特別の事情による保全取消しとくべつのじじょうによるほぜんとりけし
特別の事情による保全取消しとは、仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるときその他の特別の事情があるときに、仮処分命令を発した裁判所又は本案の裁判所が、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことで(39条1項)、特別の事情は疎明しなければなりません(同条2項)。
特別の事情による保全取消しは、仮処分命令が正しく発せられていても、その仮処分によって債務者に償えないほどの損害が出るときに、債務者が担保を立てて仮処分を外してもらう手続です。被保全権利があるかどうかを争うのではなく、債権者と債務者の損害の重さを比べる仕組みです。

民事保全法 第39条第1項仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるときその他の特別の事情があるときは、仮処分命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことができる。
対象は仮処分命令だけで、債務者が担保を立てることを条件に取り消されます
39条1項は、仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるときその他の特別の事情があるときは、仮処分命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことができるとしています。H27 午後 問6 オ はこのとおりの記述で、正しいとされました。仮差押えは金銭債権を守るもので、仮差押解放金を供託すれば執行が外れるので(22条・51条)、この取消しの対象になっていません。
特別の事情は疎明し、取消しは担保を立てることが条件です
特別の事情は疎明しなければなりません(39条2項)。取消しの決定は、債務者が担保を立てることを条件とします(39条1項)。この担保は、仮処分が取り消されたことで債権者が受ける損害に備えるものです。事情の変更による取消し(38条)が、被保全権利や保全の必要性がなくなったことを理由とするのに対し、特別の事情による取消しは、それらが残っていても損害の重さを理由に取り消す点で違います。

仮処分解放金とは、仮処分命令の中で定めるか、後から取消しを申し立てるかで違います
仮処分解放金は、保全すべき権利が金銭の支払で目的を達せられるときに、裁判所が仮処分命令の中で定めておくものです(25条1項)。特別の事情による保全取消しは、仮処分命令が発せられた後に、債務者が申し立てて取り消してもらうものです。どちらも債務者がお金を出して仮処分の拘束を外す点は似ていますが、根拠も手続も別です。決定には理由を付し、当事者に送達します(39条3項・16条本文・17条)。
審理には当事者双方が立ち会える期日が要り、取消しの決定には保全抗告ができます
保全異議の審理の規定は保全取消しに準用されるので(40条1項)、特別の事情による保全取消しの決定も、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければなりません(29条)。仮処分命令を取り消す決定では、債権者が仮処分命令に基づいて受けた物や金銭の返還を命ずる原状回復の裁判もできます(33条)。取消しの決定にも、取消しの申立てを却下する決定にも、送達を受けた日から2週間の不変期間内に保全抗告ができます(41条1項)。
三つの保全取消しは、対象、申立先、裁判所の裁量、担保の扱いで違います
- 本案の訴えの不提起等による取消し(37条)すべての保全命令が対象。保全命令を発した裁判所が、書面の不提出があれば取り消さなければならない
- 事情の変更による取消し(38条)すべての保全命令が対象。発した裁判所又は本案の裁判所が取り消すことができる。事情の変更は疎明する
- 特別の事情による取消し(39条)仮処分命令だけが対象。発した裁判所又は本案の裁判所が、債務者が担保を立てることを条件に取り消すことができる。特別の事情は疎明する
保全執行の停止の裁判(27条1項・40条1項)も「償うことができない損害」を要件にしますが、これは取消しの申立てについての決定が出るまでの間だけ執行を止める仮の手当てで、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情の疎明も要ります。特別の事情による保全取消しは、仮処分命令そのものを取り消すもので、取消しの原因が仮処分命令の当否にあることは求められず、債務者の損害の重さと担保の提供で取消しを認めます。
試験ではこう問われる
- 特別の事情があるときは、仮処分命令を発した裁判所又は本案の裁判所が、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件に仮処分命令を取り消せる(39条1項。H27 午後 問6 オ ○・出題当時)
- 特別の事情による取消しの対象は仮処分命令で、仮差押命令は対象にならない(39条1項)
- 特別の事情は疎明しなければならない(39条2項)
- 事情の変更による取消しと違い、被保全権利や保全の必要性が残っていても取り消される(38条・39条)

