(738条。R3 問20 ウ ×)
- 未成年者の認知に法定代理人の同意は要らない(780条。R6 問4 エ ○)
- 未成年被後見人が子を認知するのに未成年後見人の同意は要らない(780条。R4 問20 イ ×)
- 15歳に達すれば単独で遺言ができるが、15歳に達した者が死因贈与をするには法定代理人の同意が要る(961条・962条。R6 問18 エ ×)
- 成年被後見人の遺言は能力を一時回復した時に医師2人以上の立会いでき、成年後見人は取り消せない(973条1項)
- 15歳未満の者の縁組を法定代理人が代諾するには、親権を停止された父母の同意も要る(797条2項。R8 問20 ウ ○)
- 18歳未満の者の婚姻届が受理されても無効にはならず、取消しの対象になる(731条・744条1項。R3 問20 ア ×)

