事情の変更による保全取消しじじょうのへんこうによるほぜんとりけし
事情の変更による保全取消しとは、保全すべき権利若しくは権利関係又は保全の必要性の消滅その他の事情の変更があるときに、保全命令を発した裁判所又は本案の裁判所が、債務者の申立てにより保全命令を取り消すことで(38条1項)、事情の変更は疎明しなければなりません(同条2項)。
事情の変更による保全取消しは、保全命令が発せられた後に、その命令を維持する理由がなくなったときに債務者が取消しを求める手続です。債務者が弁済して被保全債権が消えた場合や、本案で債権者が負けた場合がその例です。

民事保全法 第38条第1項保全すべき権利若しくは権利関係又は保全の必要性の消滅その他の事情の変更があるときは、保全命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができる。
取消しの理由は、被保全権利の消滅に限られず、保全の必要性の消滅その他の事情の変更を含みます
38条1項は、取消しの理由を「保全すべき権利若しくは権利関係又は保全の必要性の消滅その他の事情の変更」としています。被保全権利が消滅したときに限られないので、保全すべき権利又は権利関係が消滅したときに限り保全命令を取り消せるとした肢(H27 午後 問6 エ)は誤りでした。申立先は、保全命令を発した裁判所又は本案の裁判所です(38条1項)。事情の変更は疎明しなければなりません(38条2項)。

本案で債権者が敗訴し、その判決が上級審で取り消されるおそれがないときも、事情の変更に当たります
本案の第一審で債権者が敗訴しても、判決はまだ確定していません。それでも、その判決が上級審で取り消されるおそれがないと判断されるときは、被保全権利が存在しないことが明らかになったといえるので、事情の変更として保全命令を取り消すことができます。「仮処分命令が発せられた後に、債権者がその本案訴訟の第一審において敗訴の判決を受け、債務者が当該仮処分命令を発した裁判所に事情の変更による保全取消しを申し立てた場合において、裁判所は、当該第一審の判決が上級審において取り消されるおそれがないと判断するときは、当該仮処分命令を取り消すことができる」という肢(R8 午後 問6 オ)は正しい記述です。判例は、仮処分の債権者が本案で敗訴の判決を受けた場合には、その確定前でも、本案判決が上級審で取り消されるおそれがないと判断するときは、事情の変更があったものとして仮処分を取り消すことができるとしています(最判昭和27年11月20日)。
保全異議と違い、保全取消しは発令後の事情を理由とし、本案の裁判所にも申し立てられます
保全異議は、保全命令を発した裁判所に、その命令の当否を改めて審理させる手続です(26条・32条1項)。事情の変更による保全取消しは、保全命令が発せられたことを前提に、その後の事情によって命令を維持できなくなったことを理由とします。本案が係属している裁判所でも判断できるように、申立先に本案の裁判所が加えられています。決定には理由を付し(38条3項・16条本文)、当事者に送達します(38条3項・17条)。担保を条件とする決定もでき(38条3項・32条2項・3項)、保全執行の停止の裁判や審理の方式などの保全異議の規定も準用されます(40条1項)。
起訴命令による取消しとは、裁判所の裁量と申立先が違います
起訴命令に従わないことによる取消し(37条3項)は、要件を満たせば裁判所が保全命令を「取り消さなければならない」もので、申立先は保全命令を発した裁判所です。事情の変更による取消し(38条1項)は、裁判所が「取り消すことができる」もので、保全命令を発した裁判所のほか本案の裁判所にも申し立てられます。保全命令を取り消す決定では、効力の発生を2週間を超えない範囲で遅らせる宣言ができ(40条1項・34条)、仮処分命令を取り消すときは原状回復の裁判もできます(40条1項・33条)。
試験ではこう問われる
- 事情の変更による取消しの理由は、被保全権利の消滅に限られず、保全の必要性の消滅その他の事情の変更を含む(38条1項。H27 午後 問6 エ ×・出題当時)
- 本案の第一審で債権者が敗訴し、その判決が上級審で取り消されるおそれがないときは、事情の変更として保全命令を取り消せる(38条1項、最判昭和27年11月20日。R8 午後 問6 オ ○)
- 申立先は、保全命令を発した裁判所又は本案の裁判所である(38条1項)
- 事情の変更は疎明しなければならない(38条2項)
- 審理には、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日が要る(40条1項・29条)
この用語が問われた肢
仮処分命令が発せられた後に、債権者がその本案訴訟の第一審において敗訴の判決を受け、債務者が当該仮処分命令を発した裁判所に事情の変更による保全取消しを申し立てた場合において、裁判所は、当該第一審の判決が上級審において取り消されるおそれがないと判断するときは、当該仮処分命令を取り消すことができる。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

