調査の嘱託(186条)ちょうさのしょくたく
調査の嘱託とは、裁判所が、官庁・公署や学校・商工会議所・取引所その他の団体に必要な調査を依頼し、その回答を証拠資料とする証拠調べです。
交通事故の日に雨が降っていたかや、ある商品の当時の取引相場のような客観的な事実は、証人を呼ぶより、気象台や取引所に問い合わせれば正確に分かります。そこで裁判所は、役所や団体に必要な調査を頼み、その回答を証拠にすることができます。これが調査の嘱託です。組織が手元の資料から答える仕組みなので、頼める先は団体に限られ、個人には頼めません。

調査の嘱託は、官庁・公署、外国の官庁・公署、学校・商工会議所・取引所その他の団体にでき、個人にはできません
裁判所は、必要な調査を、官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができます(186条1項)。調査の嘱託は、団体が手元の資料に基づいて客観的に回答することを予定した制度なので、嘱託先は団体に限られ、個人には嘱託できません。個人から話を聞くなら証人尋問によります。「その他の団体」には会社のような営利団体も含まれます。気象台は官庁・公署に当たるので、特定の日と地域の気象情報も調査の嘱託で照会できます。
調査の嘱託は職権でもでき、釈明処分としてもでき、弁論準備手続を行う受命裁判官も嘱託の裁判ができます
調査の嘱託は、当事者の申出によるほか、裁判所が職権ですることもできます。186条が主語を裁判所として申出を要件にしていないからで、職権証拠調べが許される例の一つです。「裁判所は,職権で,必要な調査を官庁・公署その他の団体に嘱託することができる」という肢(R2 午後 問2 オ)は正しいです。また、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、釈明処分として調査を嘱託することもでき(151条1項6号)、その場合も証拠調べの規定が準用されます(同条4項)。弁論準備手続を行う受命裁判官は、調査の嘱託についての裁判をすることができます(171条3項)。

回答は口頭弁論で提示して当事者に意見を述べる機会を与えれば証拠資料になり、当事者の援用も書証としての取調べも要りません
裁判所は、嘱託に係る調査の結果を当事者に提示しなければなりません(186条2項)。判例は、調査の嘱託によって得られた調査の結果を証拠とするには、裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見を述べる機会を与えれば足り、当事者の援用を要しないとしました(最判昭和45年3月26日)。回答は公的機関などの客観的な調査に基づくもので、書証のように当事者の申出と取調べを経ることを予定していないからです。回答書を文書として取り調べる必要もありません。
嘱託先が調査に応じなくても、制裁の規定はありません
調査の嘱託は、文書提出命令や検証物の提示命令のような命令ではなく、団体の任意の協力を求めるものです。嘱託先が応じない場合の過料などの制裁を定めた規定はありません。送付の嘱託に従わない第三者に制裁がないのと同じ考え方です。なお、提訴予告通知をした者の申立てによる訴え提起前の調査の嘱託もあり(132条の4第1項2号)、これは提訴前の証拠収集処分の語で扱います。専門的な知見を補う手段としての使い分けは、前半の専門委員の語で扱います。
- 嘱託先官庁・公署、外国の官庁・公署、学校・商工会議所・取引所その他の団体(営利団体を含む)。個人は不可です
- 始まり方当事者の申出・職権・釈明処分(151条1項6号)のいずれでもできます
- 結果の扱い口頭弁論で提示して意見陳述の機会を与えれば、援用なしに証拠資料になります(最判昭和45年3月26日)
- 応じないとき制裁はありません
民事訴訟法 第186条第1項裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。
民事訴訟法 第186条第2項裁判所は、当事者に対し、前項の嘱託に係る調査の結果の提示をしなければならない。
最判昭和45年3月26日調査の嘱託によって得られた調査の結果を証拠とするには、裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見を述べる機会を与えれば足り、当事者の援用を要しない
試験ではこう問われる
- 裁判所は、職権で、必要な調査を官庁・公署その他の団体に嘱託できる(186条1項。R2 午後 問2 オ ○)
- 嘱託先は団体に限られ、個人にはできないが、営利を目的とする会社も「その他の団体」に含まれる
- 調査の嘱託は釈明処分としてもでき、証拠調べの規定が準用される(151条1項6号・4項)
- 弁論準備手続を行う受命裁判官も調査の嘱託の裁判ができる(171条3項)
- 回答は口頭弁論で提示し意見陳述の機会を与えれば、当事者の援用なしに証拠にできる(最判昭和45年3月26日。H28 午後 問3 ウ ×・出題当時)
- 嘱託先が応じなくても過料などの制裁はない

