不利益変更禁止の原則ふりえきへんこうきんしのげんそく
不利益変更禁止の原則とは、控訴審は不服申立ての限度においてのみ第一審判決を取り消し・変更できるので、相手方の控訴・附帯控訴がない限り、控訴人に第一審判決より不利な判決をすることができないという原則です(304条)。申し立てた範囲を超えて控訴人に有利な判決もできず、こちらを利益変更禁止の原則といいます。
判決に不満があって控訴したのに、控訴したせいで前より悪い判決を受けるとしたら、誰も安心して控訴できません。民事訴訟では、何をどこまで争うかは当事者が決めるので、控訴審も控訴人が不服を言った範囲でしか第一審判決を変えられません。相手方が控訴も附帯控訴もしていなければ、控訴人に第一審より不利な判決はできないのです。相殺で勝った被告に原告だけが控訴した場面では、判決の結論が同じ棄却でも、理由が変わると既判力の範囲が変わるので、この原則が特に効いてきます。

控訴審は不服申立ての限度でしか第一審判決を変更できず、控訴人に不利にも、申し立てていない利益にも変更できません
第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみすることができます(304条)。審判の範囲を当事者が決める処分権主義が控訴審に表れたもので、相手方の控訴・附帯控訴がない限り控訴人に第一審判決より不利な判決はできず(不利益変更禁止の原則)、控訴人が申し立てた範囲を超えて有利な判決もできません(利益変更禁止の原則)。「第一審裁判所が、100 万円の貸金返還請求について、60 万円の限度で一部認容する判決をした場合には、原告が請求棄却部分のうち 20 万円の部分についてのみ控訴したときであっても、控訴審裁判所は、原判決を取り消して 100 万円全額について請求を認容することができる」という肢(R4 午後 問5 オ)は誤りです。どちらも主文で比べるのが原則で、理由中の判断が変わっても問題になりません。ただし、訴訟要件のような職権調査事項は当事者の申立てに縛られないので、原告だけが控訴した場合でも、控訴審は訴訟要件が欠けると判断すれば第一審の一部認容判決を取り消して訴えを却下できます。
予備的相殺の抗弁で請求を棄却した判決に原告だけが控訴し、控訴審が訴求債権は存在しないと判断しても、控訴棄却にとどめます
相殺の抗弁を認めて請求を棄却した判決が確定すると、自働債権は相殺をもって対抗した額で消滅したことに既判力が生じます(114条2項)。控訴審が訴求債権はそもそも成立していないと判断して、第一審判決を取り消し改めて請求を棄却すると、被告は自働債権を失わずに済み、その分だけ控訴した原告が不利になります。判例は、訴求債権の成立を認めたうえ相殺の抗弁を採用して請求を棄却した第一審判決に原告だけが控訴し、被告が控訴も附帯控訴もしなかった場合に、控訴審が訴求債権の成立を否定したとき、第一審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることは、114条2項に照らすと控訴した原告に不利益であることが明らかであるから不利益変更禁止の原則に反して許されず、控訴を棄却するにとどめなければならないとしました(最判昭和61年9月4日)。被告の側から相殺以外の理由での棄却を求める控訴ができることは、上訴の利益の語で扱います。

予備的併合で主位的請求棄却・予備的請求認容の判決に被告だけが控訴すれば、主位的請求は控訴審の審判の対象になりません
判例は、主位的請求を棄却し予備的請求を認容した第一審判決に対し、第一審被告だけが控訴し、第一審原告が控訴も附帯控訴もしない場合には、主位的請求に対する第一審の判断の当否は控訴審の審判の対象とならないとしました(最判昭和58年3月22日)。主位的請求も移審はしますが、原告が自ら不服を申し立てていない以上、審判の範囲には入らないからです。そのため、控訴審が予備的請求に理由がないと判断すると、原告は両方の請求で負けることになります。「主位的請求を棄却し予備的請求を認容した第一審判決に対し、被告のみが控訴し、原告が控訴も附帯控訴もしないときは、予備的請求に対する第一審判決の当否のみが控訴審の審判の対象となる」という肢(R4 午後 問5 ウ)は正しいです。逆に、主位的請求を認容し予備的請求を判断しなかった判決に被告が控訴した場合は、控訴審は主位的請求を棄却したうえで予備的請求について判断できます(最判昭和33年10月14日)。予備的請求は主位的請求が認められないことを条件に審判を求めたもので、その条件が控訴審で成就したからで、相手方の同意も要りません。選択的併合で甲請求の一部を認容し残りを棄却した判決に被告だけが控訴した場合も、判例は、控訴審が甲請求の認容部分を取り消すべきときは乙請求の当否を審理判断し、理由があれば第一審の認容額の限度で乙請求を認容すべきであるとしました(最判昭和58年4月14日)。
明示の一部請求で控訴審の相殺の抗弁が認められても、残額が認容額を超えるなら控訴棄却でよく、不利益変更禁止に反しません
判例は、明示の一部請求で相殺の抗弁に理由があるときは、まず債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定し、一部請求額が残存額の範囲内なら請求をそのまま認容するとしました(外側説)。そのうえで、一部請求を認容した第一審判決に被告だけが控訴し、控訴審で新たに主張された相殺の抗弁に理由がある場合に、残存額が第一審の認容額を超えるとして控訴を棄却しても、不利益変更禁止の原則に反しないとしました(最判平成6年11月22日)。相殺の既判力は相殺をもって対抗した額に限られ、残存額が一部請求額を超える部分の自働債権の存否には既判力が生じないからです。また判例は、和解による訴訟終了宣言判決は訴訟の終了だけを既判力で確定する訴訟判決なので、これに被告だけが控訴した場合に、控訴審が第一審判決を取り消して請求の一部を認容する本案判決をすることは、不利益変更禁止の原則に反し、控訴を棄却するほかないとしました(最判平成27年11月30日)。
筆界確定の訴えと合一確定が必要な訴訟では、不利益変更禁止の原則が働かない場合があります
筆界確定の訴えは、裁判所が当事者の主張に縛られずに正しい筆界を定める形式的形成訴訟で、処分権主義が働きません。判例は、第一審判決の定めた境界線を控訴裁判所が正当でないと認めたときは、自ら正当とする線を境界と定めるべきで、その結果が控訴人に不利で附帯控訴をしない被控訴人に有利であっても構わず、不利益変更禁止の原則の適用はないとしました(最判昭和38年10月15日)。控訴審は、第一審判決が定めた筆界よりも控訴人に不利な筆界を定めることもできます。合一確定が必要な訴訟でも、確定の要請が優先します。独立当事者参加について、判例は、原告だけの控訴でも合一確定に必要な限度で第一審判決を参加人に不利に変更できるとしました(最判昭和48年7月20日)。共同相続人の一人が他の共同相続人を被告として相続人の地位不存在の確認を求める訴えは固有必要的共同訴訟で、一方を認容し他方を棄却する矛盾した判決がされた場合、判例は、原告が上訴・附帯上訴をしていなくても、上訴審は合一確定に必要な限度で、棄却された共同被告に関する部分をその者に不利益に変更できるとしました(最判平成22年3月16日)。
民事訴訟法 第304条(第一審判決の取消し及び変更の範囲)
第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
最判昭和61年9月4日訴求債権が有効に成立したことを認めながら、被告の主張する相殺の抗弁を採用して原告の請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴し被告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において、控訴審が訴求債権の有効な成立を否定したときに、第一審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることは、民訴法一九九条二項(現行一一四条二項)に徴すると、控訴した原告に不利益であることが明らかであるから、不利益変更禁止の原則に違反して許されない
試験ではこう問われる
- 第一審判決の取消し・変更は不服申立ての限度でのみでき、原告が棄却部分の一部だけを控訴すれば、それを超えて認容できない(304条。R4 午後 問5 オ ×)
- 主位棄却・予備認容の判決に被告のみ控訴すれば、予備的請求の当否だけが審判の対象になる(最判昭和58年3月22日。R4 午後 問5 ウ ○)
- 訴訟要件の欠缺は職権調査事項なので、原告だけの控訴でも訴えを却下できる
- 予備的相殺で請求棄却→原告のみ控訴→控訴審が訴求債権不存在と判断しても控訴棄却にとどめる(最判昭和61年9月4日)
- 明示の一部請求で控訴審の相殺に理由があっても、残存額が認容額を超えれば控訴棄却でよい(最判平成6年11月22日)
- 筆界確定の訴えには不利益変更禁止の原則が適用されない(最判昭和38年10月15日)
- 独立当事者参加・固有必要的共同訴訟では合一確定に必要な限度で不利益に変更できる(最判昭和48年7月20日・最判平成22年3月16日)

