住所変更登記の省略(相続・抹消の場合)じゅうしょへんこうとうきのしょうりゃく
登記名義人の現在の氏名や住所が登記記録と違うときに、本来の登記の前提として変更の登記を申請しなければならないか、変更を証する情報を添えるだけで済むかという論点です。義務者側か権利者側か、所有権か所有権以外か、抹消か移転かで結論が分かれます。
住所変更登記の省略は、所有権の移転や抵当権の抹消を申請するとき、申請人の現在の住所や氏名が登記記録の表示と一致しない場合の論点です。前提として氏名・住所の変更の登記を入れなければならないか、変更を証する情報を添えるだけで足りるかが問われます。原則は、登記記録上の名義人と申請人の同一性を登記記録で確かめるために前提の変更の登記が要り、例外として一定の場面で省略が認められている形です。省略できるかは、行政区画の変更か、申請人が義務者側か権利者側か、抹消する権利が所有権かで分かれ、死亡や合併の後に消えた権利の抹消では相続・合併の登記を省略できません。肢では、この線引きが繰り返し問われるところです。
不動産登記法 第64条第1項登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、登記名義人が単独で申請することができる。

行政区画の変更だけなら前提の変更登記は要りません
不動産登記規則92条は、行政区画やその名称の変更があったときは、登記記録に記録した行政区画や名称について変更の登記があったものとみなすと定めています。市町村合併や区制の施行で住所の表示が変わっただけなら、登記記録上の住所と現在の住所は同じ場所を指すので、前提の変更の登記は要りません。「所有権の登記名義人の住所が行政区画の名称の変更により「甲市乙町 1473 番地」から「甲市丙町1473 番地」に変更されているときは,前提として所有権の登記名義人の住所についての変更の登記を申請しなければならない」という肢は誤りです。共同根抵当の追加設定でも同じで、「乙土地について甲土地と共同根抵当とする根抵当権の設定の登記の前提として、甲土地についてBの住所の変更の登記を申請することを要しない」という肢は正しい肢です。地番の変更を伴う場合は同じ場所と言い切れないので、変更の登記が要ります。
判決や和解調書に新旧の住所が併記されていても省略できません
判決による登記で、登記義務者である被告の現在の住所が住所移転で登記記録と違うときは、判決書に登記記録上の住所が併記されていても、前提として住所の変更の登記を申請しなければなりません。「判決書正本に被告の現在の住所とともに登記記録上の住所が併記されているときであっても,前提として所有権の登記名義人の住所についての変更の登記を申請しなければならない」という肢は正しい肢に当たります。和解調書や調停調書でも扱いは変わらず、「当該和解調書の当事者の表示にAの変更後の住所と登記記録上の住所とが併記されているときは、Bは、当該申請をする前提として、Aの住所の変更の登記を申請することを要しない」という肢は誤りになります。氏の変更についても「氏の変更を証する情報を提供すれば,当該申請をする前提として,Aの氏名の変更の登記を申請する必要はない」という肢は誤りです。破産管財人が任意売却するときの所有権の登記名義人の住所の変更も省略できません。したがって「Bは、当該申請をする前提として、Aの住所の変更の登記を申請しなければならない」という肢は正しい肢です。
所有権以外の権利の抹消では義務者の住所変更を省略できます
抵当権や転借権など所有権以外の権利の登記を抹消するとき、登記義務者である権利の名義人の住所が変わっていても、登記実務では変更を証する情報を添えれば前提の変更の登記を省略できます。抹消される登記の名義人の表示を直しても、直後に登記ごと消えてしまうからです。「乙区 1 番付記 1 号転借権の登記の抹消を申請するときは,その前提として,Bの住所の変更の申請をしなければならない」という肢は誤りです。反対に、所有権の登記名義人が登記権利者として地上権の抹消を申請するときは、申請人である所有権の登記は残るので、前提として住所の変更の登記が要ります。「所有権の登記名義人が地上権の設定の登記の抹消の申請をする場合において、住所の変更により当該所有権の登記名義人の現在の住所と登記記録上の住所とが異なるときは、当該申請をする前提として、当該所有権の登記名義人の住所の変更の登記を申請しなければならない」という肢は正しい肢です。
抹消の登記権利者の氏名変更も省略できる扱いです
所有権の移転の登記を錯誤で抹消するとき、抹消によって名義が戻る前主Aは登記権利者で、Aの氏名が養子縁組で変わっていても、登記実務では前提の変更の登記を要しないとされています。「錯誤を登記原因としてAからBへの所有権の移転の登記の抹消を申請する場合において,Aが養子縁組したことにより現在の氏名と登記記録上の氏名とが相違しているときは,前提としてAの氏名についての変更の登記を申請しなければならない」という肢は誤りです。ただし仮登記に基づく本登記を申請するときは、仮登記名義人の住所の変更の登記が前提として要り、「当該本登記の申請に先だって,Bの住所についての変更の登記を申請しなければならない」という肢は正しい肢です。省略の可否は、変更の登記をしても意味があるかどうかで判断すると筋が通ります。
死亡・合併の後に消えた権利の抹消は相続・合併の登記が前提です
住所や氏名の変更と違って、登記名義人の死亡や法人の合併は権利の主体そのものが変わる事情なので、死亡や合併の後に権利が消滅したときは、変更を証する情報で代えることはできません。抵当権の設定者が死亡した後に抵当権が消滅したときの抹消では、「その前提としてAの相続人への所有権の移転の登記を申請しなければならない」という肢は正しい肢です。遺贈者が生前に住所を移転していた場合は、遺贈による移転の登記の前提として遺贈者の住所の変更の登記が要り、「遺贈者であるAの住所の変更の登記の申請をしなければならない」という肢は正しい肢です。死亡や合併より前に権利が消滅していたときは、移転すべき権利が既にないので、前提の移転の登記は要りません。不動産登記法62条により、相続人や存続会社が一般承継人として承継を証する情報を添えて抹消を申請します。相続による移転の登記では、被相続人の登記記録上の住所と最後の住所が違っていても、登記実務では同一性を証する住民票の除票などを添えれば足り、前提の変更の登記は要りません。
不動産登記規則 第92条(行政区画の変更等)
行政区画又はその名称の変更があった場合には、登記記録に記録した行政区画又はその名称について変更の登記があったものとみなす。字又はその名称に変更があったときも、同様とする。
登記官は、前項の場合には、速やかに、表題部に記録した行政区画若しくは字又はこれらの名称を変更しなければならない。
試験ではこう問われる
- 行政区画の変更(前提の変更登記は不要。地番の変更を伴えば必要)
- 判決・和解調書・調停調書に新旧住所が併記されている場合(省略できない)
- 所有権以外の権利の抹消の義務者(変更証明情報で省略できる)と所有権の名義人が義務者の場合(省略できない)
- 抹消の権利者の氏名変更(省略できる)と仮登記名義人の本登記(省略できない)
- 名義人の死亡・合併(死亡・合併の後に消えた権利なら相続・合併による移転の登記が前提。前に消えていれば一般承継人が抹消)
この用語が問われた肢
贈与を登記原因とする所有権の移転の登記を申請する場合において,所有権の登記名義人の住所が行政区画の名称の変更により「甲市乙町 1473 番地」から「甲市丙町1473 番地」に変更されているときは,前提として所有権の登記名義人の住所についての変更の登記を申請しなければならない。
Aを所有権の登記名義人とする甲土地について、Bを債務者とする根抵当権の設定の登記がされた後、Bの住所について地番変更を伴わない行政区画の変更がされた場合には、乙土地について甲土地と共同根抵当とする根抵当権の設定の登記の前提として、甲土地についてBの住所の変更の登記を申請することを要しない。
判決による所有権の移転の登記を申請する場合において,登記義務者である被告の現在の住所が住所の移転により登記記録上の住所と相違しているときは,判決書正本に被告の現在の住所とともに登記記録上の住所が併記されているときであっても,前提として所有権の登記名義人の住所についての変更の登記を申請しなければならない。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。
この用語で問われた肢を、解説つきでそのまま解けます。無料プランは月100問まで。