合意管轄(11条:専属的合意と付加的合意・方式・合意の効力が及ぶ者)ごういかんかつ
合意管轄とは、当事者が第一審に限り、一定の法律関係に基づく訴えについて書面又は電磁的記録でした合意によって生じる管轄です(11条)。合意した裁判所だけに管轄を認め法定管轄を排除するものを専属的合意、法定管轄に加えて管轄を認めるものを付加的合意といいます。
企業との契約書の末尾には、よく「本契約に関する紛争は東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」という条項があります。管轄は法律で決まりますが、どこで裁判をするかは主に当事者の便宜の問題なので、第一審に限って当事者が合意で決めることを認めています。ただ、合意で裁判所を一つに絞っても、法律が公益から定めた専属管轄とは違うので、応訴や移送で動かせる余地が残っています。

管轄の合意は第一審に限り、一定の法律関係に基づく訴えについて書面か電磁的記録でしなければ効力を生じません
当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができます(11条1項)。合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ書面でしなければ効力を生じません(同条2項)。将来のあらゆる紛争を対象にする合意は、相手方に不測の不利益を与えるからです。合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなされます(同条3項)。インターネットで売買契約を結び、ウェブ上の申込みフォームで東京簡易裁判所を管轄裁判所とする合意をした場合も、その合意を理由に東京簡易裁判所に訴えを起こせます。合意で変えられるのは事物管轄と土地管轄のような任意管轄で、法令に専属管轄の定めがある訴えについては合意の規定は適用されません(13条1項)。事物管轄も合意で変えられるので、特定の地方裁判所を専属管轄とする合意があれば、訴額が140万円以下でもその地方裁判所に管轄があります。
専属的合意は法定の専属管轄ではないので、応訴管轄も17条の移送も地裁の自庁処理も妨げず、合意した裁判所に移送しなければならないわけではありません
専属的合意があっても、法令が定めた専属管轄(13条1項・20条1項)とは扱いが違います。第一に、合意に反する裁判所に訴えが起こされても、被告が管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論すれば、その裁判所に応訴管轄が生じます(12条)。判例(大判大正10年5月18日)も、専属管轄の合意は応訴管轄の成立を妨げないとしています。この場合、合意した裁判所に移送しなければならないわけではありません。もっとも応訴管轄が生じるのは本案について弁論したときなので、「被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出せずに、訴訟要件が欠けることを理由として訴えの却下を求めた場合には、応訴管轄が生ずる」という肢(R5 午後 問1 ア)は誤りです。第二に、20条1項は専属管轄の事件で17条〜19条の移送を排除しますが、括弧書きで合意による専属管轄を除いているので、合意した裁判所でも著しい遅滞を避け又は当事者間の衡平を図るため17条の移送ができます。逆に合意に反して起こされた裁判所も、法定管轄があり著しい遅滞を避ける必要があれば移送せずに審理できると解されています。第三に、地方裁判所は管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟を自ら審理できますが、簡易裁判所の専属管轄の場合は除かれ、その専属管轄からも合意によるものが除かれています(16条2項ただし書)。簡易裁判所を専属とする合意に反して地方裁判所に起こされた訴えも、地方裁判所は相当と認めれば自ら審理できます。最決平成20年7月18日も、簡易裁判所を専属とする合意があっても、地方裁判所が自庁処理を相当とするかは広く事案の内容に照らして地方裁判所での審理が相当かという観点から判断するとしています。第四に、13条1項は法令の専属管轄について併合請求の裁判籍(7条)を排除しますが、合意による専属管轄には及ばないので、甲請求はA裁判所、乙請求はB裁判所の専属とする合意があっても、A裁判所に一の訴えで両請求を起こせます。

- 応訴管轄(12条)専属的合意に反する提訴でも、被告が抗弁を出さずに本案の弁論をすれば生じます。法定専属管轄では生じません
- 17条の移送(20条1項括弧書き)合意した裁判所からも、遅滞を避け衡平を図るため他の管轄裁判所に移送できます。法定専属管轄ではできません
- 地裁の自庁処理(16条2項ただし書括弧書き)簡裁を専属とする合意があっても地裁は自ら審理できます。簡裁の法定専属管轄ではできません
- 併合請求の裁判籍(7条・13条1項)別々の裁判所を専属とする合意があっても一の訴えにできます。法定専属管轄ではできません
管轄の合意は訴訟行為なので、同時に結んだ契約が解除されても失効せず、するには訴訟能力が必要です
管轄の合意は、法定管轄を変更するという訴訟法上の効果を直接生じさせる訴訟上の合意で、訴訟行為の一種と考えられています。同じ契約書に書かれていても、売買契約などの私法上の契約とは別の合意なので、その契約が債務不履行で解除されても管轄の合意は効力を失いません。解除による原状回復の紛争こそ合意の対象として予定されているからです。また、訴訟行為なので合意をするには訴訟能力が必要です。未成年者は法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができず(31条)、売買契約の締結について法定代理人の同意を得ていても、管轄の合意を有効にすることはできません。
合意の効力は当事者と一般承継人のほか、当事者の権利を代わって行使する代位債権者などに及びますが、無断転借人には及びません
管轄の合意は当事者を拘束するのが原則で、第三者には及びません。もっとも、当事者の地位をそのまま受け継ぐ相続人などの一般承継人、債権の特定承継人、当事者の権利を代わって行使するにすぎない破産管財人や債権者代位訴訟の代位債権者は、合意に拘束されると解されています。代位債権者は債務者の権利をその内容のまま行使するので、債務者が結んだ合意の範囲でしか行使できないからです。これに対し、土地の無断転借人は賃貸人との関係では不法占拠者にすぎず、賃借権を承継した者ではありません。賃貸人が無断転借人に対して土地の明渡しを求める訴えには、賃貸借契約書の合意管轄の条項の効力は及びません。
民事訴訟法 第11条第1項当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
民事訴訟法 第11条第2項前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
民事訴訟法 第11条第3項第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
民事訴訟法 第20条第1項前三条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。
試験ではこう問われる
- 管轄の合意は第一審に限り、一定の法律関係に基づく訴えについて書面でする(11条1項・2項)。電磁的記録による合意は書面による合意とみなされる(11条3項)
- 法定の専属管轄がある訴えには合意の規定が適用されない(13条1項)。事物管轄は合意で変えられる
- 専属的合意に反する提訴でも、被告が管轄違いの抗弁を出さずに本案について弁論すれば応訴管轄が生じる(12条、大判大正10年5月18日)
- 被告が管轄違いの抗弁を出さずに訴訟要件の欠缺を理由に訴えの却下を求めただけでは、応訴管轄は生じない(R5 午後 問1 ア ×)
- 合意した裁判所も17条で他の管轄裁判所に移送でき(20条1項括弧書き)、簡易裁判所を専属とする合意があっても地方裁判所は相当と認めれば自ら審理できる(16条2項ただし書)
- 売買契約を解除しても管轄の合意は失効しない。合意には訴訟能力が要る
- 合意の効力は代位債権者に及ぶが、無断転借人に対する明渡請求には及ばない

