物権変動・物権的請求権の要件事実(所有権喪失の抗弁・対抗要件の抗弁・占有権原の抗弁)ぶっけんへんどうぶっけんてきせいきゅうけんのようけんじじつ
要件事実とは、一定の法律効果が生じるために必要な具体的な事実で、訴訟ではその効果を主張する側が主張立証します。所有権に基づく明渡請求では、原告は自分のもと所有と被告の現在の占有を主張し、被告は所有権喪失の抗弁・対抗要件の抗弁・占有権原の抗弁などを出し、原告は背信的悪意などの再抗弁で応じます。
土地の持ち主が、勝手に住んでいる人に出て行ってほしいと裁判を起こしたとします。裁判所は、持ち主に何をどこまで証明させ、相手に何を言わせるかを決めて審理します。持ち主は自分の土地であることと相手が住んでいることを示せばよく、相手が借りているなら、それは相手が主張して証明します。持ち主がすでに土地を売っていたなら相手がそれを主張し、持ち主はさらにそれを覆す事情を出します。こうした主張の割り振りを要件事実といい、物権変動の規律がそのまま形になっています。

所有権に基づく明渡請求では、原告は自分のもと所有と被告の現在の占有を主張立証すればよく、占有権原は被告が主張立証します
所有権に基づく返還請求権の要件は、原告がその物を所有していること、被告がその物を占有していること、被告に占有権原がないことですが、訴訟で原告が主張立証するのは前の二つです。原告の所有は、当事者間に争いのない過去の時点の所有について権利自白が成立すれば、それ以降の取得原因を主張すれば足ります。占有権原は被告が主張立証する抗弁で、判例も、他人の土地上の建物に住む者がその敷地を占有する権原は、その者が主張立証責任を負うとしています(最判昭和35年3月1日)。占有者の権利の推定(188条)を援用して権原を主張することもできません。
占有権原の抗弁は、賃貸借や使用貸借の合意に加えてそれに基づく引渡しが要り、地上権設定登記では占有権原は推定されません
占有権原の抗弁として賃借権を主張するには、原告との賃貸借の合意と、その合意に基づく引渡しを主張立証します。この二つを主張立証すれば、被告は請求棄却の判決を得ることができます。使用貸借も同じで、現行法では使用貸借は合意だけで成立する諾成契約になりました(593条)が、占有を正当化するには合意に基づく引渡しが要るので、無償で借りる合意だけでは請求棄却になりません。地上権も設定の合意と引渡しを主張立証するもので、原告との間では登記は問題にならず、登記で引渡しに代えることもできません。直接の前所有名義人との間では登記の推定力も働かない(最判昭和38年10月15日)ので、地上権設定登記があるだけでは適法な地上権の設定は推定されず、請求棄却の判決を得ることはできません。造成工事の請負代金を理由とする留置権や同時履行の抗弁は、認められても請求棄却ではなく引換給付判決になります。

所有権喪失の抗弁は原告から第三者への売買だけで足り、その後の転売や引渡しを主張する必要はありません
動産がA→B→Cと売られ、AがCに所有権に基づく返還を求めた場合、Cは、Aが所有権を失ったことを示せば請求を退けられます。意思主義(176条)により売買の合意だけで所有権が移るので、所有権喪失の抗弁としてはAからBへの売買を主張立証すれば足り、BからCへの売買や引渡しを主張する必要はありません。Aが再抗弁として適切な主張立証をしなければ、Aの請求は棄却されます。BからCへの売買だけを主張しても所有権喪失の抗弁にはならず、AB間の売買に基づく引渡しまで主張する必要もありません。BC間の売買の無効はAの所有権喪失を覆さないので再抗弁になりません。
二重譲渡では第二譲受人が対抗要件の抗弁などを出し、善意無過失は要らず、単なる悪意ではなく背信的悪意が再抗弁になります
Aから甲土地を買ったBが、後にAから買って登記をしたCに所有権に基づく移転登記を求める場合、Bは請求原因として、Aのもと所有、AB間の売買、C名義の登記の存在を主張立証します。Cは、AC間の売買を主張してBが登記を備えるまで所有権を認めないと主張する対抗要件の抗弁や、AC間の売買とそれに基づく登記を主張する対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を出せます。177条は第三者の善意悪意を問わず、悪意の第三者も第三者に含まれる(大判明治45年6月1日)ので、Cは第一売買について善意無過失であったことを主張立証する必要はありません。Bの再抗弁になるのはCが背信的悪意者であることで、Cが単に悪意であったことは再抗弁になりません。所有権に基づく登記請求権は時効で消滅しない(大判大正5年6月23日)ので、Cはその時効消滅を抗弁にできません。AC間の売買にAの錯誤があっても、取り消せるのは表意者やその代理人・承継人に限られ(120条2項)、出題当時の錯誤無効でも第三者は原則として主張できなかった(最判昭和40年9月10日)ので、Bは錯誤を再抗弁にできません。
民法 第176条(物権の設定及び移転)
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
民法 第188条(占有物について行使する権利の適法の推定)
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
試験ではこう問われる
- 所有権に基づく明渡請求の請求原因は、原告のもと所有と被告の現在の占有である
- 占有権原は被告が主張立証する抗弁で、188条の推定は援用できない(最判昭和35年3月1日)
- 占有権原の抗弁は、賃貸借・使用貸借・地上権の合意に加えてそれに基づく引渡しが要る
- 所有権喪失の抗弁は原告から第三者への売買だけで足り、転売や引渡しの主張は要らない(176条)
- 対抗要件の抗弁に第二譲受人の善意無過失は要らず、背信的悪意は再抗弁になるが単なる悪意は再抗弁にならない(大判明治45年6月1日)
- 留置権の抗弁が認められると引換給付判決になるが、質権の抗弁について引換給付判決をしなければならないとする肢は誤りである(R5 問14 オ ×)

