不在者の財産管理(25条〜29条)ふざいしゃのざいさんかんり
不在者の財産管理とは、従来の住所又は居所を去った者(不在者)の財産が放置されないよう、管理人を置かなかったときなどに、家庭裁判所が利害関係人又は検察官の請求により管理人の選任などの必要な処分を命じる制度のことです(25条〜29条)。
家族を残して家を出たまま戻らない人がいると、その人の家や預金を誰も管理できず、借金の返済も止まり、家も傷んでいきます。民法は、従来の住所又は居所を去った者を不在者と呼び、管理人を置いていかなかったときは、家庭裁判所が利害関係人や検察官の請求で管理人を選ぶなどの処分ができるようにしています。管理人の仕事は財産を守ることが中心なので、売ったりあげたりする行為には家庭裁判所の許可が要ります。

不在者とは従来の住所又は居所を去った者で、所在がわからないことは要件ではありません
25条1項は、従来の住所又は居所を去った者を不在者と定義しています。所在がわからないことは定義に入っていないので、海外に赴任していて居場所がはっきりしている人でも、生活の本拠を離れて自分で財産を管理できなければ不在者に当たります。所在を知ることができないことを不在者の要件とするのは誤りです。生死がわからないことが意味を持つのは、置いた管理人の改任(26条)や権限を超える行為の許可(28条後段)、さらに失踪宣告(30条)の場面です。
不在者が管理人を置かなかったときは、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が管理人の選任など必要な処分を命じます
不在者がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができます(25条1項)。財産の放置は本人の利益にも社会の利益にも反するので、検察官にも請求を認めています。不在者から動産を買って引渡しを求めている買主も、利害関係人として請求できます。命令の後に本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は請求により命令を取り消さなければなりません(25条2項)。命令は請求によって取り消されるので、不在者が財産を管理できるようになっても、選任された管理人の権限は当然には消滅しません。
不在者が置いた管理人については、不在者の生死が明らかでないときに限り、改任や権限を超える行為の許可が問題になります
不在者が自分で管理人を置いた場合は、その委任で権限が決まるので、家庭裁判所は原則として関与しません。ただし、不在者の生死が明らかでないときは、利害関係人又は検察官の請求により管理人を改任することができ(26条)、管理人が不在者の定めた権限を超える行為を必要とするときは家庭裁判所の許可を得てすることができます(28条後段)。不在者の生存が明らかな場合には、置かれた管理人が家庭裁判所の許可を得て権限を超える行為をすることはできません。生存が明らかなら本人に判断を仰げばよいからです。家庭裁判所は、置かれた管理人にも、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができます(27条3項)。

家庭裁判所が選任した管理人は保存・利用・改良の行為ならそのままでき、それを超える処分には家庭裁判所の許可が要ります
家庭裁判所が選任した管理人は、権限の定めのない代理人として、保存行為と、性質を変えない範囲内の利用・改良行為をする権限を持ちます(103条)。これを超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得てすることができます(28条前段)。土地の売却、協議による遺産分割、子への結婚資金の贈与は財産を処分する行為なので許可が要ります。発見された現金を不在者名義の口座に預け入れることや、弁済期にある債務を弁済することは財産の現状を守る行為なので、許可は要りません。判例は、不在者を被告とする土地明渡請求を認めた第一審判決に控訴することは、判決の確定を防いで財産の現状を維持する保存行為に当たるから、28条の許可は要らないとしています(最判昭和47年9月1日)。「家庭裁判所が選任した不在者の財産の管理人は,保存行為であれば,裁判上の行為であるか裁判外の行為であるかを問わず,家庭裁判所の許可なくすることができる」という肢(R2 問4 エ)は正しいです。家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から相当な報酬を管理人に与えることができ(29条2項)、「家庭裁判所は,不在者の財産の管理人と不在者との関係その他の事情を考慮し,当該管理人に対し,不在者の財産の中から報酬を与えることも,与えないこともできる」という肢(R2 問4 オ)は正しいです。
- 許可が要る(28条前段)土地の売却、協議による遺産分割、子への贈与
- 許可が要らない(103条)現金の預金口座への預入れ、弁済期にある債務の弁済、敗訴判決に対する控訴(最判昭和47年9月1日)
- 置かれた管理人生死不明のときに限り改任(26条)・権限を超える行為の許可(28条後段)
民法 第25条第1項従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
民法 第28条(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
民法 第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
試験ではこう問われる
- 不在者は従来の住所又は居所を去った者で、所在不明は要件でない(25条1項)
- 管理人を置かなかったときは、利害関係人だけでなく検察官も必要な処分を請求できる(25条1項)
- 置かれた管理人の改任や権限を超える行為の許可は、不在者の生死が明らかでないときに限られる(26条・28条後段)
- 選任された管理人が土地を売却・協議による遺産分割・贈与をするには家庭裁判所の許可が要る(28条前段)
- 選任された管理人は、保存行為なら裁判上の行為か裁判外の行為かを問わず許可なくできる(103条・最判昭和47年9月1日。R2 問4 エ ○)
- 家庭裁判所は、事情を考慮して管理人に不在者の財産の中から報酬を与えることも与えないこともできる(29条2項。R2 問4 オ ○)
- 選任された管理人が職務上する所有権の移転の登記の申請で、裁判所書記官が作成した印鑑の証明書は、作成後3か月以内のものであることを要しない(R8 午後 問13 イ ×)

