物権の意義と客体(物権法定主義・一物一権主義・一筆の土地の一部・集合物・金銭)ぶっけんのいぎときゃくたい
物権とは、特定の物を直接に支配し、他人を排除できる権利です(175条)。物権は民法その他の法律に定めるもののほかは創設できず(物権法定主義)、1個の物権の客体は独立した1個の物であることを原則とします(一物一権主義)。
隣の家と境を接した広い土地の端だけを、塀で区切って買いたいと頼まれることがあります。登記簿の上では一筆の土地でも、現地で線を引けばどこまでが売買の対象かははっきりします。物権は物を直接に支配する強い権利なので、誰の権利がどの物に及ぶのかが外から分からないと取引が混乱します。そこで民法は、物権の種類を法律で決め、物権の客体は特定した独立の1個の物であることを原則にしました。ただし、取引の必要があり公示の手段があるときは、この原則に例外が認められています。

物権は法律に定めるもののほかは創設できませんが、慣習上の物権や法律に規定のない公示方法も判例で認められています
175条は、物権はこの法律その他の法律に定めるもののほか創設することができないと定めています。物権は誰に対しても主張できる強い権利なので、当事者が自由に新しい種類を作ると、第三者が思わぬ権利を主張されて取引の安全が害されるからです。もっとも判例は、温泉の湧出地から引湯して使用する権利(湯口権)について、地方の慣習法により原泉地の所有権とは独立に処分される物権的権利であると認め、177条を類推して、第三者に対抗するには立札その他の特殊な公示方法が要るとしました(大判昭和15年9月18日)。立木の明認方法も、法律に規定のない慣習上の公示方法です。「Aが甲土地上の立木の所有権を留保して甲土地をBに売却し,その後,BがCに甲土地及びその上の立木を売却した場合には,Aは,Cに対し,立木の所有権の留保につき登記や明認方法を備えない限り,立木の所有権を主張することができない」という肢(R3 問8 イ)は正しく、物権変動の対抗要件は法律に規定された登記や引渡しに限られません。
物権の客体は特定した独立の1個の物が原則ですが、一筆の土地の一部にも物権が成立します
一物一権主義は、物権の客体が特定し、独立した1個の物であることを求める原則です。不特定物の売買では、目的物が特定しなければどの物の所有権が移るのか定まらないので、所有権は特定の時に買主に移転します(最判昭和35年6月24日)。土地は地表が連続しているので、一筆という単位は登記上の区画にすぎません。判例は、所有者が一筆の土地内に線を画し標識を設けるなどして任意に数個に分割し、その一部を譲渡の目的とすることができ、当事者間では分筆前でも権利移転の効力が生じるとしました(大連判大正13年10月7日)。物権は一筆の土地の一部についても成立します。第三者に対抗するには分筆して登記をする必要があり、これは対抗力の問題です。
複数の物の集合体の上に1個の物権を認める例が、判例にも法律にもあります
複数の物の上に1個の物権を認める例もあります。判例は、構成部分が変動する集合動産でも、種類・所在場所・量的範囲を指定するなどして目的物の範囲が特定されれば、1個の集合物として譲渡担保の目的になるとしています(最判昭和54年2月15日、最判昭和62年11月10日)。工場財団などの財団抵当も、多数の物を一体として1個の抵当権の目的にします。法律や判例には、物の集合体に1個の物権を認めるものがあります。

物権は有体物だけでなく権利を目的として成立することもあり、物権が時効で消滅することもあります
物は有体物をいい(85条)、物権の客体は物が原則です。もっとも民法は、質権は財産権をその目的とすることができるとし(362条1項)、地上権と永小作権も抵当権の目的とすることができるとしています(369条2項)。「地上権及び永小作権も、質権の目的とすることができる」という肢(R7 問13 ア)と、「質権は、設定者が質権者に対して有する債権を目的として設定することができる」という肢(R8 問12 オ)は正しく、物権は権利や債権を目的として成立することがあります。物権が時効で消えないのは所有権だけです。債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは時効によって消滅します(166条2項)。地役権の消滅時効の規定(291条)や抵当権の消滅時効の規定(396条)もあります。抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しない(396条)ので、「抵当権を実行することができる時から民法第166条第 2 項の消滅時効期間が経過したときは、抵当権設定者は、抵当権者に対し、時効による抵当権の消滅を主張することができる」という肢(R7 問15 エ)は誤りです。一筆の土地の一部を目的とする売買契約も結べるので、債権も一筆の土地の一部を目的として成立します。
金銭は物としての個性がないので、特段の事情のない限り占有者が所有者になります
判例は、金銭は特別の場合を除いて物としての個性を有せず単なる価値そのものであり、価値は金銭の所在に随伴するから、金銭の所有権者は特段の事情のない限りその占有者と一致するとしました(最判昭和39年1月24日)。騙し取った金銭や横領した金銭も、交付を受け又は着服した時点で占有者の所有になり、被害者は物権的請求権ではなく不当利得返還請求などの債権で回復を図ります。もっとも、封をして特定性を保ったまま保管されている金銭や収集の対象になる記念硬貨のように、物としての個性がある場合は一般の動産と同じに扱われます。この留保があるので、金銭の所有権者がその占有者と一致しないこともあります。

用益物権は土地にだけ成立し、法律の規定で当然に生じる用益物権や対抗要件の要らない物権もあります
民法の用益物権は地上権・永小作権・地役権・入会権で、いずれも他人の土地を使用収益する権利なので、用益物権は不動産にだけ成立します。留置権・先取特権が法律の規定で生じる法定の担保物権であるのと同じく、388条の法定地上権は抵当権の実行で土地と建物の所有者が異なるに至ったときに地上権が設定されたものとみなされる法定の用益物権です。入会権は各地方の慣習に従う権利で(263条・294条)、登記できる権利ではないので、共有の性質を有するかどうかにかかわらず登記なしに第三者に対抗できます。一般の先取特権も不動産について登記をしなくても特別担保を有しない債権者に対抗できます(336条本文)が、一般の先取特権同士の順位は306条各号の順序によります(329条1項)。対抗要件の要らない物権同士でも、時間的に先に成立した方が優先するとは限りません。
民法 第175条(物権の創設)
物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
民法 第362条第1項質権は、財産権をその目的とすることができる。
最判昭和39年1月24日金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべき
試験ではこう問われる
- 立木の所有権の留保は、登記や明認方法を備えなければ転得者に主張できず、法律に規定のない明認方法も対抗要件になる(R3 問8 イ ○)
- 質権は財産権を目的とすることができ、地上権・永小作権や、設定者が質権者に対して有する債権も質権の目的になる(362条1項。R7 問13 ア ○、R8 問12 オ ○)
- 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない(396条。R7 問15 エ ×)
- 構成部分の変動する集合動産も範囲が特定されれば1個の集合物として譲渡担保の目的になり(最判昭和54年2月15日)、通常の営業の範囲内で売却された個々の動産は買主が譲渡担保の拘束を受けずに取得する(R4 問15 イ ○)
- 一筆の土地の一部も、特定できれば物権の客体になり、第三者への対抗には分筆と登記が要る(大連判大正13年10月7日)
- 金銭の所有者は、特段の事情のない限り占有者と一致する(最判昭和39年1月24日)
- 用益物権は土地にだけ成立し、法定地上権(388条)は法定の用益物権である

