証拠保全しょうこほぜん
証拠保全とは、本来の証拠調べの時期まで待っていてはその証拠を使用することが困難となる事情があるときに、あらかじめ証拠調べをしておく手続です。
証人が重い病気で長く持ちそうにないときや、病院のカルテが書き換えられるおそれがあるとき、工事で現場の様子が変わってしまうときがあります。こうした場合に、本来の証拠調べの時期まで待っていると証拠が使えなくなります。そこで、前もって証拠調べをしておくのが証拠保全です。訴えを起こす前でも後でもでき、証人尋問も書証も検証もできます。証拠を早く確保できるので、相手方の手元の資料を見る機会としても使われています。

証拠保全は、あらかじめ証拠調べをしておかなければ使用が困難になる事情があるときに、訴え提起の前でも後でもでき、どの証拠調べもできます
裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、証拠調べの章の規定に従って証拠調べをすることができます(234条)。「裁判所は,あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは,申立てにより,証拠保全の決定をすることができる」という肢(R2 午後 問4 ア)は正しいです。証拠保全は訴えの提起後にもできることが235条1項や237条から明らかです。「この章の規定に従い」とあるとおり、証人尋問・当事者尋問・鑑定・書証・検証のどれでもでき、訴えの提起前でも証人を尋問できます。「証拠保全の手続においては,当事者尋問を行うことができない」という肢(R2 午後 問4 イ)は誤りです。証拠調べなので、文書の検証に応じない所持者に検証物提示命令を出すこともできます(232条1項)。
訴え提起前は証拠の所在地の地方裁判所か簡易裁判所に、提起後は使用すべき審級の裁判所に、最初の期日指定から弁論終結までは受訴裁判所に申し立てます
訴えの提起前の申立ては、尋問を受けるべき者、文書を所持する者若しくは電磁的記録を利用する権限を有する者の居所又は検証物の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にします(235条2項)。訴えの提起後の申立ては、その証拠を使用すべき審級の裁判所にしますが、最初の口頭弁論の期日が指定され、又は弁論準備手続若しくは書面による準備手続に付された後、口頭弁論の終結に至るまでの間は、受訴裁判所にします(同条1項)。急迫の事情がある場合には、訴えの提起後でも証拠の所在地の地方裁判所又は簡易裁判所に申し立てられます(同条3項)。この期間は、裁判所は受命裁判官に証拠調べをさせることができます(239条)。
- 訴え提起前(235条2項)尋問を受けるべき者・文書の所持者などの居所又は検証物の所在地の地方裁判所又は簡易裁判所
- 訴え提起後の原則(235条1項本文)その証拠を使用すべき審級の裁判所
- 最初の期日指定・準備手続付託から弁論終結まで(235条1項ただし書)受訴裁判所(受命裁判官にさせられます。239条)
- 急迫の事情(235条3項)訴え提起後でも証拠の所在地の地方裁判所又は簡易裁判所
相手方を指定できなくても申し立てられ、訴訟の係属中は職権でもでき、急速を要するときは当事者を呼び出さずに証拠調べができます
証拠保全の申立ては、相手方を指定することができない場合においてもすることができ、裁判所は相手方となるべき者のために特別代理人を選任することができます(236条)。ひき逃げの加害者が分からない場合のように、相手方が分からないうちに証拠が失われることがあるからです。裁判所は、必要があると認めるときは、訴訟の係属中、職権で証拠保全の決定をすることができます(237条)。証拠保全の決定は決定手続なので、口頭弁論を経る必要はなく(87条1項ただし書)、相手方の審尋を要するとする規定もありません。証拠調べの期日には申立人と相手方を呼び出さなければなりませんが、急速を要する場合はこの限りでありません(240条)。「裁判所は,急速を要する場合には,証拠保全の手続における証拠調べの期日に相手方を呼び出さずに証拠調べをすることができる」という肢(R2 午後 問4 エ)は正しいです。

証拠保全の決定には不服を申し立てられませんが、申立てを却下する決定には抗告ができ、保全で尋問した証人も申出があれば口頭弁論で尋問します
証拠保全の決定に対しては、不服を申し立てることができません(238条)。証拠調べをしておくだけで相手方に法律上の不利益を与えないからです。「証拠保全の決定に対しては,不服を申し立てることができない」という肢(R2 午後 問4 ウ)は正しいです。これに対し、申立てを却下する決定は、口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定に当たるので、抗告ができます(328条1項)。証拠保全の手続で尋問した証人について、当事者が口頭弁論における尋問の申出をしたときは、裁判所はその尋問をしなければなりません(242条)。証拠保全では急いで尋問するので反対尋問が十分でないことがあり、直接主義を回復する趣旨です。「証拠保全の手続において尋問をした証人について,再度,当事者が口頭弁論における尋問の申出をした場合には,裁判所は,その申出を却下しなければならない」という肢(R2 午後 問4 オ)は誤りです。証拠保全の費用は訴訟費用の一部になります(241条)。
民事訴訟法 第234条(証拠保全)
裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる。
民事訴訟法 第236条(相手方の指定ができない場合の取扱い)
証拠保全の申立ては、相手方を指定することができない場合においても、することができる。この場合においては、裁判所は、相手方となるべき者のために特別代理人を選任することができる。
民事訴訟法 第237条(職権による証拠保全)
裁判所は、必要があると認めるときは、訴訟の係属中、職権で、証拠保全の決定をすることができる。
民事訴訟法 第238条(不服申立ての不許)
証拠保全の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
民事訴訟法 第242条(口頭弁論における再尋問)
証拠保全の手続において尋問をした証人について、当事者が口頭弁論における尋問の申出をしたときは、裁判所は、その尋問をしなければならない。
試験ではこう問われる
- 使用が困難になる事情があると認めるときは、申立てにより証拠保全の決定ができる(234条。R2 午後 問4 ア ○)
- 証拠保全の手続でも当事者尋問ができ、証人尋問・鑑定・書証・検証のどれもできる(234条。R2 午後 問4 イ ×)
- 証拠保全の決定には不服を申し立てられず、却下決定には抗告ができる(238条・328条1項。R2 午後 問4 ウ ○)
- 急速を要するときは、相手方を呼び出さずに証拠調べができる(240条ただし書。R2 午後 問4 エ ○)
- 保全で尋問した証人も、口頭弁論での尋問の申出があれば尋問しなければならない(242条。R2 午後 問4 オ ×)
- 訴え提起後もでき、訴訟の係属中は職権でもでき、相手方を指定できなくても申し立てられる(235条・236条・237条)
- 提起前は尋問を受けるべき者の居所や検証物の所在地の地裁又は簡裁、最初の期日指定から弁論終結までは受訴裁判所に申し立てる(235条)

