提訴前の証拠収集処分と当事者照会ていそまえのしょうこしゅうしゅうしょぶんととうじしゃしょうかい
当事者照会とは、訴訟の係属中に当事者が相手方に対し、主張や立証の準備に必要な事項について書面で回答するよう直接照会する手続です。提訴前の証拠収集処分とは、提訴予告通知をした者などの申立てにより、裁判所が訴えの提起前に文書の送付嘱託や調査嘱託などをすることです。
訴えを起こすかどうか、どんな主張を組み立てるかは、相手方や役所がどんな情報を持っているかで変わります。そこで民事訴訟法は、訴訟の前後を通じて情報を集める道を用意しています。訴訟の係属中は相手方に直接書面で質問する当事者照会があり、訴えの前には、提訴を予告する通知をしたうえで、相手方への照会や裁判所を通じた証拠の収集ができます。どれも制裁のない穏やかな仕組みで、強制力のある文書提出命令とは区別されます。

当事者照会は、訴訟の係属中に相手方へ直接書面で照会する手続で、裁判所を通さず、回答を拒んでも制裁はありません
当事者は、訴訟の係属中、相手方に対し、主張又は立証を準備するために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面などで回答するよう、書面により照会をすることができます(163条1項)。照会は当事者の間で直接行い、裁判所や裁判所書記官を通しません。相手方は回答する義務を負うと解されていますが、回答しない場合の制裁の規定はなく、照会事項に関する主張を真実と認めることもできません。
当事者照会は、具体的でないもの・侮辱的なもの・重複・意見を求めるもの・負担が過大なもの・証言拒絶事由と同様の事項についてはできません
照会が、①具体的又は個別的でない照会、②相手方を侮辱し、又は困惑させる照会、③既にした照会と重複する照会、④意見を求める照会、⑤相手方が回答するために不相当な費用又は時間を要する照会、⑥196条又は197条により証言を拒絶することができる事項と同様の事項についての照会のいずれかに当たるときは、照会できません(163条1項ただし書)。職業の秘密は197条1項3号の証言拒絶事由なので、⑥に当たり照会できません。これに対し、第三者の私生活上の秘密は、訴訟の係属中の当事者照会の除外事由には挙がっていません。
- ①具体的又は個別的でない照会
- ②相手方を侮辱し、又は困惑させる照会
- ③既にした照会と重複する照会
- ④意見を求める照会
- ⑤回答に不相当な費用又は時間を要する照会
- ⑥196条・197条で証言を拒絶できる事項と同様の事項(職業の秘密を含む)についての照会
提訴予告通知をした者は、通知の日から4か月以内に限り、訴えの提起前に、主張や立証の準備に必要であることが明らかな事項を照会できます
訴えを提起しようとする者が、被告となるべき者に訴えの提起を予告する通知を書面でしたときは、その予告通知者は、予告通知をした日から4か月以内に限り、訴えの提起前に、訴えを提起した場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、書面で回答するよう書面で照会することができます(132条の2第1項)。予告通知の書面には、請求の要旨と紛争の要点を書かなければなりません(同条3項)。提訴前の照会では、163条の除外事由のほか、相手方又は第三者の私生活上の秘密で回答すると社会生活に支障を生ずるおそれがあるものと、相手方又は第三者の営業秘密も照会できません(132条の2第1項ただし書2号・3号)。ただし、第三者の私生活上の秘密や営業秘密は、相手方が回答することをその第三者が承諾すれば照会できます(同条2項)。予告通知を受けた者も、答弁の要旨を記載した書面で返答すれば、同じように照会ができます(132条の3)。

提訴前の証拠収集の処分は、文書の送付嘱託・調査嘱託・専門家の意見陳述の嘱託・執行官の現況調査の四つで、文書提出命令は含まれません
裁判所は、予告通知者又は返答をした被予告通知者の申立てにより、訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきものについて、申立人が自ら収集することが困難であると認められるときは、相手方の意見を聴いて、訴えの提起前に、①文書の送付の嘱託、②官公署等への調査の嘱託、③専門的な知識経験を有する者への意見の陳述の嘱託、④執行官に対する物の形状・占有関係その他の現況の調査の命令をすることができます(132条の4第1項)。申立人が自ら収集することが困難と認められることが要件です。四つはいずれも強制力のない嘱託や調査で、提出義務を前提にする文書提出命令は含まれません。処分の申立ては予告通知の日から4か月の不変期間内にします(132条の4第2項)。文書の送付や調査結果の報告などがされたときは、裁判所は申立人と相手方にその旨を通知しなければなりません(132条の6第4項)。処分の申立てについての裁判には不服を申し立てられず(132条の8)、その費用は申立人の負担です(132条の9)。
- 当事者照会(163条)訴訟の係属中、相手方に直接照会します。制裁はありません
- 提訴前の照会(132条の2・132条の3)予告通知から4か月以内に、相手方に直接照会します。私生活上の秘密・営業秘密も除外されます
- 提訴前の証拠収集の処分(132条の4)裁判所が送付嘱託・調査嘱託・意見陳述の嘱託・執行官の現況調査をします。文書提出命令はできません
- 証拠保全(234条)証拠の使用が困難になる事情があれば、訴えの前後を問わず証拠調べをします
民事訴訟法 第163条第1項当事者は、訴訟の係属中、相手方に対し、主張又は立証を準備するために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面により、又は相手方の選択により書面若しくは電磁的方法のいずれかにより回答するよう、書面により照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 具体的又は個別的でない照会
二 相手方を侮辱し、又は困惑させる照会
三 既にした照会と重複する照会
四 意見を求める照会
五 相手方が回答するために不相当な費用又は時間を要する照会
六 第百九十六条又は第百九十七条の規定により証言を拒絶することができる事項と同様の事項についての照会
民事訴訟法 第132条の2第2項前項第二号に規定する第三者の私生活についての秘密又は同項第三号に規定する第三者の営業秘密に関する事項についての照会については、相手方がこれに回答することをその第三者が承諾した場合には、これらの規定は、適用しない。
民事訴訟法 第132条の4第1項裁判所は、予告通知者又は前条第一項の返答をした被予告通知者の申立てにより、当該予告通知に係る訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきものについて、申立人がこれを自ら収集することが困難であると認められるときは、その予告通知又は返答の相手方(以下この章において単に「相手方」という。)の意見を聴いて、訴えの提起前に、その収集に係る次に掲げる処分をすることができる。ただし、その収集に要すべき時間又は嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。
一 文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。以下この章において同じ。)の所持者にその文書の送付を嘱託し、又は電磁的記録を利用する権限を有する者にその電磁的記録の送付を嘱託すること。
二 必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体(次条第一項第二号において「官公署等」という。)に嘱託すること。
三 専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託すること。
四 執行官に対し、物の形状、占有関係その他の現況について調査を命ずること。
試験ではこう問われる
- 当事者照会は当事者間で直接行い、裁判所書記官を通さない(163条)
- 当事者照会への不回答に真実擬制などの制裁はない
- 職業の秘密など証言拒絶事由と同様の事項は当事者照会できない(163条1項ただし書6号)
- 第三者の私生活上の秘密は、訴訟係属中の当事者照会の除外事由ではない
- 予告通知者は通知から4か月以内に限り、提訴前の照会ができる(132条の2第1項)
- 提訴前の照会で第三者の営業秘密を照会できるのは、その第三者が承諾したときに限る(132条の2第2項)
- 提訴前の証拠収集の処分は、申立人が自ら収集することが困難なときに限り、送付嘱託・調査嘱託・意見陳述の嘱託・執行官の現況調査ができる(132条の4第1項)
- 提訴前に文書提出命令は申し立てられない
- 報告などがあれば申立人と相手方に通知し、処分の裁判には不服を申し立てられない(132条の6第4項・132条の8)

