既判力の客観的範囲(主文と理由中の判断)きはんりょくのきゃっかんてきはんい
既判力の客観的範囲とは、確定判決のどの判断に既判力が生じるかの範囲で、主文に包含するもの、つまり訴訟物である権利関係の存否の判断に限られます(114条1項)。前提問題として理由中で判断した所有権や抗弁の成否には既判力は生じず、例外は相殺の抗弁の判断だけです(同条2項)。
所有権に基づいて土地の明渡しを求めて勝ったとき、判決の理由には「原告が所有者である」と書かれます。しかし判決が答えたのは「明け渡せ」という請求であり、所有権そのものの確認を求められたわけではありません。理由の判断にまで既判力を認めると、当事者が軽く考えていた前提問題で思わぬ拘束を受けますし、審理も硬直します。そこで既判力は主文の判断、つまり訴訟物の存否に限られています。前提問題を確定させたい当事者は、中間確認の訴えを起こせばよいのです。

既判力は主文に包含するもの、つまり訴訟物の判断にだけ生じ、判決の理由中で判断した前提問題には生じません
確定判決は、主文に包含するものに限り既判力を持ちます(114条1項)。主文に包含するものとは訴訟物である権利関係の存否の判断で、その前提として理由中で判断した権利関係や事実、抗弁の成否には既判力は生じません。審理の対象を当事者が設定した訴訟物に限ることで、当事者は前提問題で譲歩したり争点を絞ったりでき、審理を柔軟にできるからです。前提問題を既判力で確定したい当事者は、中間確認の訴え(145条1項)で前提の権利関係を訴訟物にできます。判例も、所有権に基づく物上請求の判決で所有権の存在についてまで既判力があるとしたのは誤りだとしています(最判昭和30年12月1日)。所有権に基づく引渡請求でXの所有権を認めて請求を認容した判決の確定後、Yが同じ物について所有権確認を求めても、既判力は及びません。
- 所有権に基づく引渡請求・明渡請求の判決引渡請求権・明渡請求権の存否に既判力が生じ、理由中の所有権には生じません
- 抹消登記請求の判決抹消登記請求権の存否に既判力が生じ、理由中の所有権には生じません
- 所有権確認の棄却判決原告が所有権を有しないことに既判力が生じ、被告の所有権は確定しません
- 債務不存在確認の認容判決被告の債権が存在しないことに既判力が生じます
- 請求棄却の理由になった抗弁(弁済・錯誤など)理由中の判断で既判力は生じません。例外は相殺の抗弁です(114条2項)
所有権に基づく明渡請求や抹消登記請求の理由中で判断した所有権は、後訴で別の結論になっても既判力に反しません
所有権に基づく建物の明渡請求が、Xの所有権の取得が認められないとして棄却された後に、Xが同じ取得原因を主張して所有権の確認を求めても、前訴で確定したのは明渡請求権の不存在だけです。後訴裁判所がXの請求を認容しても既判力に反しません。贈与の不存在を理由とする抹消登記請求の認容判決の理由中でXの所有権を認めていても、Yは土地の明渡しを求める後訴でYの所有を主張できます。「所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した確定判決は,当該所有権の存在について既判力を有する」という肢(R2 午後 問5 イ)は誤りです。所有権に基づく保存登記の抹消登記請求の認容判決の確定後に、Yが基準時前の相続による所有権取得を理由に所有権の確認を求め、後訴裁判所がこれを認容しても、所有権の判断は前訴の理由中のものなので既判力に抵触しません。売買を理由とする移転登記請求の認容判決の確定後に、売主が錯誤を主張して自分の所有権の確認を求める後訴にも、前訴の既判力は作用しません。錯誤による無効の主張が「錯誤がない」として退けられ抹消登記請求が棄却された後、売買に基づく引渡しを求められた後訴で錯誤を主張することも、錯誤の判断が理由中のものなので既判力に抵触しません。出題当時の錯誤の効果は無効でしたが、現行の民法95条1項では取消しであり、理由中の判断にとどまる点は変わりません。

確認判決の既判力は訴訟物である権利の存否だけを確定し、所有権確認の棄却判決は被告の所有権までは確定しません
確認の訴えに対する本案判決は、認容でも棄却でも訴訟物である権利関係の存否を確定します。債務不存在確認の請求を認容する判決が確定すれば、被告の債権が存在しないことが既判力で確定されます。一部認容のときも同じで、「当該確定判決は,当該 150 万円の貸金債務のうち 50 万円の債務の存在と 100 万円の債務の不存在について既判力を有する」という肢(R2 午後 問5 オ)は正しいです。賃料増減額の確認判決も、特段の事情がない限り、増減請求の効果が生じた時点の賃料額について既判力を持ち、「前提である借賃増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について既判力を有する」という肢(R8 午後 問4 オ)は正しいです。これに対し、土地の所有権確認の請求を棄却する判決が確定しても、確定するのは原告が所有権を有しないことだけで、被告が所有権を有することは確定しません。他に所有者がいる可能性もあるからです。したがって、所有権確認で敗訴したXは、Yが自分の所有権の確認を求める後訴で、Yの所有権を争うことができます。
訴訟物が同じなら別の法的根拠や事実を持ち出しても既判力に反し、所有権確認の棄却後の基準時前の事由による共有持分の主張も遮断されます
既判力は訴訟物の判断に生じるので、同じ訴訟物について前訴で主張しなかった別の根拠を持ち出して争い直すことは許されません。売買の詐欺取消しを理由とする代金相当額の不当利得返還請求が棄却された後、同じ売買の通謀虚偽表示による無効を理由に同額の不当利得返還を求める後訴は、訴訟物が同じ不当利得返還請求権なので、認容すれば既判力に反します。これに対し、Yの支払が弁済に当たるとして貸金請求が棄却された後に、Yが支払の前に債務免除があったとして支払額の不当利得返還を求める後訴は、前訴の訴訟物(貸金返還請求権)と後訴の訴訟物(不当利得返還請求権)が別で、弁済の判断は理由中のものなので、後訴裁判所が請求を認容しても既判力に反しません。所有権確認の請求棄却が確定した後に、同じ原告が基準時前の相続による共有持分の確認を求めることについて、判例は、共有持分は所有権の一部であり、基準時に原告が所有権を有しないという判断と抵触するので既判力に反するとしました(最判平成9年3月14日)。
民事訴訟法 第114条第1項確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
試験ではこう問われる
- 所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した判決は、所有権の存在について既判力を有しない(R2 午後 問5 イ ×)
- 債務不存在確認の一部認容判決は、残る債務の存在と超える部分の不存在について既判力を有する(R2 午後 問5 オ ○)
- 賃料増減額の確認判決は、特段の事情がない限り、増減請求の効果が生じた時点の賃料額について既判力を有する(R8 午後 問4 オ ○)
- 賃料支払請求の棄却判決の理由中で賃貸借契約の存否を判断しても、その判断に既判力は生じない(H29 午後 問4 オ ○・出題当時)
- 所有権確認の棄却判決は原告の所有権の不存在だけを確定し、被告の所有権は確定しない
- 詐欺取消しを理由とする不当利得返還請求の棄却後、通謀虚偽表示を理由に同じ不当利得を請求するのは既判力に反する
- 所有権確認の棄却後、基準時前の相続による共有持分の確認を求めるのは既判力に抵触する(最判平成9年3月14日)

